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両親の墓がたっているところは、そこまで広いところでもない。

入口から1番奥までが見渡せるくらいだ。

私の両親の墓はその真ん中辺りにある。

そこまであるいて「朝日奈家」と書いてある墓を見た。

言葉に表せないような切なさと虚しさが込み上げてくる。

自分でも、こういうときはどうしたらいいのか分からなくなるのだ。

手に持っていた花と木のバケツを地面に置いて、私は墓を掃除し始めた。

もう納骨は済んでいるから、この中に私の両親がいるのだ。

こんなに近くにいるのに、どうしてとても離れている気分になるのだろうか。

両親が亡くなる前までは、3人で一緒に祖父の墓にお参りに来たりしていたのに、まさかその両親の墓をこんな早くに掃除することになるなんて、あの時の私は想像もしていなかったんだろう。

祖母は足腰が弱くて最近はここに来れていない。

自分の娘夫婦に会いたいと願いながら、お供え用の花を買うお金を私に持たせてくれたこともあった。


もし両親が生きていて、今まで過ごしていたとするならば、私は今とどれくらい違っているのだろう。

笑顔が絶えなくて、いつも明るくて、皆の人気者な私でいたのだろうか。

考えても仕方の無いことなのに、ここに来るとどうも思考がマイナスな方へ行ってしまう。

泣くことは無くなっても、私のマイナス思考はなおらないのではないか、と正直思っているところだ。

こんな娘でごめんなさい、心の中ではなんども謝っているけれど、両親はきっと亡くなってから私の笑顔を見たことがないはずだ。

墓の中にいても、“笑って”と言われてるみたいで、心が締め付けられる。

でも涙は出ない。

こんな、私はこんな子でいいのだろうか。



繰り返す自問自答も飽きてきた頃、近くで砂利を踏む足音が聞こえた。

「……朝日奈…?」

自分の名前を呼ぶ声に、私はビクッと反応した。

その声には、聞き覚えがあったからだ。

「……」

目線だけをチラリ、と向ける。

やっぱり、永瀬だった。

彼も私と同様お供え用の花と、木のバケツを持って立っていた。

「偶然だね」

対して永瀬はあまり動揺しているようには見えず、苦笑して私の前まで歩いてきた。

まだ全部やり終えている訳では無いので、帰りたい気持ちをグッと堪えて両親の墓に背を向けた。

「……朝日奈も、墓参り……だよね?」

「…まあ」

肯定するにはじゅうぶんな返事だと思う。

あまりこの人とは会話をしたくないし、出来れば近くにたっていたくなかった。

「俺もだよ」

見ればわかることばかりを聞いてくる。その持ち物を見たら一目でわかるのに。

無理に会話をしようとしているのがバレバレである。

永瀬は移動するのかと思ったが、墓は思ったより近く、私の両親の墓と通路を挟んだ向かいに永瀬家の墓はあったのだ。

あの人も誰かを亡くしているのか、と何だかもやもやした気持ちで思う。

でも、永瀬が立った目の前にある墓は、「永瀬家」ではなかった。

「……?」

そこに掘られているのは「若狭家」の文字。

意味がわからなくて首をかしげた。

それを見られてしまったのか、永瀬はチラッと私を見て苦笑する。


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