高校生。
6月。高校一年生。梅雨の時期。
F高校の1年3組に属する私は、今日も外を見ていた。
今日は一段と雨が強い最近は毎日こんな雨ばかりが降っている。
教室から外を見ることが出来る窓には、雨粒がたくさんついていて、とてもじゃないが外を見れる状況ではなかった。
傘は必須の中、イヤホンを耳につけて会話などの雑音を消し、自分の世界に浸る。
クラスに設置されている傘立てから自分のシンプルな紫の傘を取り出し、下校しようと先を急いだ。
特にこのあと用がある訳では無い。兄夫婦は私に買い物なんて頼まないし、放課後遊びに行く友達もいない。相合傘をする恋人もいなければ、一緒に帰ろうと話しかけてくれる人もいなかった。
ただ、早く自分の殻である家に帰りたかった。
一人になり、黙々と勉強をして成績を上げる。未来のために。
友情なんてとっくの昔に捨てた。家族愛なんてもっと前に捨てている。
今の私には何も無かった。ただのからっぽ。物体が動いているだけの存在。
いてもいなくても変わらない。誰も、困らないし喜ばない。
自分はそんな存在だと思っていた。“はるひ!”なんて私のことを呼んでくれる人はもういない。1人でいい。1人がいい。
気ままな1人が、1番楽で1番得も損もしない。
こんな考えに共感してくれる人は少ない。ネットで問いかければ、私の様な人も何人かいるのだろうけど、少なくともこの学校には、私の気持ちに賛同してくれる人もいないし、私の過去を知る人もいない。
廊下は、私の嫌いな人間がたくさんいる。すれ違う度に機嫌が悪くなる。
そんな気持ちが顔に出てしまっているのか、私のことを好意的な目で見る人なんていなかった。
もちろん自分から話しかけないで欲しいというオーラを出しているということもある。
面倒ごとに巻き込まれるのはごめんだった。
友達を作れば、面倒なことしか起きない。いつかは疎遠になってしまうもの。
いたってその時が楽しいだけで、しばらく経てば昔の友情はどこへやら。
つまらない。楽しくない。イコール、私には必要無い。
そろそろ下駄箱につくため視線を上げた瞬間、目の前が何か違うもので埋まっていた。
「……っ」
ドスッ、と何かにあたって、そのまま廊下に尻もちをついた。
誰かにぶつかったのはすぐわかった。あぁ、めんどくさい。
ギロッ、と鋭く上を見上げる。
私の前にたっていた人はそれなりに顔立ちが整っている人で、左右には男女ともに何人かの人間と一緒に歩いていた。
「ごめん、大丈夫?」
申し訳なさそうな顔をして私の目の前にしゃがんでくる。手を差し出されて、私はムッとした顔をそのまま保って立ち上がった。
「……はい、傘」
私の態度に苦笑を漏らしながら手から離れた傘を私に渡してきた。
その傘をまじまじと見つめて、ぐいっと彼が傘をこちらに押し出してくるため、少し戸惑った後に傘を奪い取った。
周りからはむっとした顔で鋭い視線を向けられる。
そんなのは知らんと言わんばかりに、私は彼の横をすり抜けて下駄箱へ向かった。