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「よし、完成だ。」
「あぁ、これでこの島から出られる。」
「早速今夜、決行するぞ。」
まだ日も明けきらない早朝。木々の生い茂る山の中で二人の若い男が周りを気にしながら話をしている。
一人は身長が平均よりも少し低く、おなかが出ている小太りの男。もう一人は長身で骨と皮だけでできているような細身の男。二人は出来たばかりの舟を囲んで、笑みをこぼしている。
「この島に来て半年。この日をどんなに待ち望んだか。」
「思えば長かったな。おい、もうすぐ夜が明ける。こいつを隠すぞ。」
「そうだな、ここまで来てあの番人に見つかっては元も子もない。」
完成した舟を見ながら男たちはしみじみ語り合っていたが、そそくさとそれを近くの穴へ戻し、蔦や草で隠す。
これで見つかることはないと安堵し、村へ戻ろうと立ち上がろうとした瞬間。
「こんなところで何をしとるのかなぁ。」
後ろから少女の声が聞こえた瞬間。男二人はびくりと体を強張らせる。額からは冷や汗が止まらない。まだ少し高さの残る少女の声に対して異常なまでに恐怖を感じた二人は、意を決して恐る恐る同時に振り返ると。
『あっ、朱莉ッ…様。』
そこには短髪の少女が男たちの後ろから見下すようにして立っている。
忍びのような衣装を身にまとう少女は、一見青年のような顔立ちではあるが、声も体つきも女のそれだ。
しかし彼女、朱莉を見てからさらに男二人の顔には恐怖しか見て取れない。大量の冷や汗をかき、目は泳いで宙しか見ていない。
この少女が特別体格がいいわけでもなく、顔が怖いわけでもない。見ただけではそこらへんにいるごく普通の少女一人に大の大人が二人してこのありさまである。
「おまえらこんな朝早くから、何をやっとるのかな?」
蛇に睨まれた蛙のように萎縮してしまった二人に、再び少女は問いかける。
「えっと、その、あのー…。」
萎縮しきった二人が、うまく答えられるわけもなく、言葉を濁すしかなかった・・・、がしかし、すぐに小太りの男のほうがハッと閃きこう答えた。
「しっ、仕掛けを!仕掛けをしとったんです!!」
「ほう、仕掛けをねぇ?」
朱莉は誰も引っかからないであろう嘘を放った小太りの男に、訝しげな表情をするもすぐさま、悪巧みを考えている子供のような顔をし言葉を返す。
「はい、俺ら狩り上手くなくて。だから仕掛け作て獲物をとろうと。なあ?」
小太りが必死に理由を作り、細身の男へと話を振る。まだ萎縮で言葉が出なかった細身の男も、相方が振ってきた事に驚き焦るが、すぐに話を合わせてうなずいた。
「えっ!?あっ、は…はい!!」
この話を信じてもらえなくとも、自分たち疑いをかけられようとも、何よりも舟を隠すことに必死になる男二人。とにかくこの場所から早く離れたいがために一生懸命誤魔化そうとしている。
「…ふーん。」
そんな二人を疑心の目で見る朱莉に、その目をじっと見つめる男二人。
三人の間にはしばらくの沈黙が訪れる。