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5

朝から吐き気で学校を遅刻するというそれなりに気分が落ちるイベントをなんとか乗り切った放課後。

今日は保健委員で保健室に残ることを思い出したのだ。

先生も朝のことは知っているから“無理せずに帰ってもいい”と言ってくれているのだが、どちらにせよ保健室のベッドで寝るなら家にいても変わらないだろうと思い保健室に行った。

朝のことをいつ知ったのか、かんなは私より先に保健室に来ていて、私が保健室に入るなり“体調大丈夫?”と声をかけてきた。

今日の彼女の髪型はポニーテールだ。

入ってきていきなりの言葉だったので、反応に少し遅れてしまったが、小さく頷くとかんなはホッとあからさまに胸をなでおろした。

「体調悪いなら寝てて良いからね?保健室あまり人来ないし、けが人の手当くらいならあたし1人でも出来るから」

自信満々に胸を張って、かんなはにっと笑った。

その愛嬌の良さは、きっとたくさんの人を引き付けているのだろう。

尚更私なんかを気にかける理由がきになる。

だけど、今はそんなことを考えている暇はない。

朝からたまりにたまった疲労を癒したいと思っていたのだ。

カーテンを開けてベッドに座る。

ふかふかとした感触は、家のベッドとはまた別で居心地が少し悪かった。

だけど、30分くらい寝るのにはちょうどいいかもしれない。

少し硬めの枕に頭を乗せてうとうとしていると、急にカーテンの向こうから声が聞こえた。

「……はるちゃん、まだ起きてる、よね?」

最後の語尾は確認のようなものだった。

カーテンの向こうにいるから、頷くことをしても相手には伝わらない。

カーテンの向こうにいる人に伝えるには、声を聞かせなきゃいけない。

自分の何かを晒すのが、何だか嫌だった。

「……ん」

考えて、1番短い言葉を選んだ。

口を開ける必要が無い、少しの力みで出すことが出来る声だ。

「この前のさ、はるちゃんが保健室からいきなり出でいっちゃった日、あったよね」

ドクン、と脈が重々しく打った。

「あの後、はるちゃんのところに遼くん来たじゃん?」

言葉をつまらせながら、必死に話しているのがわかった。

「あのとき、どう思った?」

質問の内容がよく分からなくて、返事のしようがなかった。

普段なら、顔で疑問を表すことが出来るけど、カーテン越しでは表情から感情を読み取ってもらうことも出来ない。

「……何が言いたいのか、よくわからない」

「えっ、あ……ごめんごめん。……んーと、遼くんがはるちゃんを迎えに来た時、嬉しかった?」

また、質問の意味がよくわからない。

そんなこと、聞いてどうするんだろう。

「……何とも、思ってないけど」

今日は自然と口数が多くなってしまう。

相手がかんなだからまだ答えているが、どうでもいい人なら間違いなく無視していただろう。

「そ、そっか。……そうなんだ……」

かんなの呟きは、自分だけに聞こえるように言っていたのかもしれないけれど、この静かな室内には丸聞こえで、朝流していた爆音の音楽よりぜんぜん脳内に届いた。


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