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今日は、私が保健室に残る当番だ。
私は保健委員に入っていて、今は放課後。
1年生は保健室に当番制で放課後残る制度がある。
それは部活が無い人が優先的に入ることになっていて、私は週に3日入ることになってしまった。
当番は2人で行うことになっていて、私と一緒に当番をやっているのは4組の女子である。
緩くパーマがかかっている髪はくせっ毛だと前に聞いたことがある。胸元まである髪をポニーテールに結んでいて、今は鼻歌を歌いながら足をプラプラさせている。
私達の仕事は、放課後に部活などで怪我をした生徒の手当てをすることだ。
今ちょうど保健の先生は出張にでかけているから、保健室内には2人しかいない。
「今日も暇だね、はるちゃん」
私のことを“はるちゃん”なんて好印象なあだ名で呼ぶ人はこの人くらいだろう。
名前は佐伯かんな。かけてきた最初の言葉は“同じひらがなだね!”である。
多分下の名前がひらがなということを言いたかったのだろうが、それにしても突拍子もないことを言うな、と思った。
たとえ話しかけられてもたまにしか答えないのが私だ。
彼女も呟く程度で話しかけているのだろうから、無視されても特に気にする様子もなく保健室に置いてある本を読んでいた。
「あ、でも人が来ないのは良いことだよね」
どこかで聞いたことのある使い古されたセリフを言って、かんなはニコリと笑った。
彼女みたいな人が何で私なんかにそこまで構ってくるのかわからなかったが、わざわざ聞くほどのことでもない。
ぼーっとどこかを眺めていると、急にドアがノックされた。
「どうぞー」
必ず答えるのはかんな。保健室の本を閉じて席から立ち上がる。
保健室に入ってきたのはバスケの服を着た2人。
片方の人が“ここまででいいよ、ありがと”と言って、言葉からして付き添いである彼は頷いて保健室から離れてしまった。
「……!」
彼は、この前会った永瀬遼だった。
右手を左手で握って、保健室に入ってくる。
「あ、遼くんだ」
驚いている私に対してかんなはニコニコとした笑顔で彼の元まで歩いていった。
彼女が皆に好印象な態度をとるのはいつもの事だが、もしかするともしかするのだろうか。
「今日は佐伯が当番だったのか。……あれ、朝日奈じゃん」
奥にいるもう一人を見ようとして私と彼は目が合った。
名前なんてとっくに忘れられていると思っていたから、言葉に詰まる。
「あたし達が当番なんだよ。それで、どこが悪いの?」
保健室に来た人の名前、来た理由、対処方法などを書くボードを手にして私は彼のことを書いた。
一応名前は知っていたから、そこら辺はスムーズに書くことが出来た。
「バスケやってたら突き指したっぽいんだよね。大丈夫って言ったんだけど、一応保健室行けってさ」
ふむふむ、と頷いたかんなは笑顔で彼をソファーに誘導し、慣れた手つきで救急箱をいじっていた。
その間にも私は来た理由の覧に“突き指”と書いて、対処方法なども細かく書き込んだ。
バスケなどに突き指は当たり前で、突き指で保健室に来る人も多いから、対処はすぐに終わった。
「はい、これで大丈夫。お大事に!」
かんなは腰に手を当てて右手で彼の背中をバシッと叩いた。
「あはは、力強いっつの」
保健室のドアの前まで歩いていくと、彼はもう一度だけ振り返って笑う。
「佐伯と、朝日奈も。ありがとな」