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The eternal train  作者: 齋藤翡翠
4/10

Time is the great healer.

年の瀬にこっそり投稿w



第4話は冬なのに何故かホラーを書いてしまいました…。



まぁ、色々繋がりが見えてくるのでお楽しみ頂けると思います。




泣いてなんかないよ、泣いちゃいけないんだ。だって僕の涙は、偽りの涙なんだからーーー。




何が起こったんだろう。よくわからない。

ただただ、俺の手が恐怖に震えているという意識が強くある。


「…俺は一体、何をしたー?」


気づいたら、見知らぬ駅のプラットホームで倒れるように眠っていた。


隣には女性が一人、俺と同じく倒れて寝ていた。

彼女は俺が起きてしばらくして、目覚めた。


「…何?ここ…あなたは?」


「俺にもわからない。よくわからないんだ…思い出せない…。」


そう言えば、俺は誰だ?名前はー…何だっけ?


「俺、どうしたんだろ。自分の名前すらわからないなんて…!…そういう君は?」



「…私は、私は………わたし?」


彼女は名前を言おうとしていたが、首を捻ったまま黙ってしまった。


どうやら、彼女も同じようだ。


駅の周辺に何かないかとうろついたが、地平線がただ続いて見えるだけだった。


その景色に自分の名前を忘れた俺は、いや忘れてしまっている俺でさえ違和感を覚える。


「何だよ…ここ…?」


駅と線路意外、街らしいものも、一軒家さえも何もないその空間は、異次元の世界に飛び込んだとしか思えないものだったー。



ーガタン、ゴトッ、ゴトトト…ー



茫然とへたりこんでいると、電車が近づく音が聞こえてきた。

やがて、軋む音を立てて停車する。


ーキィーキキキィーッー…



停まった電車の車体は青と白のツートンカラーをしている。


目の前の車両の小窓から電車の中を見たが、誰一人として人は見当たらなかった。



ーー空は真っ昼間みたいに明るいのに、なぜ誰も乗ってないんだ?



「…ねぇ」


「え?」


色々と思いを巡らせていると、ふと隣で突っ立っていた女が話しかけてきた。


「乗りましょうよ、電車。」


「…どうして?」


「こんなところにずっと居たって何もならないじゃない。」


(それもそうか…)



「乗るだけ、乗っても損はないよな…」


そう彼女の意見に相づちを打ちながら、彼女と一緒に電車に乗った。



プシューッ、と音を立ててドアが閉まり、アナウンスが車内に響く。



『次はー、深瀬、深瀬ーです』



「ねぇ?!今の聞いた?」



「えっ?あぁ…。」



「何とぼけてるの!アナウンスが鳴るってことは、車掌さんが居るってことじゃない?!」



「…無人の電車じゃないってことか!」



「そうよ!もしかしたら、車掌さんならこの変な状況の何かを知ってるかもしれない!」



行きましょ!と言って俺の腕を引っ張りながら、車両の先頭へと向かう彼女。



(あれ、何かこの感じー…)



ー…デジャウ…か?




そして、着いた先頭車両の扉を開けると…




「えっ」




たった一人だけ、長い黒髪の少女が静かに座っていた。




「お、女の子?」




俺たちが入ってきたことに気づいていないのか、座ったまま真っ直ぐ前を見つめる少女。




中学生くらいの年齢に見えるが、よく見るとはっきりとした顔立ちで大人っぽい。



でも、何だか身動きが出来ない人形のようで、少し怖くも思う。



「…何見とれちゃってるのよ」



と隣で様子を窺っていた彼女が俺の脇腹を小突いた。



ちげーよ!と小声で答える俺に彼女はフフン?どーだか、と含み笑いした。




「ねぇ、ちょっといいかしら?」


気づけば、早くも彼女は少女に話し掛けている。


「あなた、一人?他に乗車してる人はいないの?」



すると、目の前の女性にやっと気づいたのか、驚いたのか、瞬きをして少女は答えた。


「いいえ、一人じゃないわ。」



「え?じゃあ他に誰が居るって言うの?」



「運転手と…あなたたちが居るじゃない。」



何とも天然と言うのか、変な答え方をする少女だ。



「まぁ、そうなんだけど…他に客がいないっていうのはおかしいなぁって話なのよ?」



彼女の言う説明にやっと理解したのか、あぁ。と声を漏らす。



「また、来たのね。稀な人が。」


ーーマレなヒトーー?



「そうね…乗客は少ないわ。そのうち増えるでしょうけど。」



少女は淡々と話した。



「…君はこの電車よく乗るの?」



電車のことをよく知っている風に言うので、俺は尋ねてみた。



「よくと言うかー…ずっとここに居るわ。」



「「ずっと?!」」



俺たちは少女の答えに声を上げた。それも揃って。



「あぁ!もしかして、あなたが車掌さん?」



と思いついたように彼女が言ったが、少女は首を横に振る。



「いいえ、私はこの電車の管理人。車掌は他に居るわ。」



「そ、そうなんだ…」


確かに、先程運転手が他に居ることを思わせる発言があった。



「じゃあ、この奥に居るのね?」



と女性は運転席の部屋と思われる扉に手をかける。




『間もなく深瀬ー深瀬ーです』


アナウンスが再び鳴り、電車が速度を落としていくのを確認し、彼女は扉を開けた。




「にゃ?!」




「へ?」




そこにはー…一人…ではなく一匹の猫が居た。



「ね、ね、ね、猫ぉーー?!」



「なっん゛だよこの人たち!!ちょっと!メル!!乗客にここ開けさせちゃダメでしょ!何で止めないの!!」



と、運転していたらしい黒猫は怒り心頭といった口調で喋る。



「しゃ、喋った!ね、猫がっ!」



開いた口が塞がらないとはこの事かもしれない。俺たちは、暫く漠然としていた。


メルと呼ばれた少女は驚く二人にこれといった表情も見せず、黒猫と話す。



「まぁ、いいじゃない。減るもんじゃないし。」


「いやいやいや、話の最後に運転手は猫でした!って落ちがお約束でしょ。最後の登場、正義のヒーローみたいで好きだったのにー。」



楽しみだったのにぃ~。とぶつくさ文句を言い続ける黒猫をほったらかして、少女はこちらに向き直る。



「それで、あなたたちはルアー…運転手に何か用だったの?」



ルアーと呼ばれた黒猫は、えっ、僕に用?と不思議そうに…いや、嬉しそうに言う。



「そのー、俺たち記憶がないって言うか、今の状況が理解できないって言うか…」



「猫は喋るし、人とか街は全く見えないし」



二人はこれまでのことを少女と黒猫に語った。



語った後、少女と猫は複雑そうに答えた。



「こりゃあ、まだ時間がきてないものだからなぁ。」



「…何とも言えないけど、貴方たちの疑問なら全て答えられる。だけど、その答えを今聞いても大丈夫?」



「…それはどういう意味?」



「例えば、貴方たちが思う疑問の答えがあまりにも受け入れ難くて怖いものだとしたら、それを受け止められるかって話。」


「つまり、私たちは何か良くない状況の中にいるってこと?」



「まぁ、そうゆーことだねー」



俺たちが感じてた違和感は当たっていたようだ。


しかし、恐ろしいことなのはわかっているが、俺の中では知りたいことの方が勝っていた。



「でも時間がきてないっていうことは、結局知ることになるんだろう?なら、俺は今聞いても後悔はしない。教えてほしい。」



「…」



どうやら鋭い所を突いたのか、メルは困った顔をした。

と言っても、眉根を寄せただけでほぼ真顔だったが。



「…しょうがない。貴方には知りたいこと全部話すわ。」



するとすかさず、彼女が言い寄った。



「ま待って!私にも教えてよ!」



「…わかった。貴女にも教えてあげる。」



「んじゃ、かいそー入りまーす!」



ルアーがそう言ってアナウンスを入れる。



いつの間にか停まっていた電車はゆっくり音を立てて発車した。










「さぁ、何から話しましょうか。」


「じゃあ、まずはこの電車のことから教えて」



「この電車は、輪廻の象徴ーーつまりはあの世とこの世を行き交う為の交通機関。だから、貴方たち二人は死んでいるか、死にかけている。」



「しっ?!」

「死んでる?!!」



いきなりのメルの発言に、二人は動揺を隠せない。



「この電車の行き先は、あの世ってこと?!」



「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない…」



「そこのところは、メルにも僕にもわからない」


「何で?」



「それは…」



何故か言い淀んだメルの代わりにルアーが答える。



「それを決めるのは、カミサマだからだよ。」



「カミサマってあの神様?」



「うん、フツーに神様。」



「神様なんているの?」


「いるけどねー…」

「そんなことは置いといて、まぁ貴方たちはどっちに行くのかはっきりわかってないから此処を迷っているということ。」


なんだか無理矢理、メルが言いくるめた感じがしたが、話を素直に聞くことにした。



「じゃあ、何で私たちは自分自身の記憶がないの?」



「それは此処に来た人それぞれの症状で、記憶がない人ほど“この世”で受けた傷が大きいからだと思うわ。」



「ちなみにね~、記憶を戻すと大抵の人は生きて還れるんだ。」



「え!それなら記憶の戻し方教えてよ!」



「うーん、今そうしてる最中なんだけどー…」



ルアーが唸って難しい顔をした。



「どうやら貴方たち、なかなかややこしいコト、したみたいね…」



メルがそう言った瞬間、辺りが真っ暗になった。



「っ!!」



「な、何?」

「停電か?」



「あんましというより、今回結構ヤバイねー、メル。」



真っ暗闇の中、ルアーの瞳だけがキラリと光る。



「あなた、運転しなくて良いの?」



「別に、運転しなくてもこの電車は動き続けるんだ。ただー…」



「ただ?」



「今回は例外だね。」



すると、電車は不気味な音を立てて急停車した。



ギギギギィィーイーィーーッ!!!!!



「何?!何なのよっ!!!!」



真っ暗闇の電車に女性のの叫び声が響く。



暫くの沈黙の後、静かにメルが女性に話しかけた。



「貴女、ムコウでナニをしたの?貴女の名前は?」



「はぁ?!知らないわよ!そんなこ…ッ!!」



女性は、急に黙りこんだかと思うと、また叫び出す。



「い、イヤァアアァアァァアアッ!!!!」



「どうしたんだ!!」



「来ないで!来ないで!こっちへ来るな!!化け物!!!」



暗闇なので何も見えないはずなのに、女性には何かが見えているらしい。


男も何かがこちらに来ているのかと思い、耳を澄ませて見るが、何の気配もない。



「君には一体何が見えてるんだ?」



「なな何って!あなた見えてないの?!化け物が沢山ドアから入ってきてるじゃない!!」



「暗いからよくわからないけど、何にもいないじゃないか。」



確かに、そんなものはイナイ。



だってそれはーーー…。


「ねぇ、貴方は?」



「へ?」



「貴方なら思い出せるでしょう?自分の名前。」


「俺の名前ー」



キィーーーン!



耳鳴りが鳴る。ナンダコレ?



「…あぁ、思い出した…」



「貴方は、彼女に殺されたのね。」



そう、そうだった。



「私が何したって言うのよ!!」




「俺は、俺の名前は萩野葵翔はぎのあおと。彼女の名前は今井由加里いまいゆかり。俺の婚約者だった。」




「ッ!!!」



由加里は呻き出したかと思うと、急に不気味に笑い始めた。



「ふふっ、ふふふふ…アハハハハハハハハ!」



「女の人コエー」


ルアーが呟く。



「別にあんたの婚約者とか、なりたい訳じゃないし。金さえあればそれで十分だったのにさぁ〜。あんたしつこいから、そうしてやっただけじゃん?」



さっきの怖がってた様子とは打って変わって、由加里は恐ろしい人間になっていた。



「飲み物の中にクスリを入れてやったらさ、気づいてたのかあんたも私のにクスリ入れててさー。『一緒に死のう』だって!マジないゎー!!」



「………」



「だからさ、これ何とかしてくんない?私だけ何でこんなん見えてるわけ?」



「貴女は地獄にちるみたいね」



「はぁああ?じゃあ、そいつもでしょ?!」



ルアーの目が今まで以上にギラつく。



「ざーんねん、その手には乗らないよっ!」



ガチャン!



「ぎゃあっ」



突然、由加里の足元に大きな穴が開く。


何とか穴の端に捕まったらしい、由加里は必死の抵抗をみせる。



「あなたたちもどうせ、ろくなコトしてないから此処にいるんでしょ?一緒に行きましょうよっ!」


ガシッと由加里がメルの足を掴む。



だが、その手はメルの足を通り抜けた。



「何よ、これ…!」



「悪いけど、私地獄にも天国にも、そしてこの世にも行けないの。ホント、貴女が羨ましいわ。」


由加里の体はだんだん薄らいでいる。



「…チッ、あんたなんか此処がお似合いだわ!ねぇ、葵翔。あんたは私から逃れられないわよ、きっと。」



穴はだんだん由加里を引きずり込んでいるように見える。



「また、地獄で会いましょう?」



メルは悪魔のような由加里の囁きを裁ち切るようにして言葉を放つ。



「ご利用ありがとうございました」



ギギギギィィイーーー…


ガチャン!!



電車の床にできた大きな穴は、不吉な音を響かせ閉じた。



由加里は消えたーーー。







気がつくと、辺りははじめの明るさに戻っていた。



「一件落着~ってことでいい?」



「さぁ、どうだか。」



「…」



受け入れ難いコトってこういうことだったんだなー。



「お兄さん、そんなガックリしないでさ、前向きにいかないとまた変な女に捕まるよ~」



「ルアー、余計なこと言わない。」



「ごめんなさぁーい。あっ、回送終わるよ!」



『間もなく、回送が終わりますー…』



ルアーは慌ててアナウンスを鳴らす。



「貴方は生きて還れる。だけど、多分ダメージは大きいわ。それでも、生きる希望は捨てないで。彼女のことは忘れた方が身のためね。」



そう言うと、メルは俺の額に手を当て何かを呟いた。



『終点に到着致しますー…』



やがて、電車は静かに停車した。



しかし、ドアは開かない。



「立って」



メルは俺に立つよう促すと、ドアの前まで移動した。



「これ…開かないけど?」



「大丈夫、問題ないから。」



「いや、問題あるぅわ!」



言い終えないうちに、メルは俺の背中を強く押す。



「またのご利用、お待ちしております。」



そう言い残して。










ある病室からニュースが流れている音が聞こえる。



『…ーー次は凶悪結婚詐欺事件についてのニュースです。容疑者である今井由加里氏はー』



ピッ



「関わりあるニュースが流れるって複雑な気持ちだなー、葵翔。」



テレビのチャンネルを変えて友人のりょうはそう言う。



「あーそうだなー(棒読み)」



「んにしても、お前騙され過ぎだろ!まんまと女の言いなりになってるとか、笑っちゃいけないけど笑えるゎー!」



どわははっと繚は笑う。


「お前なーこの間結婚したからっていい気になってんだろー?」



ぐふふ、わかります?なんて言って満面の笑みを溢すあたり、死刑にしてやりたい。



「またそんなカッカしてると、刺された横っ腹の傷、開くぞー。」



「うっ…(お前がそうしてんだろ!)」



「それより葵翔、お前こんな目にあったのに由加里さんのこと全く覚えてないとか、重症だな、こりゃ」



「そーなんだよなー」



「何でなんだろーな」



「俺が知りたいよ」



今井由加里って人が俺を騙して、金むしり捕る結婚詐欺師だったこと。その上、自分は仮死状態になって死んだと見せかけ、その殺害容疑を俺に着せて刺し殺した。

がしかし、何故か俺は命をとりとめ彼女は死んだ…なんてあり得ない出来事を、誰が思いつくだろう。



おかげで警察官から事情聴取されたときは、記憶が無いので何が何だかわからず、答えられずじまいで疑いがかかり、大変だった。



「改めてスゲー女だな、偽婚約者。」



「他人事かよ!まぁ、覚えてない方が心の傷は消えやすいんじゃねーの。」



「まぁ、そだな」


「そろそろ俺行くゎ、奥さんが家で待ってるから(ハート)」



「はいはい、さよーなら(嫁溺愛ヤローめ)」



「じゃあまたな、お大事…ん?」

ピラッ



繚が立ち上がると、何か白い紙が落ちた。



「何か落ちたぞ。ほい、これ」



「カード?」



名刺くらいの小さな紙だった。裏を引っくり返してみる。



ーー最後のご利用、お待ちしておりますーー



「これ…俺知ってる…」


繚は固まったまま、その紙を眺めていた。



繚の言葉の意味を知るのは、それはまた別の話ーーー。










「メル、初めてあの扉のボタン押したよ!地獄に通ずる扉って言うから、閻魔大王とか出てくるんじゃないかと思って、びびったよ~」



「そう」



「本当に地獄って感じだったけどねー」



「それで?」



「…何か、メル怒ってる?」



「どうだか。」


「カミサマの件?別にあれは人間に言ったってー…」



「カミサマは“此処”にはいない。“此方”の世界にいるの。」



「…メルは何を知ってるの?僕メルのこと全て知らないから…」




「………」




それはまだ先の話ー…。



ガタンゴト、ガタンガタン…。




電車は走り続けるー。


永遠に回る輪廻のレールに乗ってーーー。





ーーーー第4話ENDーーーー

今年も終わる…。


ハッピーニューいやぁー!!!


ですねーホントに。


と言うことで、皆さまよいお年を。


来年もよろしくお願いいたします。

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