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TOKYOダンジョン  作者: 佐世 保
秋葉原サバイバル
8/29

3月25日 (4) じゃ、契約しようか

 弓とスリングショットの練習組が引き上げた頃を見計らって、涼子、カオル、アユの三人は地下駐車場に降りてきた。

 三人の他には誰もいない。それでも他の人の目を気にして、共用倉庫の中に入って鍵をかけた。詰まっていた防災備品は全て運び出され、今はがらんとしていた。

 三人は床にダンボール紙を敷き座った。

 武器作りとその指導で疲れたアユは眠そうにしていた。時刻は11時を回っている。


「涼子、修業って何すればいいのかな?」

「そうね、普通ファンタジーものの定番なら魔力を感じるところからだけど、あなたたちの場合は……ちょっと待ってね」


 涼子はうつ向いて、何か考えこんでいるように見えた。1分ほどそうしていて、どうしたことかとカオルとアユが顔を見合わせた時、ようやく涼子が顔を上げた。


「では、魔法の習得を始めたいと思います」

「はーい!」

「わくわく~」


 涼子の宣言にカオルとアユは瞳を輝かせ、小さく拍手をした。


「カオルとアユに習得してもらうのは契約魔法です」

「契約魔法って何~?」


 アユが小さく首をかしげた。


「契約魔法とは精霊神と契約を結び、その力を借りる魔法のことです」

「わかった~」


 ここで涼子はひとつ咳払いをした。


「コホン、では契約魔法を習得するにあたって二人に紹介したい方がいます」

「へ?」


 カオルは辺りを見回した。倉庫には三人の他には誰もいない。


「どーゆーこと?誰かくるの?」


 カオルの問いかけには応えず、涼子は両の手のひらを水をすくうような形にして胸元に置いた。

 その手のひらに小さな光が生まれた。

 カオルとアユの眼が驚きに大きく見開かれた。


「おおっ!」

「びっくり~!」

「静かに」


 大きく声を出して驚く二人をたしなめ、涼子はさらに意識を集中させた。涼子の額には汗が滲んでいる。

 小さな米粒ほどの光は次第に大きさを増し、輝きも強くなっていく。


「何だか卵みたい」


 カオルが呟いた時、それはまさしく鶏卵のような形と大きさになっていた。

 涼子は光の卵を優しく床に置いた。

 床に置かれた光の卵は徐々に形を変えていく。ヒヨコが生まれたりして、とカオルが埒もないことを考えた時、それはヒヨコになった。


「マジですかー!」

「かわいい~」


 涼子がヒヨコに頭を下げた。


「ラタプ様、二人が私の親友、カオルとアユです」

『こんばんは、カオル、アユ』


 ヒヨコは二人に軽く頭を下げてみせた。


「ヒヨコがしゃべった!」

「カメがしゃべった~!」


 カオルとアユが顔を見合わせた。


「ヒヨコでしょ?」

「カメだよ~?」

「いやいや、どこからどう見てもヒヨコだって!」

「カメ~!わたわたしてて、かわいい~」


 言い合っている二人を涼子が止める。


「二人ともやめなさい。ラタプ様の姿は見る者によって形が変わります」

「え?そうなの?」

「私には小さな人の姿に見えているのよ。たぶんカオルはどこかでヒヨコを連想したんじゃないの?」

「あー、したわ。ヒヨコが生まれたりしてって考えてた」

「ピンポン玉みたい、カメの卵って考えた~」


 涼子の説明に納得したように二人は大きく頷いた。


『話は終わったかな?』

「も、申し訳ありませんラタプ様!」


 慌てて涼子は頭を床に擦りつけんばかりの姿勢で謝罪した。


「えーと、改めて紹介します、こちらは光の精霊神ラタプ様です。二人ともご挨拶して」

「どーも、涼子の友人の橘薫たちばなかおるでーす」

水越歩弥みずこしあゆみ~」

「ちょっと、二人ともちゃんと挨拶してよ」


 精霊神に対して、ごく軽い挨拶をしたカオルとアユだった。そんな挨拶を見て、涼子は狼狽うろたえた。


「ちゃんとって言ってもさ、所詮ヒヨコだよ?それにさ、いきなりヒヨコを紹介されて精霊神とか言われても……」

「カオル!」

『構わないよ涼子。色々不審に思うこともあるだろうから』


 カオルの不敬な発言を涼子はとがめたが、ラタプは気にしていないようだった。


『カオルにはテューレイとマネが興味を示している。さっそく引き合わせたいが、いいかな』

「テューレイとマネって何さ?」


 聞き慣れない単語に、カオルはすぐに反応した。相変わらずのカオルの口調に、何か言いたそうな涼子だった。


『テューレイは火を司る精霊神、マネは闇を司る精霊神だよ』

「あれー、雷を司る精霊神っていないの?」

『雷は風の精霊神プーケが司っているね』

「あたし、それがいいな!」

『すまないね、プーケは今回は来てないよ』

「ちぇーっ、超電磁砲が撃ちたいのにー」


 通常運転のカオルに涼子は頭を抱えていた。


「もうカオルは……不躾で申し訳ありませんラタプ様」

『構わないよ。だからこそ堅苦しいのを嫌うテューレイとマネに好まれたのだろう。では呼ぶよ』


 ヒヨコが小さく羽ばたいた。

 小さな炎がヒヨコの前に現れた。炎は次第に大きくなり、ヒヨコと同じ位になったところで姿を変えた。それは小さいながらもドラゴンの姿をしていた。


「ドラゴン、キターッ!」


 テューレイがドラゴンの姿をしていたことにカオルは大喜びしていた。


『やっぱり面白い奴だなカオルは。ドラゴンがそんなに好きなのか?』


 愉し気な中に少し呆れが混じった声はドラゴンから聞こえた。


「そりゃ、ファンタジーにドラゴンは欠かせないし、カッコいいじゃん」


 あっけらかんとした返答にドラゴンが大笑いした。


『カッコいいか、気に入った。おいラタプ、決めたぞ。オレはこの娘と契約する』



『相変わらす即断即決だねテューレイ、本当にいいの?』

『おう、いいぜ。オマエもいいよなカオル』

「喜んでー!あれ?でも今あたしドラゴンの姿なんて想像しなかったけど……」


 カオルはもろ手を挙げて同意しかけたが、途中で手を降ろし首をかしげた。


『ああ、オレは常時この姿だ。不定形なのはラタプ位なもんだ』 

「あ、そう。ならいいや。改めて、喜んでー」


『そう、じゃ契約しようか』


 ラタプは笑いながらカオルにつげた。


「契約って、何をどうすればいいのかな?」

『こちらが提示する条件を遵守すると誓約すればいいだけだよ』

「ふうん、簡単なんだね」

『まあ略式ではあるね。こちらの世界では使える力には制限があるし』

「わかった。で、条件って何さ?」


 カオルが頷くのを確認したラタプは少し威儀をただした。


『ではこのまま始めよう。汝、精霊の与えし力を正しき事に使うことを誓うか?』

「誓います」


 カオルは真面目な顔をして誓約を行った。


『汝、いかなる時も黛涼子を支え助けることを誓うか?』

「え?うーん、誓います」


 ここでなぜ涼子の名前が出てくるのか疑問に感じるのと同時に、まるで結婚式の誓約みたいだと感じたカオルだった。その疑問と感覚が応答を遅らせた。


『汝、この契約を秘し洩らさぬことを誓うか?』

「誓います」

『私からは以上だね、ではテューレイ』


 ラタプに呼ばれたテューレイは実に面倒臭さそうな風情で誓約を引き継いだ。


『カオル、負けてもいい、悩んでもいい、だが挫けない心を持ち続けられるよう頑張れるか?』

『うん、頑張るよ』

『十分だ、もういいぜ』


 テューレイの言葉を受けてラタプは頷く。


『では契約は成った。カオルとテューレイに祝福を』


 ラタプの宣言に、カオルは拍子抜けしたように呟く。


「あれ?こんだけでいいの?」

『いいぜ、よろしくなカオル』

「あ、こちらこそ」


 カオルはテューレイに軽く頭を下げた。


『これでカオルはテューレイの力をいつでも借りられる』

「あれあれ?もう一人精霊神様がいるんじゃなかった?」

『マネは恥ずかしがりやだからね。出ておいでマネ』


 ラタプの呼び掛けに涼子の背後から小さな女の子が、ひょこっと顔をのぞかせた。


「何ですかー!かわいすぎるー!」

「かわいい~」


 顔をのぞかせた女の子は、人間でいうなら5~6歳に見えた。ラタプやテューレイに比べれば大きいが、人間の同年代に比べれば半分位の背丈しかない。黒いワンピースを着せた、黒髪黒目の精巧な人形というのが最も的確なイメージだった。


『では、マネの求める条件を提示しておくれ』

『……いつも一緒にいてほしい』


 ラタプの求めに、もじもじしながら答えたマネを見てカオルのリミッターは振り切ってしまった。


「いるいる、います、いや、いさせて下さい」

『では契約は成った。カオルとマネに祝福を』


 マネを手招きし、自分の膝の間に座らせ黒髪を撫でているカオルをアユが羨ましそうに見ている。

 そんなアユを見て涼子がラタプに訊ねた。


「それでアユの方はいかがでしょうか?」

『こちらはハタレイとタイテが興味を持っているようだね』

「何の神様~」


 自分もマネを撫でようと手を伸ばしかけたアユの手が止まった。


『ハタレイは大地を司る精霊神、タイテは植物を司る精霊神だ』


 ラタプの説明が終わると床から光と共に二つの人影が現れた。15cm位の人影には背中に四枚の透明な羽根があった。


「妖精さん~?」

「双子の妖精だね」


 カオルの言う通り、二体の妖精は顔つきがよく似ていた。ただ髪の色が亜麻色と若草色の違いがあった。そして髪と同じ色のワンピースを着ていた。


『ハタレイとタイテは双子みたいなものだね。大地と植物は切っても切り離せない関係だからね。ところでハタレイはアユに何を望む?』


 ラタプは亜麻色の妖精に訊ねた。


『揺るぎなき信頼~』

『タイテはアユに何を望む?』

『たゆまぬ成長~』


 若草色の妖精が答える。


「あは、アユアユとしゃべり方が似てるね」


 確かに二体の妖精は微妙に間延びしたしゃべり方をしていた。妖精たちはアユの頭上を、くるくると飛び回っていた。

 最初にカオルと同じ内容をアユは誓約した。


『ではアユ、汝、互いに信をもって成長することを誓うか?』

「誓いま~す」

『契約は成った。アユとハタレイ、タイテに祝福を』


 ラタプの宣言と同時に妖精たちは飛び回るのをやめ、アユの肩に腰かけた。アユは人差し指の先で優しく、交互に撫でた。妖精たちはくすぐったそうにしていた。


『そろそろ時間だね。これ以上は涼子の負担が大き過ぎる、そろそろ戻らなきゃ』


 ラタプの言葉にカオルが慌てた。


「あ、待ってよ!契約結んだのはいいけど使い方が全然わかんないよ」

『それはテューレイたちに聞くといいよ。カオルにはテューレイの一部が融合している。意識を繋ぐのは、そう難しくはないはずだよ。心の中で呼び掛けてみるといいよ』


 カオルが頭の中でテューレイに呼び掛けてみると、確かに返答があった。


「あ、ホントだ」


 ラタプたち精霊神の姿が薄れていき、やがて光の粒子を残して消えていった。


『じゃあねカオル、アユ、また会おう』


 ラタプの言葉だけが余韻のように最後まで残っていた。


 三人はしばらくの間、言葉もなく座り続けていた。

 最初に沈黙を破ったのは涼子だった。


「ねえカオル……本当は色々聞きたいんでしょう?」


 カオルは黙ったまま涼子の顔を見つめた。それから大きく息を吐いた。


「まあね。途中までは疑問やら、ツッコミたいことだらけだったよ。でも今はもういいや」


 涼子は項垂れた。


「……ごめんなさい」


 涼子の声は、ひどく小さかった。

 そんな涼子にカオルは明るく応えた。


「いいよ、いつか話せる時がきたら話してよ。それまでは誓約の通り、涼子を支えるからさ」

「支えるよ~」


 アユも大きく頷いている。


「二人とも……ありがとう」


 短い沈黙の後の涼子の声は先ほどより、少しだけ明るく、少しだけ力強いように、カオルとアユには聞こえていた。

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