2
両親の墓がたっているところは、そこまで広いところでもない。
入口から1番奥までが見渡せるくらいだ。
私の両親の墓はその真ん中辺りにある。
そこまであるいて「朝日奈家」と書いてある墓を見た。
言葉に表せないような切なさと虚しさが込み上げてくる。
自分でも、こういうときはどうしたらいいのか分からなくなるのだ。
手に持っていた花と木のバケツを地面に置いて、私は墓を掃除し始めた。
もう納骨は済んでいるから、この中に私の両親がいるのだ。
こんなに近くにいるのに、どうしてとても離れている気分になるのだろうか。
両親が亡くなる前までは、3人で一緒に祖父の墓にお参りに来たりしていたのに、まさかその両親の墓をこんな早くに掃除することになるなんて、あの時の私は想像もしていなかったんだろう。
祖母は足腰が弱くて最近はここに来れていない。
自分の娘夫婦に会いたいと願いながら、お供え用の花を買うお金を私に持たせてくれたこともあった。
もし両親が生きていて、今まで過ごしていたとするならば、私は今とどれくらい違っているのだろう。
笑顔が絶えなくて、いつも明るくて、皆の人気者な私でいたのだろうか。
考えても仕方の無いことなのに、ここに来るとどうも思考がマイナスな方へ行ってしまう。
泣くことは無くなっても、私のマイナス思考はなおらないのではないか、と正直思っているところだ。
こんな娘でごめんなさい、心の中ではなんども謝っているけれど、両親はきっと亡くなってから私の笑顔を見たことがないはずだ。
墓の中にいても、“笑って”と言われてるみたいで、心が締め付けられる。
でも涙は出ない。
こんな、私はこんな子でいいのだろうか。
繰り返す自問自答も飽きてきた頃、近くで砂利を踏む足音が聞こえた。
「……朝日奈…?」
自分の名前を呼ぶ声に、私はビクッと反応した。
その声には、聞き覚えがあったからだ。
「……」
目線だけをチラリ、と向ける。
やっぱり、永瀬だった。
彼も私と同様お供え用の花と、木のバケツを持って立っていた。
「偶然だね」
対して永瀬はあまり動揺しているようには見えず、苦笑して私の前まで歩いてきた。
まだ全部やり終えている訳では無いので、帰りたい気持ちをグッと堪えて両親の墓に背を向けた。
「……朝日奈も、墓参り……だよね?」
「…まあ」
肯定するにはじゅうぶんな返事だと思う。
あまりこの人とは会話をしたくないし、出来れば近くにたっていたくなかった。
「俺もだよ」
見ればわかることばかりを聞いてくる。その持ち物を見たら一目でわかるのに。
無理に会話をしようとしているのがバレバレである。
永瀬は移動するのかと思ったが、墓は思ったより近く、私の両親の墓と通路を挟んだ向かいに永瀬家の墓はあったのだ。
あの人も誰かを亡くしているのか、と何だかもやもやした気持ちで思う。
でも、永瀬が立った目の前にある墓は、「永瀬家」ではなかった。
「……?」
そこに掘られているのは「若狭家」の文字。
意味がわからなくて首をかしげた。
それを見られてしまったのか、永瀬はチラッと私を見て苦笑する。