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TOKYOダンジョン  作者: 佐世 保
プロローグ
2/29

4月1日 (2) 女子高生のハンカチはレアアイテム

「こんにちは、私は黛涼子まゆずみりょうこと申します」


 厨房から現れた少女は、きちんとお辞儀をして名乗った。服装はジーンズにパーカーにスニーカーというラフな格好だが、どこぞのお嬢様といった風情がある。艶やかな長い黒髪をアップにまとめている。スーツでも着させて、眼鏡を掛けたら秘書とかが似合いそうだった。


「どうも、番匠和人ばんしょうかずとです」

「では、情報交換と行きましょうか。こちらへどこぞ」


 涼子は居酒屋店内のテーブル席に和人を誘い、アユに声をかけた。


「アユ、悪いけど飲み物をお願い」

「らじゃ~」

「毎度!中生ふたちょ……」

「カオル」

「てへぺろ」


 ふざけようとしたカオルに、涼子は極寒の声と視線を浴びせた。可愛いらしく舌を出してみせると、カオルはアユを追いかけて厨房に入って行った。


「さて、改めてよろしくお願いします。私は黛涼子、都立の高校二年生です」

「高二……ホントに?あの二人は?」

「同級生で、同じ部活の友人です」

「マジですか……」

「高校生には見えませんか?」


 中学生にしか見えないカオルとアユにも驚くが、高校生に見えないほど大人びた涼子にも驚く和人。


「君は凄く大人びて見えるし、あの二人はもっと子供に見えたよ」

「……そうですか。それは老けて見えるということでしょうか?」

「あ、失礼。そうじゃなくて……」


 慌てる和人を見て、涼子は小さく笑った。


「いけない子だな。大人をからかわないでくれ」


 和人が憮然とすると涼子は小さく頭下げた。


「ごめんなさい。ところで、番匠さんは陸上自衛隊員なんですよね?」

「そうだ」

「救出に来られた、ということでよろしいでしょうか?」

「そうだったんだが……逆に助けられた」

「同じ部隊の方たちは?」

「……」


 和人は、なんとも言えない悔しそうな顔を浮かべた。


「お待たせ~」


 そこへアユとカオルがジョッキを四つ運んできた。涼子に勧められるまま和人は一口飲んだ。よく冷えたウーロン茶だった。冷たい塊が喉を潤す。そのまま一気に飲み干した。

 そういえば、言問橋の戦闘以降何も口にしなかったことを和人は思い出した。


(ああ、喉がこんなに渇いていたんだな)


 生理的欲求を満たす心地好さ、それは和人に生きていることを思い出させた。同時に倒れていった仲間のことも思い出させた。


(あれ?)


 不覚にも涙がこぼれた。子供たちの前で情けない、と思いながらも和人は涙を止めることができなかった。化け物の出現からずっと続いていた緊張が、たった一杯のウーロン茶で弛んでしまった。自分はこんなにも弱かったのか、と和人は思った。いましがた自分のことを大人だと言ったばかりなのに恥ずかしいとも思った。


 そんな和人を涼子は、高校二年生とは思えない眼差しで優しげに見つめている。アユは黙って飲み干されたジョッキを自分のジョッキと入れ替え、カオルはピンクのハンカチを差し出した。


「ありがとう…」


 和人はジョッキとハンカチを受け取った。

 戦闘服の袖で涙を拭った。もう一口ウーロン茶を飲むと、大きく息を吐いた。使わなかったハンカチをカオルに返す。


「もう大丈夫だ。ありがとう」

「ガーン!女子高生のハンカチが、まさかの出番無し!」

「あ、いや、その、ごめん。でも、ありが……」

「女子高生のハンカチはレアアイテムなのに!」

「……」

「く~、使用済み女子高生ハンカチは高値で取引されるんですぜダンナ?」

「使用済みかいっ!つーか、なんだそのダンナってのは!どういうキャラだ、オマエ!」


 カオルと和人の掛け合いを聞いていた、涼子とアユが笑っていた。


「まあいい。ありがとうな、橘さん。ちょっと元気が出たよ」

「そう?なら良かった」


 カオルが和人の気を紛らわそうと、悪ふざけをしたのが判る位には、和人は大人でいられたことにホッとした。

 礼を言われたカオルの頬は少し赤かった。


「話を戻そう。さっき魔法とか言ってたよな、どういうことだ?」


 真剣な顔付の和人に、微笑んでいた涼子も真顔に戻った。


「はい、あれは魔法としか説明できないものです。頭がおかしくなったかと思われるかも知れませんが、とりあえず最後まで聞いて頂けませんか」

「わかった。最後まで聞いて、それから判断するよ」

「ありがとうございます」


 ペコリと頭を下げると、涼子はウーロン茶で喉を潤し、説明を始めた。


「番匠さんはゲームとかなさいますか?」

「え……?」


 質問の意図が判らず、和人は即答できなかった。


「家やスマホでゲームはされませんか?」

「いや、俺はああいうのは苦手でね、身体を動かす方が好きだ」

「そうですか。では、ファンタジー小説とかは読まれませんか?」

「すまないけど、読書もちょっと……」


 ますます質問の意図が判らない。言い淀んだところに、可愛いらしく首を傾げたアユがカオルに訊ねた。


「脳筋~?」

「脳筋ね」


 カオルは大きく頷いた。


「脳筋って言うな!これでも大卒だぞ」

「え?自衛隊って『君、良い身体してんね。自衛隊入らない?』って誘われて入るんでしょ?」

「いつの時代の話だよ。今時の自衛隊に、そんなリクルートはありません」


 和人も、いちいち相手にしては駄目だと判ってはいる。それでも、ついつい相手にしたくなる娘達だった。


「ちょっと、アユ、カオル、話が進まないから弄るのは後にしてちょうだい」

「は~い」


 涼子が怒ってみせると、声を揃えてアユとカオルが返事をした。


「じゃあ、異変が起こった3月24日から順を追って話します」


 そして涼子は東京に異変が発生した日に自分たちが経験したことを語りだした。







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