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「・・・・・・・・・・・・・・・・姫様。」
その沈黙を破ったのは、朱莉と同じような忍びの格好をした青年。
真っ黒な衣装を身にまとい、口元までしっかりと隠しているが、スッと流れるような切れ長の目が整った顔を思わせる。
その青年は男たちの後ろで膝をつき、その切れ長の目で朱莉をまっすぐに見ている。
2度も背後を取られた小太りと細身の男二人は、また大きく体を震わせる。また声のする方へゆっくりと視線をやると、二人の顔からは焦りが出てくる。
それもそのはず、青年がいるのは舟を隠している入口のすぐ横なのだから。
そんな二人の表情を知ってか知らずか、朱莉は青年、伊佐季に声をかける。
「伊佐季、その呼び方はやめてって何回も言っとるやろ。」
「そうだぞ、伊佐季。こんながさつ女に〝姫様″なんて…。」
姫様と呼ぶことを否定する彼女の後ろの方から出てきた長身の男がそう口にした瞬間、鈍い音が山の中に響いた。
「ッ痛ってーな!!なにすんだ、朱莉!!」
朱莉の拳が入った左頬を手で押さえながら長身の男は一歩後ろに下がり、すぐさま怒鳴り声を上げる。
「うるさいな。あんたはいつも一言多いのよ、咬雅。」
咬雅と呼ばれる長身の男は、朱莉の返事に納得がいくはずもなく、反撃を続ける。
「だからって、殴るこたぁねぇだろ!!すぐ手が出る女はモテねえぞ。」
「もう一回殴られたいようね。」
失礼千万なことばかり言う咬雅に、再度殴ろうと朱莉は拳を握りしめた。咬雅も条件反射で構え、二人の間には緊迫して空気が流れる。