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TOKYOダンジョン  作者: 佐世 保
秋葉原サバイバル
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3月25日 (2) おじさん、グッジョブ!

「戦う……戦う手段が必要です」


 涼子の言葉に周りが固まった。


「……それは武器のことか」


 ようやく滝本が言葉を吐き出した。

 涼子が頷く。


「武器も、です。必要ならありとあらゆるモノを、全てです」


 再び沈黙が流れる。


「……無理だ」

「無理でも、です」


 倉橋が絞り出した抗いは即座に否定された。


「無理だっつてんだろ!」

「それでも、です」

「しつけえなぁ、じゃあテメエ一人でやれや。俺は関係ねえ」

「もちろん、一人になってもやります。ですが倉橋さんも無関係ではいられませんよ。奴らは、モンスターは人の都合なんて知りません。関係無いとか、平和的にとか言っても奴らは奴らの都合で動くんですから」

「なんだとコラ」

「いい加減にしろ、二人とも!」


 たまらず滝本が怒鳴り付けた。そこにトイレからカオルが戻ってきた。


「いやー吐いた吐いた、吐くだけ吐いてもスッキリしないね」


 顔色は悪かったが、カオルの口調は普段に近いものだった。


「吐き気の代わりに、今度は怒りがこみ上げて来ちゃったよ。怒り全開、覚悟はよろしくてってな感じだよ」

「橘……大丈夫か?」

「大丈夫じゃない!」

「え……」


 心配そうに訊ねた滝本の台詞をカオルは全力で否定した。訊ねた滝本本人はもちろん、他の者も呆気にとられた。


「全然大丈夫じゃない!アタシらは食いモンじゃねーっつーの!黙って殺されてたまるか」

「橘……」

「駆逐してやる、一匹残ら…イテッ」

「調子にのるな」


 途中から芝居がかったセリフになっていた。カオルの頭上に滝本の拳が落ちた。強い拳ではなかったが、カオルは大げさに痛がってみせた。


「おまえがアニメや漫画好きってのは、よーく分かったよ。でも、まあ、気持ちは同じだ」


 滝本は「そう言うタッキーも好きなくせにーっ!」というカオルの言葉をスルーして、倉橋を見た。


「倉橋の気持ちも分かる。命を張ったやりとりなんざ、俺も本当は御免だ、だけど向かいのビルみたいになるのはもっと嫌だ。だから、できることはできるだけやる。今はそれでいいんじゃねえか?」

「……分かったよ」

「黛も、それでいいよな」

「はい」

「よし、じゃあ武器になりそうなモンを探すか」


 改めてビル内を探索することになった。まずは警備会社の桜井支社長が備品を提供してきた。

 防弾防刃ベスト、強化プラスチックの盾、伸縮式の金属製警棒、赤樫の木製警棒とじょう、長い棒の先にU字型の金具がついた刺股さすまたなどを阿部が運び出してくる。阿部によると、警棒と杖は、警戒棒と警戒杖けいかいじょうというのが正式名称らしい。


「数はありませんが、使って下さい」

「いや、助かるよ阿部さん」

「おじさん、グッジョブ!」

「はあ、どうも」


 サムズアップするカオルに半笑いで阿部は頭を掻いた。


 このビルは地下一階、地上八階の九階建てだった。滝本たちは、各テナントの責任者を伴い、地下から見て行くことにした。涼子たち三人も後からついて行った。


 地下一階には、駐車場、機械室、倉庫がある。倉庫は二つ、一つは六階から八階を占める建設会社が所有している。この倉庫からは塩ビのパイプ、直線を引くための墨坪という道具に使われる坪糸、配管に使うアルミ製の細いパイプ、ボルトナット、釘類、工具類などが回収された。さらに手頃な鉄パイプが何本か運び出された。

 もう一つのビル管理専用倉庫には防災備品が収納してあった。そこには救助道具のセットが三組あり、バール、ハンマー、斧、ツルハシが回収された。


 一階には携帯ショップ、パソコンショップ、警備室があったが、武器に利用できそうな物はなかった。


 二階には居酒屋、洋食屋、イタリアンの飲食店がある。包丁とか武器になりそうだったが、滝本の「飯が食えなくなってもいいのか」の一言で見送りとされた。


 三階は空きテナントと漫画同人誌専門店。本を持ち出したがるカオルとアユを引き離すのに苦労する。


 四階にはフィットネスクラブ。ここでアユがエクササイズに使われるゴムバンドを回収した。ダンベルやリフトアップのウェイトが何かに利用できないかと頭をひねったが、保留とした。


 五階は警備会社、六階から上は建設会社が入居している。ここでは特に何もなかった。回収した資材を持って警備会社に戻った。


「分かってたが、ショボいよな」

「こんなもんだろ」

「無いよりマシってレベルだな」

「誰か俺に銃をくれー」


 回収された物を見て、みんな一様に肩を落とした。


「で、これは何に使うんだ?」


 倉橋が塩ビのパイプを指した。


「弓矢を作る~」

「ハア?こんなもんで弓矢なんて作れっかよ」


 倉橋がアユを睨み付けた。アユは怖がってカオルの陰に隠れる。


「いやいや倉橋さん、僕もネットで見たことがありますよ」

「本当ですか!?」


 阿部の言葉に倉橋が驚いた。


「結構本格的な弓が作れるらしいですよ。そうですよね、アユさん?」

「初めて作るから、わかんないけど、頑張る~」

「マジか……」

「火を使うから厨房借りる~」


 アユは居酒屋の店長を伴い階下に降りて行った。倉橋も興味がわいたのか、阿部と一緒に塩ビのパイプを持ってついて行った。


「何なんだあの子は?普通の女子高生は弓矢の作り方なんて知らんだろ」

「ミリヲタってほどじゃないけど、アユアユは昔っから、ああいうのに詳しいね」


 なぜだかカオルがドヤ顔で滝本に応えた。


「スゲエな」

「あータッキー、アユアユはダメだよ。アユアユはあたしのモンだから。惚れるなよ」

「さっきからタッキーってなんだ!ガキ相手に惚れるとかねえし!」

「ふーん、そういやタッキーって年令不詳だよね。何歳なのかな?」

「…………歳」

「あれあれえ、急に声がちっちゃくなっちゃったぞー」

「38歳だよっ!なんか文句あるか」

「おおっ!マイダディの一つ下だ」

「マジか……」


 がっくりと脱力してしまった滝本の肩をカオルは軽く叩いた。


「うちのダディよりはカッコいいよ、タッキー」


 そう言うと「あたしも手伝うぜー」と言いつつ部屋を出て行った。


「滝本さん、顔がにやけてますよ」


 涼子の指摘に、飲みかけたコーヒーを盛大に吹き出す滝本だった。



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