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近代戦国史!  作者: あんかー
第1章
5/8

血に染まる川(後編)

 「L・O・V・E、ネネちゃんッ!L・O・V・E、ネネちゃんッ!」

信長の屋敷。その一室から聞こえる謎の歓声。その人物は日夜テレビに向かって叫び続けていた。

 

 「さすがはネネちゃん。今回のオリコン1位も決まったような物だな。」

こう呟いているのは、誰であろう織田信長であった。


 「それにしても、テレビの力はすごいものだ。これで幕府も権威を取り戻すのやら。」

 

 テレビ。現在我々が使っているのと変わらない液晶テレビである。室町幕府が一応の実権を握っている今の日本では、テレビ局やラジオ局などの情報発信施設は京都に集まっていた。幕府という体制には大名達は逆らいはするものの直接攻撃などの手段は行わなかった。そのため戦火を免れ、今の京都の文化は栄えていた。その中でも一際目立っていたのが、テレビに引っ張りだこのアイドル『ネネ』であった。

 浅野家の養女であり、本来ならば普通に百姓として暮らすはずだったが、12歳の時、幕府の役人の目に留まり、スカウトされ見事大ブレイクを期したのである。CDも出しており、発売日には長蛇の列ができるほどであった。また、毎回オリコン1位を独占しており、今や芸能界のジャンヌダルクと言われていた。そんなネネを信長はテレビで見かけ、今に至ったのである。


 「しかし、今回の新曲も早いうちに買いに行かねば。また売り切れになるかもしれんし・・・」


 「殿ッ!」


 突然家臣の者が信長の部屋に駆け込んできた。その瞬間、信長は急いでテレビの電源を消し、すまし顔になった。


 「どうなされました?」


 「べ、別になんでもないわ」


 「それより、一大事でございます!美濃の斉藤義龍様が兵を挙げたとの報が!」


 「奴はどこに向かっている?」


 「元斉藤家当主、斉藤道三様のもとにござりまする!」


 「なに……」


 信長は驚きを隠せなかった。数日前も正徳寺にて信長と道三に夜襲を仕掛け、殺されそうになった。だが、その後は道三が家臣を招集し義龍に対する監視を行わせていた。だが、今になって義龍は父を討とうと目論んでいる。これは、信長にも許せる事態ではなかった。


 「兵を清洲に集めろ。寄せ集めでも戦力にはなる。敵はいくらだ?」


 「は!現在、道三方2500、義龍方……17000にございます!」


 「そうか」






  清洲城・広間にて


 「よいか皆の者。これより我が軍は我々の同盟主斉藤道三の救援に向かう!信盛は2000の兵を率い義龍側の各務砦と茂山砦を落とせ」


 「は!」


 「恒興と長秀はそれぞれ1000ずつ兵を率い俺と共に道三の直援にまわれ」


 「「は!」」


 「殿。車はどうされますか?」


 「出すな。敵に感づかれる可能性がある。それに車では戦えん」


 「承知しました」


 「では、行くぞ!」


 「「「オッーーーーーーー!!!!!」」」


家臣達がやる気に満ち溢れた状態で広間を出て行くと、そこに1人の男が入ってきた。


 「兄上」


 「信勝か。勝家達を出させなかったのは貴様だな?」


 「!?」


 「用件を言え」


 「兄上を諌めに参りました」


 「貴様ごときが俺を諌めるなど片腹痛いわ」


信勝は少し腹に立ったのか歯を少し食いしばっていた。


 「何を言われようが兄上を救援になど行かせませぬ!」


 「黙れ愚弟が」


その一言は圧倒的な覇気を纏っていた。信勝はその迫力に怯え一歩退いたが、信勝は諦めなかった。


 「道三を助けるのに何の意味があるのです?」


 「貴様の言動に付き合ってなどおれん」


 「しかし、このたたかッ!?」


信勝が何かを言いかけた瞬間信長は信勝を殴り飛ばした。信勝はふっとばされ障子を突き抜けた。


 「信勝……俺はお前に構っていられるほど冷静じゃあないんだよ」


信長は信勝にそう吐き捨てると広間を出て行った。


 「兄上……」





 長良川・道三陣営本陣にて

 

 「困ったのう。なんという壮大な親子喧嘩じゃ」


 道三は冗談のように言ったが、周りの家臣にとっては決死の戦いである。笑っている場合ではなかった。すでに、道三方と義龍方で戦闘が始まっており、道三方は戦力差からしてすでに第二陣まで押されていた。


 「信長は来るかのう」

 

 「信長は来るのでしょうか?我々の盟友ですがあの男は大うつけです。こんな戦いに来るとは思いませぬ」


 「来るには来るであろうな。だが、来れぬ。来れぬ様になる」


 「どういう意味なのですか?」


 「じきに分かる」


 突然陣の中に一人の男が駆け込んできた。その男は傷だらけで矢や銃で撃たれた後があった。


 「も、申し上げます!第四陣まで突破され、敵は目前にッ!?」


 突然男が血を吐いて倒れた。その兵の背中には長槍が刺さっていた。これに辺りは騒然とした。その後ろから男が一人歩いてきた。


 「申し訳ありませぬ御館様」


 その一言に道三の周りの者は驚いていた。


 「良通か。ということは直元や守就もいるのか」


 「は。我ら一同良し龍様に先手を打たれ申した。妻子を人質にとられ、情けないことに抵抗の一つも出来ませんでした」


 「嘘つけい……まあ良い。こうなったからにはそちらにも本気で戦ってもらわねばな」


 「無論、こちらも御館様と戦う機会などありませんでしたからな。本気で行かせてもらう!」


良通と道三は槍を構えた。大将と武将の本気の戦いが始まろうとしていた。



 

 

 美濃・街道にて


 「なんだ貴様は?」


 信長達は森の中にある広い道を馬に乗って走っていた。だが、道中茂みの中から男が道を塞ぐ形で出てきたのだ。


 「貴公が信長公か?」


 「そうだと言ったら?」


 「果たし合うのみ」


 「俺が目当てか?」


 「そうだ」


 「長秀と恒興は先に行け。俺は後で追いつく」


 「殿!それはなりませぬ!」


 「危険でござります!」


 「俺が目当てだと言っているんだ。俺が残り、他のものが親父殿を助けに行く。それで問題ない。1人減るだけだ」


 「しかし……」


 「行くぞ長秀」


 「いいのですか?」


 「殿に対してはこういう時は、お決まりの台詞を言っておかんと。それに、あれだけ自信があるのだ死ぬわけなかろう」


 「そうでしたね」


 「そうそう。では、殿ご無事で」


 「お前ら俺を何だと思ってる……まあいい。急げ」

 

 「あ、あとこれを」


 そう言うと長秀は脇差を信長に差し出した。

 

 「なんだ?」


 「いやー殿いっつも銃しか持ってないじゃないですか?だから、もしもの時の為と思って」


 「ん。まあ、とりあえずは受けっておこう」


 「あとで返してくださいね」


 「分かってる」


 「それでは」


 長秀と恒興は兵を引き連れ先に向かった。

 森の中には2人の男が残った。


 「賢明な判断だ」

 

 「貴様に賞賛される言われはない」


 「さて、どうする?」


 「挑んだ貴様が言うことか?」


 「どちらが先であろうと、私は与えられた使命を全うするだけだ。別に貴公がかかってきても良いのだぞ?」


 「生憎と俺はかかるような武器じゃないのでね」


 「知っている」


 「なら聞くな」


と、発した瞬間、信長はコートの内に仕込んであった拳銃を抜くと即座に男に向けて放った。だが、


 「この程度か?」


 男は信長の撃った高速の弾丸を斬った。だが、男の刀は鞘に納まったままであった。


 「居合い、抜刀の技か」


 「左様。そのような弾丸ごとき私のつるぎの前では無に等しい」


 お互い間合いを取り睨み合っていると信長が口を開いた。

 

 「貴様、名前は?」


 「唐突だな。そういう事は最初に聞くべきではなかったのか?」


 「名前はと聞いている」


 「明智十兵衛光秀」


 「そうか。『明智』か……」


 「さあ、名は名乗った。早く続きを始めようではないか。それともなんだ?怖気づいたか?」


 「なに?」


 「尾張のうつけ織田信長公は銃の使い手と聞いていたが……この程度とはな」


 「その減らず口、今すぐ潰してやろうか?」


 「潰せるものならな」


 信長は銃を改めて構えなおした。光秀も柄に手を掛けた。もう一つの大将と武将の戦いが始まった。







 長良川・斉藤義龍方本陣にて


 「まだか」


 辺りは静まり返っていた。軍勢的には圧倒的に勝っていた。義龍が急かさずとも勝ちは見えていた。だが。


 「まだか」


 義龍の焦りは家臣の者達も気がついていた。なぜこんなに焦っているのか、家臣達には分かっていた。相手が分かっている以上。

 

 「殿。そんなに焦らずとも、道三の首は取れますよ」


  家臣たちが口を閉ざす中一人の男が言った。

 日根野 弘就。義龍の側近であり、斉藤軍屈指の勇将であり西美濃三人衆と同等の武将であった。

 

 「弘就。なぜそう思う?」


 「無論、俺が取るからですよ」


 「なに?」


 「というわけで、殿。首を取りに行って参ります」


 「ま、待て!」


 義龍の静止も聞かず、弘就は陣を出て行った。


 「なぜ思うように事が運ばんのだッ!」


 義龍の言葉が静かに陣に響いた。



 



 美濃・街道にて


 「ッ!」


 信長と光秀。お互いの力量は拮抗している。否、しているように見えるが、光秀のほうが押していた。信長の撃った弾丸はことごとく避けられ、斬られ、打ち壊されていった。一方の光秀は防戦一方ではあるが、徐々に信長を追い詰めていた。


(奴の弾丸にも底はある。ストックが切れるまで守れば私の勝ち。いや、守りきらずとも私の勝ちだ。)


 「おい、貴様今絶対勝てると思っただろう」


 

 「だからどうしたというのだ。いずれは貴様の弾丸も底を突くはずだ。私の勝ちは決まっているようなものだ」


 「フフッ……フフフフッッ!ハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!!!」


 信長は頭のねじが外れたように笑い出した。光秀は指を鍔に掛けたまま言った。


 「何がおかしい!?」


 「滑稽滑稽。最初から自らの勝利を決める愚将がいようとは。それよりゲームを続けようじゃないか?その内分かってくるはずだ、俺もお前も勝てないことが」


 「なにッ!?」


 信長は銃を撃つのを止め、構えを解いた。そのまま、撃っていた銃を横に投げ捨てた。


 「何のつもりだ?」


 「お前の攻撃は殆どが居合い切りだ」


 「つまり武器を捨て、無防備な状態になれば私は貴公に斬りかかる事は出来ないと?」


 「その通り、正解だ」


 「貴公は私を舐めているのか?」


 「男を舐める気はさらさらない」


 「……」


 「こんな事を言われて怒らないとは、珍しいなぁ。実はお前、そっちの趣味があったり?」


 「黙れ」

 

 「だが、以外にそういった人間も世の中には居るかも知れんし……」


 「黙れ」


 「それに趣味は人それぞれというし……」


 「黙れッ!黙れ黙れ黙れ黙れ黙れッ!!!もう貴様の様な人間を一人の大名なぞとは思わぬッ!!貴様のような人間はこの私が粛清してくれるッッ!!」


 光秀は怒りに身を任せて、剣を抜くと信長へ向かって突撃した。


 「死んでしまえェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!」


 この時、信長は微かに笑みを浮かべていた。だが激昂した光秀には分からなかった。 


 信長と光秀の戦いの決着はついた。




 



 長良川・道三陣営本陣にて


 もはや、本陣と呼べる物ではなかった。椅子は薙ぎ倒され、陣幕は破られ、旗は折られていた。そんな中で二人の男は死闘を演じていた。


 「良通、お前ってそんな強かったっけのう?」


 「無論。昔から変わっておりませぬ」


 「ならば、わしの記憶違いじゃの」


 道三の槍裁きは良通を圧倒していた。しかし良通も負けてはいなかった。

 道三の扱う槍は現在試作段階であった『虎集丸』を使っていた。それに比べ、良通は普通の槍兵が使うのと変わらない、ごく普通の長槍であった。そのため、道三の方が槍単体の力としては優れていた。だが、良通は長槍の力をフルに使い道三と互角に戦っていた。


 「ほれほれ!もっと戦ってみせんかい!」


 「くッ!」


(やはり御館様に勝つのは難しいか……なら!)


 良通は後ろに飛ぶと、右手を上げた。


 「!?」


 その瞬間、道三を取り囲むようにアサルトライフルを構えた兵が現れた。


 「おいおい、こんな物まで持ちだしおって」


 「撃てッ!」


 一人の男に向かって放たれる無数の弾丸。弾丸が放たれるたび、薬莢が宙を舞い、地面に転がっていった。銃声は轟き、硝煙の臭いが辺りにたちこめた。弾丸は底を突き、道三の居た場所は煙がたちこめていた。良道は、道三は蜂の巣になったであろうと確信していた。だが。


 「甘いわ」


 その刹那、道三を撃っていた兵士全員の首が飛んだ。切断された首からは噴水のように血飛沫が舞い、切断面からは僅かに生気の残る肉が見えていた。首のない死体は、ばたばたと倒れていき地面には血が流れ出ていた。


 「馬鹿なッ!?」


 「馬鹿なのはお前さんだ。良通。あのまま素直にわしと槍で戦ってりゃ良かったものを」


 「くッ!」


 「そこまでわしに勝ちたいか?そこまでわしの首が欲しいか?別に銃を使おうが、戦車を使おうが、素手でかかって来ようが構わん。だがな……わしは配下の命を無駄にしてまで勝とうとする貴様らが許せんのだ」


 「ぬぅ」


 「もう一度考え直せ良通。義龍は本当に正しいことをしているのかどうかを……」


 「拙者は義龍様の家臣、稲葉良通だッ!敵の言葉に惑わされてなるものかッ!その首拙者が討ち取ってくれる!」


 「そうか、為らば仕方がない。良通よ、さらばだ」


 良通と道三はお互いに突撃し、槍が交わるはずであった。だが、




 「がはッッ!?」


 良通の目の前には道三が立っていた。しかし、その体には異変があった。その体には無数の槍が背中から刺さっていた。


 「『元』お館様討ち取ったり~。ってか?」


 「弘就かッ!」


 「お楽しみのところ悪いね~イナバッチ。こちとら殿から仰せつかった任務があるので」


 「き……さ、ま……。」


 「あれ~まだ喋れたんだ?殺しそこなっちゃったね~」


 「な、……ぜお……ま、え……が」


 「そりゃ、任務だからに決まってんでしょ~。あったまわり~な、この爺さん」


 「よ……し……た……つか……」


 「はいはい。そうですよ。あなたの息子の義龍ちゃんですよ~。つか、もう面倒くさいんだよボケ老人。てめぇみてぇなの相手にする時間なんてねぇんだよ。……死ね」


 弘就は、道三の心臓を的確に狙い槍を捻じ込んだ。道三の口から放たれる全力の絶叫。目からは血管が破れ、血の涙があふれ出ていた。そして、槍がとうとう地面に突き刺さると、その瞬間、道三は息絶えた。


 




 美濃・街道にて


  街道には静寂が訪れていた。だが同時に殺伐とした雰囲気も漂わせていた。


 「なん……だと?」


 光秀の口から驚愕の言葉が漏れ出た。目の前には殺したはずの信長が刀を持って平然と立っており、その信長も不満そうな顔を浮かべていた。


 「貴様……何者だ?」


 信長が言った。信長と光秀の間には一人の男が居た。厳密に言えば、光秀が繰り出した刃を右手で受け止め、信長が繰り出した脇差を左手で受け止めていた。


 (あの速さの刃を二つとも止めるとはな。こやつはいったい……)


 「光秀様、そこまでにしてもらおうか」


 「お前は?」


 「斉藤家が忍、飛田とびたにござりまする。お互い刃を収めていただきたい」


 「それはできんな、飛田殿。わたしは今ここでこの男を切らねばならない」


 「光秀殿。これは義龍様の勅命でござりまするぞ。それに、決着はつき申した」


 「なに?」


 そう言われると、光秀は刀を納めた。信長も、それを見ると脇差を納めた。


 「飛田と申す者よ。軍配はどちらに挙がった?」


 「敵にそこまで教えられませぬ」


 「ならば、ここで貴様らを斬って行くが?」


 「それはお互いにとって不利益でございます。しかもそんな脇差で2人を相手取るのは少々厳しいかと」


 飛田の言葉を聞き、信長は自らの銃を拾いに行った。


 「やめておこう。今の俺では二人は相手に出来ん」


 「賢明な判断にございます。それでは、光秀様」


 「あい分かった。信長よ、次にあった時はこの屈辱を晴らしてくれる」


 そう言い残すと光秀と飛田は馬に乗り去って行った。


 信長は一人残った。信長は長良川での決戦の行方を知りたかった。だが、信長には嫌な予感しかしなかった。心の内ではもうすでに戦いの結末が分かっていたのだ。しかし、信長はその予感を振り払うため馬に乗り、急いで戦場へと向かった。だが、その予感は払いきれず、信長の心には血に染まる川しか写っていなかった。

 

序盤はコメディーたっぷりでしたけど、後半から、だいぶ血なまぐさくなりました。

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