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「ふぁあああ。」
「おいおい、仮にも女なんだから口くらい隠せよな。…ふぁあああ。」
大口を開けてあくびをする朱莉に対して、茶々をいれる咬雅。いつもならここで朱莉が突っかかるはずだが、今日はそうはいかない。
なにぶん今朝の件があったためほとんど寝ていない。
そんな朱莉の寝不足に反して村は活気づいていき、太陽も燦々と照りつけていっている。夏の太陽は寝不足にとって最大の天敵だ。
いつもであればこの昼の見回りの仕事もまったく苦ではないのだが、さすがに体が重いと気力もなくなってくる。そんな時に咬雅に突っかかる元気なんて今の朱莉には持ち合わせていないのだ。
「姫様、少し休まれてください。」
そんな朱莉の体のことを気遣う伊佐季。咬雅はさておき、伊佐季自身ももほとんど寝ていないはずなのに平然としている。
なぜ眠たくないのかとそんな疑問を持ちながらも、朱莉は伊佐季の提案に首を振る。
これは自分自身の仕事だという責任感もあるが、それ以前にこの仕事が好きだということもある。
そんな朱莉といつも一緒にいる伊佐季と咬雅は、守人補佐として使えている。
もとは二人も流罪人であるが、ここではある試験に合格するとこうやって管理される側から管理する側につけるようになっている。もちろん人数制限もあるが、朱莉が守人になってからの試験に合格したのはこの二人だけで、あとの住人はこの島で管理されながら生活している。
「その姫様っていうのやめてっていつも言っとるやんか。」
朱莉が繰り返し注意するのに伊佐季も頑固でそう呼ぶのをやめない。
そもそも朱莉はこの対州国を治める宗家の次女であるため、お姫様であることに間違いはない。国を治めていた両親は早くに亡くなっているため、今では朱莉の姉がこの国の統主となっている。
現在宗家の直系は三姉妹しかおらず存続を危ぶまれたが、今までよりも力が劣ったわけではなく寧ろ一族としての力は歴代最大といわれている。
そして代々この流刑島の守人をする役目も宗家は担っている。もちろん誰でもいいというわけではなく、それ相応の資格が必要であり、むしろその守人の資格を受け継いで生まれてくる。
宗家の各世代の中からその資格、“武”の力を持つ者が必ず一人出生する。
朱莉はその力を受け継ぐ者であり、その証拠に赤みがかった茶色の髪と瞳が興奮状態になると真っ赤に染まる。もちろん生まれてきたときも真っ赤に染まって生まれてくるため、代々その髪と瞳の色で資格者を見分けていた。
そして朱莉は喧嘩等の荒事が好きなため、少しでもトラブルがあるとすぐに赤く染まる。
そんなおてんば娘の朱莉でも今日は本当に眠いのか、少しふらふらしながら小さな村を歩いている。その後ろを咬雅が同じように眠そうに歩き、伊佐季は心配そうな顔で静かに見守っている。