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「姫様。」
いつ喧嘩が始まってもおかしくない状況で声を発したのは伊佐季。
「何よ、伊佐季。」
「咬雅は後回し。」
「おいおい。んな悲しいこと言ってくれるなよ、伊佐季。」
朱莉の時とは打って変わって、悲しそうな声で伊佐季に声をかける。その様子をみた朱莉は呆れた顔でため息を吐く。
「咬雅うるさい。姫様この穴の中に舟がありました。」
伊佐季も鬱陶しさしか感じないらしく、咬雅に対しては冷たくあしらった後に、朱莉へ要件を伝える。
舟という単語を聞いた瞬間、それまで忘れられていた小太りと細身の男は、またびくっと体を震えさせる。
それに反して朱莉というと、どんどん意地の悪い顔へと変わっていく。
「ほう、舟がねぇ。」
伊佐季の船という言葉に、先ほどまで忘れ去られていた男二人に朱莉の視線が戻る。男二人はもう何も言えず下を向いて震えている。
船まで見つかってしまえばもう言い逃れはできない。とうとう窮地に追い込まれた男二人はおもむろに顔を上げると。
「こうなったら強行突破だぁぁああ。」
朱莉に向かって襲いかかってきた。
「おっ!いいね。そうこなくちゃあ、面白くない。」
わくわくした顔で朱莉も二人を迎え撃とうと構える。
ドカッ、ボコッ
しかし、一瞬にして朱莉と男二人の間に伊佐季と咬雅が入り、男二人をのしてしまった。
「何してくれちゃってるの、二人とも。」
おもちゃを取られた子供みたいに拗ねてみせる朱莉。よっぽど喧嘩がしたかったらしい。
「何って、朱莉お前武器持ってねーじゃんよ。」
「姫様、危険です。」
咬雅と伊佐季は当然のように反論するが、拗ねてしまった朱莉は納得しない。
「過保護すぎよ。」
「まあまあ怒んなって。こうしないと俺らが統主様に怒られんだから。」
そんな朱莉に対して今度は優しく諭す咬雅に、彼女自身駄々をこねるのをやめる。いじめモードでない咬雅では張り合いがないらしい。
「……。そういうことなら仕方ないか。伊佐季、二人を縛って。」
彼女は拗ねるのをやめると、すぐに表情を変え伊佐季へと指示を出す。伊佐季は素早く二人を縛ると繋いだ縄を持って彼女へと近づく。
咬雅は隠されていた舟を壊し朱莉のほうへ振り返る。すべてが終わったことを確認すると彼女はにんまりと笑顔を見せて二人に呼びかける。
「よし!!任務完了!!おなかも空いたし、家かえろー。」
そういうと、三人と捕まった二人は山を下りて行った。