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私は、父方の兄夫婦の元で引き取ってもらうことになった。
兄夫婦なので名字を変えることもなく、ただ少し遠くに転校するだけだった。
そして兄夫婦には一人息子がいた。
朝日奈薫。14歳。
私の1つ上の兄という立場になり、同じ学校に通うことになった。
薫は私のことをとても気にかけてくれた。
良くいえば面倒見がいい、悪くいえばおせっかいだ。
私にとっては、どちらかというと悪いふうにしか捉えられなかった。
かまって欲しい訳では無い。ただ、普通に生活ができればそれでいい。
そんなふうに思っていたせいか、新しい家族は、少し居心地が悪かった。
私のことをかなり気にかけてくれる人達。もちろん嬉しいけれど、私はただご飯を作ってくれて、寝床を与えてくれる人さえいればよかった。
ここに、温かみを求めに来たのではない。
温かみなんて、そんなものがあるから裏切られた時に痛むんだ。
最初から期待なんてしていなければ、温かみなんてものを与えられていなければ、人を信じないし、裏切られても何も感じない。
暗い性格なら、人は寄ってこない。
暗い性格なら、人に期待されることもない。
暗い性格なら、誰にも気にかけられることはない。
一人がいい。一人になりたい。
そんなことばかりを考えていて、私は学校以外の時は部屋にこもるようになった。
薫や兄夫婦は私のことをとても心配していた。
ご飯の時だけ降りてくる私に、“何か欲しいものはある?”“何かして欲しいことはある?”などと、とにかく質問攻めだった。
ただ暮らせる家があればいい、そう思っている私は3人を突き放して、よけいに部屋にこもるようになった。
こんなことになるなら、いっそのこと私もあのときの飛行機に乗ればよかった。
そしたら、一緒に死ねて、今頃天国で楽しく過ごせているに違いない。
私も一緒に連れてって欲しかった。夫婦水入らずなんて、そんなの余計なお世話だったのだ。
お母さんとお父さんと、どんな場所であれ一緒に生活できればよかった。
毎日笑顔が絶えなければ、自分が死んだなんて出来事忘れられるかもしれない。
一緒にいたい、笑いたい、話したい……会いたい。
この怒りのやり場はどこへ向ければいいのだろうか。
誰が悪いという訳では無い。私の身の回りの人が悪いんじゃない。
だったら、その人に当たるのはおかしい。
いくら暗くなった私の脳でも、それくらいのことは考えられた。
……じゃあ誰が悪い?誰が両親を殺したの?
……それは、飛行機だ。操縦士だ。
まだ完全に操縦士のせいと決まったわけではなかったけれど、ほぼ確実だとニュースでも言っていた。
あの飛行機を操縦するのがあの人でなければ、両親は助かったのかもしれない。
今頃明るい生活をして、毎日が楽しかったに違いない。
全ては飛行機のせいだ。
飛行機が、私達の未来を壊したんだ。
飛行機なんて要らない。人が死ぬものなんて要らない。
……両親を、返して。