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6

今日の体調は、良くも悪くもない。いつも通りだ。

また吐き気がするなんてことは無かったけど、今日も保健委員で保健室に来ていた。

だけど、今日はかんながいない。

英語の補習に引っかかってしまったらしい。

この前のテストの点が悪かったからだそうだ。

見るからに勉強は得意ではなさそうだったけど、まさか補習を受けるくらい頭が悪かったとは知らなかった。

よって、今保健室にいるのは私だけである。

読書に集中できるのは良いのだが、かんながいない保健室は妙に静かだった。

冷房が効いていて保健室はとてもいい場所である。

人が来なければ、の話だけど。

ため息をついた途端、ドアがノックされた。

言ったそばからタイミングが悪いな、と思いながらもかんながいないので代わりに「どうぞ」と呟いた。

ガラガラとドアが開いて中に入ってきたのは、予想していなかった人だった。

「……」

「あれ、今日ははるひが当番だったのか」

部活専用の服を着て、汗を拭うのは薫だった。

その疲れた姿と、汗で少し束になっている髪の毛から保健室の外がどれだけ暑いかが窺える。

私は保健室用のボードを持って薫を見上げた。これが「用事は?」の合図だった。

「ちょっと、熱さのせいなのかわからないけど目眩がしちゃってさ。少し休ませてもらってもいい?」

小さく頷いて、ベッドを勧める。

カーテンを開けると、薫は少し照れくさそうにしながらカーテンをくぐり、ベッドに腰を下ろした。

それを確認して私は冷蔵庫の中から冷たいミネラルウォーターとタオルを取り出す。

夏場にはこういう処置をしろと教えられたものだ。

腰を下ろしたまま「ふぅ」とため息をついていた薫に持ってきた二つを差し出すと、薫は笑顔でお礼を言って受け取った。

「夏場の運動って大変だね。あぁ、冷たくて気持ちいー」

タオルを額に乗せてうっとりとした表情を見せる。

学年が違うこともあり、学校で顔を合わせることはほとんど無かったからこういうところで顔を合わせるのは珍しいことだった。

「……好きなだけ寝てていいから」

カーテンを閉めてまた読書を再開しようとカーテンに手をかけた時、急に動きを止められた。

「あ、はるひ」

いつものように呼ぶ声。

その声に動きを止められたのだ。

「?」

目線で何だと尋ねると、薫は首の後ろを掻いて苦笑した。

「たぶん寝れないと思うんだよね。静かなのって苦手だから、少しだけ話してもいいかな?」

それは、私と話すということだろうか。

私と話すことなんて、あるのだろうか。

「……体調が悪いなら、寝れば」

遠まわしに断っているというのに、薫は笑ったままだ。

「そうなんだけどね、眠いわけじゃないんだ。いつもみたいな感じでいいからさ」

薫の言う“いつも”とは、私が薫の話を黙って聞いていることを言っているのだろうか。

そんなことをして何が楽しいのだろう。

相槌も打たず、ただ黙って話を聞いている人なんかに話しかけて意味はあるのだろうか。

わざわざ、そんなことを言うことすら面倒だった。

別に誰かほかに人がいるわけでもないし、暇つぶし程度なら良かった。

椅子に座ったのがOKの合図だ。

それを見るなり、薫は嬉しそうに笑って話を始めた。

また私とは関係の無い楽しそうな話。


その話を聞く最中、何度か気配を感じていた。


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