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TOKYOダンジョン  作者: 佐世 保
秋葉原サバイバル
3/29

3月24日 ゴブリン!

ちょっと強引ですけれどが、三人の容姿を追加しました。

制作メモを作っているのに色々抜けるって……アホな作者です。


 終業式が終わった後、三人は揃って秋葉原に出かけた。同じ文芸部に所属する三人は一緒に行動することが多い。


学校から直接来たので三人とも制服と学校指定のハーフコート姿だった。


身長が165cmの涼子はカオルやアユよりも背が高い。カオルは155cm、アユは147cmしかない。三人が並んで歩くと、涼子の大人びた容姿もあって姉と妹たち、あるいは高校生と中学生たちにしか見えなかった。


 秋葉原に出かけたのは、三人が読んでいる人気ライトノベルのイベントに参加するためだった。アニメ化もされている作品で、今日のイベントには作家はもちろんのこと、声優達も出演する。


「アユアユは誰目当てなの?」

「声優の高瀬いおり~」

「そういう涼子は、やっぱり原作の中森藤歩先生のサイン?」

「もっちろん!あ、でも主人公アベル役の杉岡さんのサインも欲しいなあ」

「時間的に厳しいかも~」

「そうだね。並び直さなきゃいけないからねえ」


 中央線沿線にある学校から秋葉原までは電車で30分の距離、三人で楽しくおしゃべりをしていると、あっという間に着いてしまう。

 電気街口を出て秋葉原UDX方面に歩いて行く。


「時間が早いからお茶しない?」

「え~、あたしはコスプレショップ行きたい!」

「ミリタリーショップに行く~」

「ハア、病んでるねえ君たちは」


 ため息混じりに涼子は首を振った。


 三人は楽しげに秋葉原を歩いた。涼子は長い黒髪をなびかせ、カオルはややブラウンの入ったシンプルなエアリーショートの髪をしている。アユはゆるふわなクセっ毛ショートだ。すれ違う何人かは振り返って三人を見ていた。


 何の前触れも無く急に涼子が立ち止まり、頭を抱えて蹲ってしまった。


「どうしたの!涼子!」

「だ、大丈夫~?」


 肩を抱きかかえカオルが声をかける。アユは友人の変異におろおろしながら、今にも泣き出しそうだった。


「痛い!痛い!頭が……」

「どうしよう、どこかで休ませないと……地震?!」


 その時に地震が起きた。

 とはいえ、立ち止まっているカオルだから感じた小さな地震だった。周りを歩いている人々は何も感じていないようで、普通に歩いていた。

 カオルも地震どころではなかった。友人が具合悪そうにしているのだ。しかも顔色は真っ青で顔中に大粒の汗を浮かべているのだ。

 目の前の交番に立っていた若い警察官が気付き、駆け寄って声をかけてくれた。


「君、大丈夫か?救急車呼んであげようか?」

「だ、駄目ッ!」

「え?」


 強い拒絶の言葉だった。

 若い警察官はもちろん、カオルとアユもたじろぐような拒絶の言葉だった。


「そ、そうかい、大丈夫なんだね。あまり無理しないようにね」


 警察官が交番に戻ろうとした時、突然空気が変わった。

 雰囲気では無い。

 文字通り、あたり一帯の空気の質が変わった。

 3月の終わり、まだコートが手放せない気温だったはずなのに、生暖かい空気が足元から立ち昇っていた。

 都心の雑踏の匂いが、密林特有の濃厚な腐葉土の匂いに変わった。


「何あれ~?」


 アユが指さす先、駅前広場の中央付近にもやが湧き出した。湧き出した靄は、瞬く間に直径10メートル位の球体を作った。

 付近に居た人々が靄を避けて後退る。好奇心で靄に触れる人も居たが、靄の中から光が溢れ始めると、慌てて離れた。

 少し離れた場所にいるカオルたちには判らなかったが、靄の近くにいる人々は獣の唸るような声と獣臭を、はっきりと知覚していた。


 光がこぼれる靄の中に人型のシルエットが見えた、と思った次の瞬間、人型が靄の中から飛び出して来た。


「……ゴブリン!」


 ゲームやファンタジー小説に定番の下級モンスター。カオルとアユには馴染みのモンスターだった。


 現れたゴブリンは緑がかった皮膚を持ち、革製とおぼしき鎧を纏っていた。手には剣、というよりなたに近い形状の武器を持っている。

 ゴブリンはギョロリとした大きな眼で周囲を見回し、匂いを嗅ぐような仕草を見せた。そして、醜悪な顔を歪めるようにして笑った。


「ガァァァァッ!」


 ゴブリンが立ちすくむ人々を威嚇するように咆哮を上げた。

 咆哮に呼応するかのように靄の中から次々とゴブリンが飛び出して来た。そして人々を襲い始めた。


「嫌ァッ!」

「助けてくれぇ…」

「逃げろ!」

「チクショウ!」


 悲鳴と怒号が広場を埋めつくしていく。

 ゴブリンが武器を振り上げるたびに血飛沫が飛ぶ。

 目の前で繰り広げられる凄惨な光景に、カオルとアユは涼子を抱きしめたまま、ぶるぶると震えることしかできなかった。


「立てるか?」


 若い警察官が訊ねた。

 カオルは涙目で警察官を見上げた。


「立てるか?」


 再び警察官が訊ねた。

 カオルは無言で頷き立ち上がった。


「なんとかその娘を立たせて逃げろ」

「……」

「できるか?……いや、なんとしても立たせて逃げろ。いいな」


 カオルは、また無言で頷く。

 若い警察官は、ニコリと笑うと拳銃を抜き、伸縮式警棒を振り出すと駆け出した。


「に、逃げなきゃ……」


 カオルは若い警察官の背中を見送りながら呟いた。


「涼子、立って涼子」


 カオルは涼子の腕を取って引っ張った。だが、涼子は蹲ったままだった。


「立てよッ!このままじゃ死んじゃうぞ!立てったら立てよッ!」

「涼子~立ってよ~」


 いつの間にかアユも立ち上って、反対側の腕を引っ張っている。その顔は涙と鼻水でグシャグシャだった。

 二人に引っ張られて、ふらふらと涼子が立ち上がった。顔を上げて周りを見回した。


「こんな、こんなことに……」


 顔を歪め、今にも泣き出しそうに涼子は呟いた。


「いいから逃げるよ!」


 カオルたちに手を引かれながら、涼子はよろめくように走り出した。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 走りながら、涼子は謝罪の言葉を繰り返していた。

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