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家に着くのは私が一番早い。
兄夫婦は共働きだから、夜の8時くらいにいつも帰ってくる。
薫は、バスケ部だから部活動が終わったら帰ってくる。
バスケ部は部活動に力を入れているところだから、いつも帰ってくるのは下校時刻ギリギリだ。
六月である今の完全下校時刻は6時なので、家に帰ってくるのはいつも6時20分くらいなのである。
今の時間は5時30分前。雨が降っていて帰るのが少し遅くなってしまった。
薄暗い室内。誰かがいた痕跡はあるものの、実際には自分しかいない家。
最初は、こんな孤独感を味わう度に両親のことを思い出していた。
お母さんはいつも家にいて、私が帰ってくると笑顔で“おかえり”と言ってくれる。
その笑顔につられて、学校でどんなことがあっても私も笑顔になることが出来たのだ。
自分の部屋があるにもかかわらず、リビングで宿題をやってお母さんにおやつを貰う。
そんなのが日常となっていた。
問題があっていればお母さんはたくさん褒めてくれるし、初めてテストで100点をとった時は泣きそうなほど喜んでくれた。
それから、私はお母さんの笑顔が見たくて一生懸命勉強したのだ。
ほぼ毎回100点をとれるようになってからもお母さんの喜びは絶えなかった。
“また頑張ったね”“お母さん嬉しいな”
同じような言葉でも、私は嬉しかった。
お母さんを喜ばせることが出来て、私も成績が良くなって。
晩ご飯前にいつもお父さんが帰ってくる。
お父さんとお母さんと、私。
最初は一人っ子が嫌だったけど、その分両親は私にたくさんの愛情を注いでくれた。
3人で毎日を過ごせるのが幸せだった。
こんな毎日が崩れるなんて思いもしなかった。
こんなの、私が望んだことじゃない。
飛行機が墜落して、両親が亡くなるなんて望んでない。
兄夫婦の家に住まわせてもらって、こんな生活をするのは望んだことじゃない。
今まで通り、本当のお母さんとお父さんと一緒に暮らしたかっただけなのに。
こんなことになるはずじゃなかった。
高校生になって、“制服似合ってるよ”って両親に言ってもらいたかった。
“大きくなったね”って言って欲しかった。
なんで私は両親を失ったんだろう。
なんで両親はあの飛行機に乗ってしまったんだろう。
なんで……私たちの未来は壊されてしまったんだろう。
「……っ」
久しぶりに、こんなことを考えた。
いつも何も考えることなく、この家で生活していたのに。
また辛いことを思い出してしまった。
あぁ、涙が出る前に忘れてしまおう。