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The eternal train  作者: 齋藤翡翠
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throw away and run away

素人が書いたおかしな小説です。抽象的な表現が多いので、読みにくいと思いますが、一話だけなので短編だと思って読んで頂けたら幸いです。

俺は何処に行きたいのだろう?――ー




どうやら男は深い眠りに着いていたようだ。目が覚め、重い瞼を開くと目の前は驚きの光景だった。



そこは、駅のプラットホームだったからだ。



あんなに深い眠りについていた気がするのに、こんなところで寝ているとは思いもしない。自分がこんなところで爆睡していたと知って、男は己を恥じながら辺りに人がいないか見渡した。


しかし、幸運なことにそこには彼を嘲笑うための人は一人もいない。男はこれは幸いと安堵した。


だが、今しがた男は思った。自分は何故こんなところにいるのだろうか?と…。きっと電車に乗ろうとここにいるのだが、何のために電車に乗ろうとしていたのか皆目見当がつかない。


思い出そうと頭の中の記憶を辿るけれど、目が覚めた以前の記憶は靄がかかったようにぼやけている。そういえば、自分の名前さえわからない。男は考えていくうち、恐怖と焦りを覚え始めた。


そうこうしていると、遠くから電車が近づく音が聞こえてきた。男は抱えていた頭を上げ、音がする方に目を向けた。青と白のツートーンカラーの電車が近づいてくる。

パニックになっていた男はそれを見てすぐ冷静さを取り戻し、何となく乗ってみようと考えた。まるでその電車に導かれるかのような判断の速さだった。


やって来た電車は、少しレールを軋ませながら停車した。やがて車両のドアがプシューという音をたてて開いた。


男は何の迷いもなく電車に足を踏み入れた。電車に乗る前から車窓を覗いて中の様子を伺っていたので気づいていたが、やはり中には誰も乗っていない。外は明るく昼間のように見えるのにー…。


しばらくして、ドアが閉まる。あまりにも人がいないことを不思議に思い始めた男は、他の車両に移ることにした。さっき見たとき電車は五車両で、自分は進行方向を前とすると一番前に乗ったので、後ろの車両へと進んで行った。


二番目…いない、三番目…いない、四番目…いないー…。進んで乗客が誰もいないと確認する度、不安が募る。


そして最後の車両のドアを開けると、なんとそこにはたった一人だけだが、同じ乗客がいた。男はプラットホームと同じく胸を撫で下ろした。


同じ乗客に会えた喜びを押さえきれず、男はその乗客の近くに寄った。最後の車両に座っていたのは、年は十代ほどの、けれど大人びて見える少女だった。肌は透き通るほど白く、長い黒髪がそれを際立たせている。目鼻立ちはきりっとしていて、そんじょそこらにいないような美しい少女だった。


少女は白いワンピースを着ていて、くびれ辺りを青いリボンで蝶々結びしていた。その服装は、この電車をモチーフにしているように思わせる。


電車好きか偶然かわからないが、男はまず不審に思われないように話し掛けた。

「空席たくさんあるけれど、隣の席いいかな?あまりにも人がいないものだから、心細くてね。」後半怪しい発言かもしれないと冷や冷やしたが、そんな言葉しか出てこなかったのと、本心だったのでしょうがないと思いながら、男は少女の返答を待った。すると、車両のドアが開いたことにも、こちらが近づいてくることにも、無反応で座っているだけだった少女の視線が、やっとこちらを向いた。そして紅色の小さな口がゆっくりと呟いた。

「あぁ、稀な方が来たのね。」

少女の第一声は男への返答なんかそっちのけで、訳がわからなかった。少女は少し驚いたように目を見開いていたが、顔はほぼ真顔のままだ。けれど、男がどういうことか訳がわからなく戸惑っていると、「ごめんなさい、隣どうぞ」と何の躊躇もなく席を促す。男は会釈して隣に座った。


「あの、変な話をするようで悪いけど、何故こんなにも人がいないんだい?」男は今までの疑問を収縮して少女に聞いた。


「人がいないわけではないわ。今はいないように見えるだけ。」と、少女は無表情で答える。


(いないように見えるだけ…?)少女の答えに少し疑問を持ったが、きっとこの時間帯は人がやって来ないのだということにしておいた。


「…そうか。ところで君は何処へ行くの?俺は何だか色々訳がわからずこの電車に乗ってしまったんだが…。」


男はこの電車に乗った経緯と、自分が一体誰なのか思い出せない今の現状を少女に話した。少女は話を聞き終えた後、まずこう答えた。


「私は何処にも行けない。ここであなたのような人を誘導しなくては行けないから。」そう言った少女の言葉には覚悟が宿っていた。

しかし、彼女の瞳は何処か遠くを見つめ、男には悲しそうに見えた。少女の放つ言葉は未だ意味がわからないことばかりだったが、男は黙って聞いていた。


「私はここの管理者を任されているの。でも、電車を運転するわけではないから、ただ座っているだけだけれど。

運転手は他にちゃんといるし。」その言葉に男は少し疑問を持った。ここに乗客はいなかったけれど、運転手がいるのなら、何故自分は誰もいないと思ったのかーーー。

すると突然少女は男に聞き返した。

「貴方こそ何処に行きたいの?貴方は誰なの?」


男は笑った。

「さっき行ったじゃないか、俺は記憶を無くしているとー…」


いいかけて、急に何か記憶の断片が男の頭に蘇ってきた。それは自分が高く風の吹く場所に立っているものだった。


すると、電車のアナウンスがなる。

『次は浅瀬駅ー、浅瀬駅です』

電車内の電光掲示板が『This train will stop at Asase soon.』というテロップを流している。男は立ち上がり、次の駅で降りてみようと試みた。何か記憶を取り戻せる気がしたからだ。


電車はゆっくりと停車した。男は振り向いて、少女に「ここで降りてみるよ」と言って、ドアが開くのを待った。少女は何も言わず、黙って男を見つめていた。


電車が止まってしばらく、男はドアの前に立っていたが、ドアが開く気配はなかった。男は「あれ…?」と首を捻る。外を見ると、景色は留まったままだった。


『まもなく発車します』というアナウンスが聞こえた。そして、男が降りることなく電車は発車した。男はドアを叩き出した。

「え、なんで開かなかったんだ?!…嘘だろ?開けてくれ!!」男は恐怖のあまりに悲鳴をあげた。だが、電車は止まることなく走り続ける。顔が青くなり、立ち尽くす男に少女がふと話し出した。


「貴方の場合だと降りられる場所は限られるわ。乗る場所は多いのだけれど。」


男は恐怖と怒りに満ちた視線を少女に向けた。


「一体どうなっているんだ!!君は俺をどうしたいと言うんだ!!何なんだよ、この電車は!!」


冷静さがなくなった男は完全に取り乱していた。けれど、そんな様子に臆することなく少女は男に語りかける。


「落ち着いて、大丈夫よ。貴方は助かる。まず、貴方の名前は何か思い出して。」少女が言ったのと同時に、またアナウンスが聞こえた。


『只今から回送致します』


電光掲示板の表示が『回送』になった。すると、外の景色がガラッと変わった。男ははっとした。見たことがある景色だった。


あまり裕福とは言えないマンションが見える。そこの二階の突き当たりの部屋には一人の男が住んでいた。表札には佐藤繚(さとうりょう)という名前が書いてあった。


「あれ、俺の家だ…。」電車が走っていく中で暗がりに入ると、また景色が変わった。そこは会社のビルだった。会社のビル内で何やら揉め事が起きている。人々の罵倒が聞こえてくる。


「俺が勤めていた会社は、この間倒産したんだ。俺は行き場を失って、婚約していた彼女にしばらく連絡できないって言われて…それでー…」と男が言うと、すぐさま景色は暗い街並みが見える高い建物の屋上へと変わった。


風が吹く中、男は街並みを見下ろしている。

「俺、あのビルの屋上から飛び降りたんだー…」


そこで景色は男が乗った時の昼間の景色に戻った。


「全て思い出せた?」と少女が男に言う。

男は涙を流していた。振り向いて、少女に視線を落とす。


「俺は、死んだのか…?」っと言って、苦虫を噛んだように少し笑った。


少女は相も変わらず、無表情で淡々と答える。


「今さっきお伝えしたように、貴方はまだ助かります。ただ、無傷だとは言えません。ここに来たからには代償を払わなければならないので。」


男はそれを聞いて、複雑な顔をした。


「助かるって、生き返るっていうことか?…でもあんな状況で生き返ったって何も嬉しくない…、何で死ぬ選択をしたのに、死ねないんだ…。」


少女は少し男を睨んだ。彼女が感情をあらわにしたのは、これが初めてかもしれない。


「貴方は死んだ方が楽だと考えているのかも知れないけれど、人間という生き物なら自分が死んだ後のことを少しは考えてみた方がいいわ。残された人の身になってみなさい。」


男はその言葉に反論するように言った。

「俺の両親はもう二人とも亡くなっているし、彼女だって…振られたから…」しかし、少女は男が言うことを嘲るように反論し返した。


「それはどうかしら?彼女に本当に振られたのかしら?それに貴方が仮に死んだとして、ご両親は貴方をみっともなくお思いなさるでしょうね。」


少女が言い切ったと言うように、男を見上げる。


またアナウンスがなる。

『まもなく回送が終わります。ー…』

少女はそれを合図に立ち上がって、突然男の背中を押し始めた。


「ちょっ、何するんだ!」と男はたじろぐが、少女はお構い無しにドアの近くまで、グイグイ男を押し進める。そして電車が停車すると、


「またのご利用、お待ちしております。」

と言って少女は男をつき押した。


「え、ちょ…」

と男は言いながら、目をつぶる。ドアは開かないはずなので、当然ぶつかるはずだと踏んでいたからだ。


しかし、そうではなかった。男の体は電車をすり抜け、プラットホームに飛び出していた。男は酷く驚いたせいか気を失って、プラットホームに倒れたーーー。






ーなんだろう、柔らかな風が吹いている。何だか穏やかな気持ちだ。あぁ、そうか。俺死んだんだっけ。天国にでも辿り着いたのかなー…。


「…う、…ょう、繚!」


俺の名前を呼んでいる。君は誰だい?


「繚!起きなさいっ!」

「っえ?」


目覚めると、そこは白いベッドの上だった。横から光が漏れている。白いカーテンが窓から吹く風になびいていた。頭元を見ると、心配そうにこちらを見る人の姿があった。


「繚?…起きたのね!」

そう嬉しそうに微笑む女性は、婚約者だった美香だった。


「…?どうして君がここに…?」

男は不思議そうに彼女に言う。


「当たり前じゃない!繚、あんな真似して…どうなるかと思ったんだから。」


男の頭の中はごちゃごちゃになった。


「でも、君はリストラされた俺のこと嫌になったんじゃ…」


彼女は一瞬目を見開いて、すぐ申し訳なさそうに言った。


「そうか、やっぱり誤解させちゃったのね。違うの、あの時、両親を説得しててー…、連絡とらないようにされちゃってたの。それで繚を追い詰めちゃったなら、ごめんなさい。」彼女は涙ぐみながら謝った。


「…なんだ、俺、バカだな。」

男は笑いながら思った。あの電車の少女の言う通りだと。


「それにしても、よかった。もう一週間も眠ってたから、ダメかと思った。」

美香が笑って言った。


「え、そんなに?」

「そうよ。それに繚、運ばれたときに変な紙をしっかり握ってたのよ。」と美香は繚に小さな名刺ぐらいの紙を渡した。しっかり握っていたと言っていた通り、ぐしゃぐしゃにした跡があった。


見るとそこには「最後のご利用、お待ちしております」という文字が書いてあった。

「最後のご利用って、二回しか使えないのかしら?」と美香は微笑む。


男は違うよと言って、微笑む。そして、彼女に聞こえないようにポツリと呟いた。


「しばらくは利用しないよ。」






ー電車が走っている。そこには一人の少女が黙って座っていた。するとどこからか、声が聞こえてきた。


『メル、あの男どうなったの?』


少女がその声に答えるように呟いた。


「さぁ、彼女と喧嘩でもしてるんじゃない?」


謎の声は、えーっ。と不服そうに言った。

『教えてくれたっていいじゃない、メルは向こうの世界も少し見えるんだから。』


「どうだっていいじゃない、そんなこと。ただでさえ多くの乗客が寄り道しないように誘導しなきゃいけないのに。」とぶつくさ少女は文句を言う。けれども、やはり表情は真顔だった。


『ちぇっ。僕だって好きでこの電車運転してる訳じゃないのに。』


どうやら、声の主はアナウンスしていた運転手のようだ。


「全く、アナウンス越しに話さないでほしいわ。他に乗客はいるのに。」


すると、電車の中にうっすら人影が一つ、二つと増えて見えた。


「生き返る人には、あの世に行く人は見えないものね。」

少女が言うと、透けて見える人影たちはぼそぼそぼやいでいる。人影の一人が少女に話しかけた。


(あの、私たちはどこに向かうのでしょうか?…やっぱり、あの世と言っても天国と地獄があるのでしょう?)


少女は静かに言った。「あなたたちのように命を無駄にせず、最後まで生き抜いた人は天国へ行けます。ただ、私たちはあの世の入り口まで誘導するだけなので、三途の川を渡るかどうかは貴方たち次第です。」


そうですか。と言って人影は彼女の側から離れ、席に座った。ぼやいでいた周りの人影たちも黙って席に座っていった。


少女は真っ直ぐ電車の窓を見つめた。


「私はまだここに留まったままなのね。彼方や此方に行けるのが羨ましいわ。」



電車はゆっくり音を立てて進んで行く。永遠に続くレールに乗ってーーー。

ーーーー第一話ENDーーーー

お疲れ様です。お読み頂きありがとうございました。

少しネタバレがありますので、作品を読んでないかたはご了承ください。

この作品は、生と死について書きたいなぁ。と思い書きました。小さい頃から本を読むのが好きで、このサイトを友人から教えて貰ったとき、思い切って書き始めてしまいました。友よ、ありがとう。

さて、何だか謎が多すぎてワケわかんない!と言う人のために少しネタバレしようと思います。


まずは電車です。あの電車は輪廻のレール、つまり生と死の狭間にある世界を表しています。謎の少女が「この電車は主に二つのところにしか停まらない」的なことをおっしゃっていましたが、つまりはこの世とあの世のどちらかにしか着けないと言うことですね。

ちょっと待って、でも色々な駅で停まっているシーンあったけど?という人、ずばりあなたは勘がいい!

あれは、亡くなった方もしくは、魂が抜け出てさ迷っている方が乗るためにあるものです。輪廻を仏教では中有とも言うそうですが、ここでは輪廻はあの世とこの世を往き来する交通機関(電車)、中有を狭間の世界空間としています。その中有であの世に行かず、ぷーたら遊んでいる人がいるわけで、それを注意して誘導するという仕事をしているのが謎の少女メルと言うわけです。

と、ネタバレはここまでにして、謎の少女メルと運転手は次のお話に出していこうと思うので、また読んでください。

次話を書くのは遅くなるかもしれませんが、それでも読みたいから待つ!という方がいらっしゃると嬉しいです。

では、二話で会いましょう。

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