真っ赤な林檎のような。
今日は、参考書を選びに本屋へ来ていた。
夏休みの勉強に向けて、新しい参考書が欲しいと思っていたところだったのだ。
お金は自分のお小遣いから出すのがもちろんだが、薫に何か買い物をするというとお金を渡そうとするから言わないことにしている。
いつものように1人で本屋に来て参考書を買いながら余った時間で小説などを見るのが楽しかったのに、今日は1人になれなかった。
自分でも驚いたのだ。
まさか、ここに永瀬遼がいたなんて思わなかった。
私と同じ参考書を買いにに来ていたらしく、たまたま私と目が合ってしまった。
お互い驚いたが、気にせず買い物を続けようと思ったところで向こうが話しかけてくるのだ。
そんなことしなくていいと思うけど、話しかけられた以上そこまで強く振り払うことも出来ないので、またいつものように私は口を固く閉ざしたままだった。
「朝日奈はやっぱり頭良いんだよね。いつも何位くらい?」
そういった後に自分が失礼なことを聞いてしまったと気付いたのか“言いたくなければ言わなくていいよ”と付け足した。
私はとくに誰かに自慢したいわけでもない。隠す必要も無い。
言う必要も無いのだけれど、別に構わないかと思った。
「……6」
ただ数字だけを告げて、視線は参考書から外さないまま。
だけど横から見える永瀬の顔は、驚きと感心に満ちていた。
「すっご。ほんとに頭良いんだ。俺も中学の時にめっちゃ頑張って、それでも今20位くらいなんだけど」
20位はじゅうぶん良いと思う。
もう少し誇ってもいい順位だと思うが、それを言ったら嫌味になるかもしれないと思ったので口に出すことは無かった。
「朝日奈はどんな参考書買うの?」
参考にするとでも言いたそうな顔で私が持っている本を覗きてきた。
後ろから顔を覗かせて、永瀬の吐息が耳に吹きかかりぐるん、と体を回した。
永瀬と向き合う形になって、私はギロリと長瀬を睨む。
相手は無意識だったようで、時間差があってハッとした顔をする。
「ごめんごめん。嫌だったよね」
苦笑をして、笑顔を作るのは申し訳ないと思ったのか気まずそうな顔をする。
私が持っていた参考書を手渡しすると、彼はその本を受け取って私の顔を見上げた。
「……顔赤い」
ボソリ、とつぶやいた一言に私はビクッとなった。
そんなはずはないと思っていたが、胸がバクバクしていた。
「ふふ、林檎」
そこまで赤いはずはないのに盛るものだから、さすがにイラっときた。
でもここは反省する様子もなくクスクスと笑いながら参考書に目を落としている。
いつまでも怒っているのは癪だと思い、私も次の参考書を手に取った。
永瀬と一緒にいたくない気持ちもあったが、適当に参考書を買って後で後悔するのが一番嫌だったのでそこは我慢して参考書選びに没頭していた。
永瀬も私が参考書選びに集中していると気付いたのか、話しかけてくることは無くなり、ただふたりが横並びに参考書を読んでいる絵面になった。
結局永瀬が口を開いたのは、参考書が買い終わって二人一緒に本屋から出ていく時だった。
もちろん、向こうが私にペースを合わせているだけである。