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The eternal train  作者: 齋藤翡翠
6/10

Honesty is the best policy.

間もなく――第6話が発車―致します。


お乗りの際は、足元に気をつけてお乗り下さい。



只今より発車――します。

見えるもの、見えないもの。そんなの誰だって気づいてた。そこにあるようで、無いんだってーーー。




この世界は嘘で出来ている。

俺はそう思う。



勉強をまともにやらず、遊び呆けている奴。


真面目ぶって先生に胡麻擂()ってる奴。


苛められるのが怖くて、苛める奴に荷担して苛められてる奴を傍観してる劣弱な奴。


皆皆、下らない。


嘘で成り立っているこの日々は、実に憐れな事だ。


俺は上手くそんな嘘だらけの世界を生きている。


(すい)君、凄いね!」


「陣内、ここ教えてくれないか?」


クラスメイトの受け答えに応じ、先生にもそれなりに親しくしている。


勉学は上々、運動も抜群、芸術面もそれなりに出来る。


自分に出来ないことは、(あま)すこと無く出来るように励んだ。


努力の賜物だ。


でも俺は日常に満足していなかった。


どんなに楽しい時でも、俺の心にはポッカリ穴が空いていた。


その穴を埋める物は何一つ無かった。

否、無いことは無いのだ。


だが、それはきっと願っても叶わないことだから。

その無駄な思いに蓋をした。


*******************


「…何処だよ、ここ。」


気がつくと知らない場所に居た。


抽象的に言うと真っ白な空間。


具体的に言うと、真っ白な霧の中にあるこれまた白い駅に俺は居る。


何か違和感を覚えて、俺は駅の外に出た。


そこには想像もし得なかった景色が広がっていた。


無いのだ、何も。


家も店も人も、犬一匹さえも。

ある筈の街並みは全く見当たらない。


霧が深くて見えないのもあるかも知れないが、それでも見える範囲の何処にも何も無いのは可笑しい。


再び駅の方に入る。


「!?」


いつの間にか、フシューと蒸気音を立てて電車が停車していた。


青と白のツートンカラーの電車。


ガタタンと電車の扉が開く。


まるで、俺を待っていたかのようだった。


それに引き寄せられるように、俺は電車に乗った。


わかっている罠に、自ら嵌まりに行ったような気分だった。


俺が乗ったのを悟って、電車の扉は閉まり走り出す。


「あれ……何で俺はこの電車に乗ったんだ…?」


「それは貴方が望んだからよ。」


誰も乗っていなかったと思ったのだが、直ぐ後ろの席に黒髪の少女が座っていた。


独り()ちたつもりが、返事が返ってきたので驚き振り返る。


「!?……君は?」


「私はこの電車の管理人。」


自分とは変わらないくらいだろうか。

でも、少し大人っぽいその少女は静かに答えた。


「今日は分かりやすい人が来たわ。」


「は?分かりやすい?」


訳のわからない事を口にする少女に戸惑いながら、隣の席に座る。


「君は可笑しな事を言うんだね。変わった人だ。『分かりやすい人』なんて初めて言われたよ。」


今までの不思議な出来事を忘れて、少女と話始めた。


「貴方、学生さんね。その学ラン見たことあるわ。確か有名な中学校で、入るのが難しい所。」


興味深そうに俺を見てから少女はそう言った。


「ああ、まあね。それ程凄いことでもないよ。上にはもっと上が居るし。」


自慢することは無い。

そういうのは嫌いだし、したくない。


「ねぇ、その腕の傷は?」


少女は俺の左腕を指差して不思議そうに言った。

不思議そうと言っても、表情は何一つ変わってなかったが。


俺は虚を衝かれて、すかさず包帯を巻いている腕を隠すように右手で押さえた。


「これは……ちょっと怪我してさ…。そんなに深い傷じゃないから大したものじゃないよ。」


冷や汗をひっそりと流しながら、俺はこれ以上言及されないように振る舞った。


「そう……」


聞かれずに済んで、一先ず心の中で胸を撫で下ろす。

一息吐いて、疑問を少女に打ち明けた。


「この電車は何処に向かっているの?」


俺の方を向いていた少女は、正面を見てポソリと呟いた。


「……還るべき場所。」


「かえるべき……場所?」


鸚鵡(おうむ)返しする俺に、少女は続けて話した。


「嘘を吐くべきでは無いわ。他人には勿論だけど、自分自身にもね…。」


電車が突然急停車した。

そして扉が開くことなく、進んでいた方向とは逆向きに走り出した。


「なっ!どうなってんだ!」


『えー只今からぁー、回送致します。』


アナウンスが鳴って、回送の知らせを伝える。


「貴方は気づいているんでしょう?自分がしたこと。覚えているでしょう?自分が何者なのか。」


少女は問い質すようにまた訊いた。


「貴方の名前は?その腕は何をして怪我をしたの?」


「……」



暫く黙っていたが、俺は話始めた。


「俺は陣内穂(じんないすい)。この傷は……自分で傷つけた。」


包帯をシュルシュルとほどいていく。

見るに耐えない無数の切り傷の痕が現れる。

自虐行為(リストカット)だ。


「何でこんなことを?」


「もう疲れたんだよ、全てに。嫌気が差したんだ。」

毎日毎日、褒められるように取り繕って両親や大人たちの良いように動いた。


そうすれば、あの世界で上手く生きていられるから。

皆笑ってくれるから。

そう思って、自分が出来ることをやり尽くした。


だけどそれはただの虚栄でしかなかった。

逆に、息が出来ないくらいの不快感を生み出す物でしかなかった。


何時しか隠していた自分が、心の奥底で叫び始めていた。


こんなのは自分では無い、と。


そして生きる実感が湧かなくなった時、俺はカッターを手にしていた。


刃を皮膚に当てて滲み出す赤い液体を見る度、痛みを感じる度に自分が「生きている」という確認をした。


だけど、それだけでは留まらなかった。


俺は思い切り腕を掻っ切った。


そこで記憶はあの白い駅に飛んだ。



それを思い出すと、腕の比較的新しい一番大きな傷から血が溢れだした。


「あ……ああああ!!」


「落ち着いて、それは貴方の記憶が見せている幻像。直ぐに収まる。」


少女は何とも無さそうに教えた。


落ち着いてみると、傷から溢れ出す血は消えた。


鎮まった俺を感知して、少女は話に戻った。


「…そんなに自分を傷つけて、何が良いの?」


「違う、俺を駄目にしたのはあいつらだ。汚い大人たちだ。」


嘘の世界で永遠に仮面を被り続けて、作った笑みを湛えるあいつらは、卑怯で憐れだ。


「大人は時に汚い。確かにそうだわ。だけど本当にそれだけ?」


少女は光の無い瞳で、鋭く俺の心を見透かすように見つめる。


そうだ、彼女の言う通り原因はもっと別の根底にあった。



一番憐れなのは俺だった。


誰かが言う優等生な俺を演じて仮面を被っていたのは、俺自身だった。


本当は羊頭狗肉なのに……誰もそんな俺を認めてくれなかった。


「認めてくれなかったんじゃ無くて、そう決めつけたんじゃないの、貴方が。」


「五月蝿い!俺を責めるな!俺は悪くない、間違ってなんか……」


「『決める』に『つける』は要らない。決断には『諦め』じゃなくて『覚悟』が必要なの。」


少女は否定する俺の言葉を遮って言った。

そして始めから悟っていたかの如く、驚愕の事を口にした。



「貴方、本当は女子なんでしょ?」


俺は目を見開いた。

まさか、バレてるなんて思いもしなかった。


今までずっと隠してきたことを。


「な…んで、分かって……」


「始めに言ったでしょう。"分かりやすい人"だって。」


さらりと沈着に言うので、俺はポカンとするしかなかった。


「貴女は…私を見ているようで嫌になるわ。」


「え?」




「私に似てるから、分かりやすくて焦れったい。」


「俺が……君に?」


この少女がどんな人間(ひと)かは分からない。


第一印象は真顔で何を考えているか分からない、凄く冷徹な感じだった。


だけど、何だろう。

光の無い瞳にも何か温かみがあるような……何かを知っているような、今はそんな気がする。



そんな少女と俺が似ているだなんて。


「君は……何を知っているの?…本当に……何者なんだ?」


「……」


少女は何も言わなかった。

それは禁忌だと言うように。


「…もうすぐ着くわ、貴女の還るべき場所に。」


聞こえるか聞こえないかくらいの声で、少女は囁いた。


すると、電車は俺が乗った時の駅に停車した。


「きっと、やり直せる。今度は自分を大切に、自分らしく生きればいい。」


少女は俺を扉のところまで押した。


「な、何!?」


思わず後ろに押し返すが、案外少女の力は強くびくともしない。


「……さよならの前に、この傷は消すべきね。」


扉と後十センチというところで、少女は押すのを止め、そっと俺の腕の傷に触れた。


「っ!?」


触れた所がパアッと光ったと思うと、傷痕は綺麗さっぱり消えていた。


「傷が、無い……」


その事に驚異している隙をついて、少女は背中を押した。


「またのご利用、お待ちしております」


「うあ!」


俺の体は電車の扉を通り過ぎた。


「今度は遅くに来てね。」


足元から少年のような声が聞こえた。

あのアナウンスの声が。


そこで記憶は途絶えた。


*******************



次に瞼を開けた時、見えたのは白い天井。


そして、アルコールと薬っぽい独特の匂いが鼻を通る。


「穂?穂!目が覚めたのね!?」


側で母が手を握り話し掛けた。


「母さん……」


「穂!どうしたのよ、貴方。貴方は陣内家の大事な跡取りなんだから、こんな……傷をつけちゃダメよ…って、あら?」


腕にはもう傷痕は無かった。

うっすらとではあるが、よく見ないと分からない程度になっている。


「さっき運ばれた時にはあったのに……お医者様が綺麗に治して下さったのかしら…いや、でも……」


もごもご言う母に、俺は切り出した。


「母さん、お……私、もう男子の振りはやめる。」


「え?……どうしたの、急に。陣内家の跡取りになるには、男子の子じゃないといけないって…貴方分かって言ってるの?」


母は信じられないといった風に首を横に振る。


「何を考えてるか分からないけれど、止めなさい、馬鹿な考えは……」


「母さんには"馬鹿な考え"かも知れないけど、私には今までが苦痛だったんだよ。もう決めたんだ。『自分には嘘を吐かない』って。」


「……」


母は開いた口が塞がらないって顔をして、私を見つめていた。


「跡取りのことは一応考えるから。もう少し私に選択肢をくれないかな。」


暫く難しい顔をして沈黙を放った後、母は観念したように答えた。


「悪かったわ、貴女をここまで追い詰めているとは思ってなかった。跡取りの事なんか本当はどうだっていいの。貴女の意見が第一ですもの。貴女のしたいように、好きにしなさい。」


意外な母の言葉に思わず喉が詰まる。


「……ありがとう。」


「や、やだ。穂、泣いてるの?ほら、拭いて。」


母の手からハンカチを受け取り、溢れる涙を拭った。



その時、ひらりと何かが落ちた。


『最後のご利用、お待ちしております』


それは、小さな名刺程の紙。


いつかまた、あの電車に乗るために必要なもの。


*******************


「メル、あの子女の子だったんだね。何で分かったの?」


ルアーがメルに訊いた。


「……女の勘。」


「何それ、何かカッコいいんですけど。」


ルアーが横目で羨ましそうに言った。


「メルはさ、あの子と自分が似てるって言ってたけど……メルはどんな子だったの?」


「……さあ。」


生返事を返しただけで何も教えないメルに、嫌気が差してふて腐れるルアー。


「どうせ、僕はダメ猫だーい。」


「一つだけ……」


メルが呟いた。


「一つだけ言えるとしたら、つまらない人間だったわ。」


「つまらない、人間……?」


ルアーはこてっと首を傾げる。


「それだけ?」


「それだけよ。」


すると、ルアーは純粋な気持ちでメルにこう言った。


「僕はそんなこと無いと思うけどな―」


「そんなこと言ったって、何も出ないわよ。」


「本心ですので。」


「……そう」と返すメルの目は少し揺れていた。


「それにしても、何時になったら僕たちは還れるのかなぁ。」


ルアーの独り言は宙に舞って消えた。



電車は走り続ける。終わりの無い線路の上を。

果てない願いを乗せて。


――――第6話END――――

ご乗車ありがとうございました。



端的に話がパッパッと書けているので、いい感じ!と自己満足しています。


このお話も大分最後の方に差し掛かってきました。


早く終わらせたい。

もう最後(ゴール)が見えている私的には、早く終わらせたい!



長々とした話なので、読むのが大変だとは思いますが、最後までついてきてくれると幸いです。


では、また次話で!

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