1、文章作法 【描写のコツ】その3
3、五感、経験則に訴える
三つ目のコツです。
文章に読者の五感を刺激する文章を組み込んでください。
催眠術で目の前にある水が熱湯であるという暗示をかけるとどうなるでしょう?
何となく予想がつくと思いますが、「熱湯」に触れたと感じて飛びのくといった行動を起こします。
実際は水なのにも関わらず、火傷するという現象を引き起こす可能性もあります。
海外の熱心なキリスト教徒の肉体に、イエス・キリストが受けた同じ個所に傷が出現することがあります。
これを「聖痕現象と言い、純粋で深い信仰心の証とされます。
科学的には、脳による深い思い込みが体に影響を及ぼした、と考えられています。
それほどに脳は想像力豊かで、身体に影響を及ぼすものです。
「熱湯に触ったら熱い」というのは、実際に感覚を伴って経験した記憶です。
こういった経験を呼び起こすということを文章に組み込めたらどうでしょう?
目の前に熱湯があるという文章を、より際立たせる方法を考えてみてください。
湯気が出てる、ゆだっている、など修飾文はあるでしょう。
これはこれで熱湯であると思わせることも出来ますが、今回は上記の脳の特性を利用して熱湯を表現するというのがお題目です。
熱を感じるのは肌ですよね。
五感で言えば触感。
触覚を刺激して、読者が経験した記憶自体を引き出してイメージさせやすい文章にするというのがここで言いたいこと。
【例文】
指を入れた途端、触れた肌全域にわたって鋭い激痛が走り、飛び上がるようにして指をひっこめた。
ヒリヒリした幹部を無意識に口に突っ込んで冷やす。
火傷してしまいそうな熱湯だった。
こんな感じですかね。
誰しもが体験したことがある熱いものに触れた時の感覚を文章に含めるのです。
そうすることで読者は自分の記憶と照らし合わせ、それはただの熱湯ではなく「読者が体験した時の熱湯」になります。
これが五感を描写に混ぜることにより生じる効果。
情景描写には「色」を混ぜてください。
視覚を刺激します。
綺麗な髪を描写するなら色合いも大事だけど、私なら「ふわりと優しい甘い女の子の匂い」と付け加えます。
いい匂いがしますよね、綺麗な髪って。
歩くという動作に足音を添えると聴覚が刺激されて臨場感が増します。
レモンの酸味を想像させる文章を頭に思い浮かんでください。
唾が出てきますよね。
ただ文章を書くのではなく、読者の五感を刺激するような文章を組み込むことで、読者は意識せずとも経験を呼び起こしてその時の感覚にリンクしてくれます。
こういった情報を添えてあげると、読者がイメージしやすくなります。
文章という、一見して味気ない媒体ですが、色や味、匂いや音、手触りなどを読者の頭の中で膨らませてあげると、それが一つの世界になります。
ぜひ一度試してみてください。
今回で【描写のコツ】はおしまいとなります。
分かりやすく解説したつもりですが、描写は小説書きの永遠の課題です。
現状で満足せず、より素晴らしい文章で物語を紡ぎあげてくださいませ。




