血に染まる川(中編)
長くなっちゃいました。
正徳寺・大広間にて
「もう夜か。以外に時というのは流れるのが早いもんじゃのう。」
人が減り静けさと虚無感が生まれた大広間。ここには2人の男しかいなかった。
織田信長と斉藤道三。本来ならばこのような所で酒を飲み交わしているような人物ではない。しかし、養父と娘婿。その関係だけでこの酒宴は行われていた。
「全くです。まあ、それは親父殿が飲みすぎたからでしょうが。」
「なんだとぅ!わしゃそんなのんどらんわい!お前も、酒くらい飲めんのか!」
「残念ですが、俺は酒を好むわけではないので。酒など有事の時。または戦前の時だけに限ります。」
「つまらんのう。ど~せあれじゃろ?酒が飲めんのじゃろ?まだまだお子ちゃまじゃのう。」
「勝手に決め付けないでもらいたい。」
「それにしても・・・・義龍はしっかりやっとるのかのぅ。」
「少しはご自分の目でお確かめになられたほうがよろしいのでは?」
「わしは、今でもあやつに家督を譲ったのは後悔しておる。」
「なぜですか?」
「それはなぁ。お前に、美濃を・・・」
バンッ!
突然大広間の扉が開けられた。そこから険しい表情で男が1人入ってきた。
「も、申し上げますッ!ただ今、正徳寺の周囲に敵勢と思われる部隊が多数!」
「なにッ!敵勢御旗は!?」
「て、敵勢と思われる部隊の御旗は、斉藤義龍様にござりまする!」
正徳寺・周囲にて
「皆の者!よく聞け!今我々は我らが先代、斉藤道三を脅かさんとする仇敵、織田信長を討ちに来たのである。これは、斉藤家当主としての判断である!これは不名誉な戦いではない!れっきとした正当な戦いである!よいか皆の者!恐れず前進しろ!そして、仇敵を捕らえよ!」
『オッー!!!』
義龍は信長のことが気に食わなかった。ある時義龍が道三にこう聞いた。
『あのような男が隣にいるのですからこの国は当分安泰ですな。』
これを聞いた道三は、
『お前の目は節穴か?わしにはそのような男には見えぬ。もっと恐ろしく、それでいて強大な男だ。』
この言葉に義龍はショックを隠しきれなかった。父のこれ程までの評価。自らが一度も言われたことのないような感嘆の言葉。これに義龍は強い劣等感を味わった。
(このような男が!こんな奴が!なぜ俺より有能だと言えるのだ!)
そして、義龍の劣等感は日に日に強まっていった。
そして、ある一つの答えにたどり着いた。それは・・・
『信長の死』
ただそれだけであった。
(信長を殺せば父は俺を評価するだろう!俺は信長を越える!)
そう決意し、義龍は幾度となく信長への刺客を放ってきた。しかし、その全てが失敗に終わった。
そして、諦めかけていた時に入った朗報。
『信長が正徳寺に居る。』
この言葉だけで、義龍はすぐさま行動に移した。
(これが最後のチャンスだ!これをのがす手はあるまい)
そう決意した義龍はすぐさま兵を動かした。
そして、この気に信長を殺してしまおうと考えた。
「義龍様。全員配置に着きました。」
「よし。法螺貝を吹け!」
パオ~ン、パオ~ン、パオ~ン!
「全軍!目標は織田信長!全軍かかれ!」
正徳寺・大広間にて
「どうするのだ親父殿?義龍殿が攻めて来ているが?」
「どうするもこうするもないわい!迎え撃つのみ!」
「しかし、親父殿。こちらの戦力は僅か30名ほどだ。戦力不足は補えん。」
「ふん。兵など要らぬわ。このわし一人で十分。」
「正気か親父殿!?それでは死にに行く様なものだぞ!」
「わしをなめるなよ。息子。これでも10以上は戦ってきた。その実力をなめるなよ。」
「・・・・・まあ、親父殿がそこまで言うなら止めん。だが、死なすわけにもいかん。俺も出る。」
「お!それは心強いなぁ!」
「親父殿は俺を止めてはくれないのな。」
「戦ってくれるなら、戦ってもらわねばな。少しでも戦力は欲しい。」
「あいよ。じゃあ行きますかッ!」
正徳寺・僧坊前にて
強襲部隊の兵は、今か今かと待ち望んでいた。今すぐにでも手柄を上げ昇進を目指す。皆一様にそう思っていた。この中には、織田信長と斉藤道三。二人の男が居る。そして、首級を挙げれば大手柄。そう思っていた。
ついに突撃の命が下った。
みな一目散に扉に向けて駆け出した。そして、先頭の者が扉を蹴破った。
すると中はもぬけの殻だった。明りもついていない。真っ暗で何も見えない状態だったが。しっかりと音だけは異様に聞こえていた。
そう、周りの仲間達の断末魔が。
「う、うああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
「うぁぁああああああああ!!」
「おああああああああああああああ!!」
次々と周りから聞こえる断末魔。これには周りの者も、そして自らも恐怖せざるおえなかった。暗闇の中からの襲撃。それはもっとも恐怖心が揺さぶられる物であった。
そして、ふと後ろから小さな音が聞こえた。それは、拳銃のトリガーを引くような音であった。それに気づき振り向いた瞬間、
「さようなら」
という声と、拳銃の弾が発射される音。そして、自らの断末魔が聞こえた。
正徳寺・大広間にて
「少しやりすぎたかのぅ。」
「やりすぎも何も敵なのですから。ところで、この兵達は親父殿の配下であったものか?」
「いいや。こいつらは違うな。多分、義龍直属の部下だろう。見知った顔は一人もいなんだ。」
大広間には沢山の死体が転がっていた。その一つ一つの表情にはまだ生気のあとが見られたが、それも死者に過ぎなかった。
「配下のものはどうしたのじゃ?」
「逃がしました。和尚や僧達の護衛も含め。」
「そうか。しかし、お前ェ、自分を窮地に立たせとるだろ。」
「どう、解釈してもらっても構いませんが、逆に言えば親父殿を信頼しておると言うことです。」
「言う様になったのう。」
「そんな事より、第2波が来る前に迎え討ちましょう。」
信長達は大広間を出ると、広い庭に出た。だが、そこには40人を越える兵達が居た。
「こんなにわしらを出迎えに来るとわなぁ。」
「困ったものだ。」
「まあよい。まずは目の前の敵を討つのが先決じゃろうに。」
「そうですな!」
「織田信長ッ!その首貰ったッ!!!」
一人の兵が我先にと日本刀を構え信長に突撃してきた。それに続き、次々と信長を討たんと突撃してきた。
「だが断るッ!」
信長も応戦する形で敵兵の額に照準を合わせ、次々に撃ち倒して言った。
一方、道三は、
「ほぉ~。意外とやるな御主ら。まだ戦う気があるとはのう。」
「ば、化物めッ!!」
「おいおい、元主に向かって化物扱いとは・・・義龍も部下の教育がなっとらんのうッ!」
「うがああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「やれやれ。あと何人おるじゃい。」
道三は無数の敵兵を前にして、たった一つの武器で戦っていた。
『銃身搭載型撃槍・虎集丸』。外見こそ普通の槍と変わらないものの、槍の槍頭に小型ショットガンを搭載するという実験的な槍でもあった。このショットガンは敵兵を刺した際、確実に止めを刺せる様に内蔵されていた。しかし、ショットガンの弾数が全30発と少ないうえに、1回の発射で5発消費するため、たったの6回しか使えないことが欠点であった。だが、道三はこの機能に頼ることなく、自らの腕と槍の力のみで敵を薙ぎ倒していた。
「チッ!弾切れか。」
信長は自分で用意した弾丸を全て使いきり、現状で使える武器がなくなってしまった。信長はこれで終わりかと内心思いつつ、辺りを見回すとあっさり武器は見つかった。
「しっかり使わせてもらう!」
信長は足元に落ちていた日本刀を手に取ると、アサルトライフルを持って遠方から射撃を試みようとしている兵に投げると、見事額に直撃した。そのまま、その兵士の持っていたライフルの元まで走り、ライフルを手に取った。
「余裕は、ある!」
手に持ったライフルの安全装置を外し、トリガーを引きあたりに銃弾を撒き散らした。周りのの兵は次々に薙ぎ倒され、辺りには死体とそこから流れ出る赤黒い液体のみとなった。
『申し上げます!こちら、西通路前にて敵と遭遇!応戦中であ、ああああああああああ!!????』
『ば、バケモノだッこいつらッ!に、にげろぉおごごごおおおおおおおおおおおおお!?』
「なぜだ。どうしてこうなった!?」
義龍は次々と無線から聞こえる部下達の断末魔を聞き、後悔していた。
「なぜだ!どうしてだ!この戦いで確実に殺せるはずだったのに!なぜだ!」
「どうもこうもあるまい。貴様がただ甘く見すぎていただけだ。」
「!?」
突如として義龍に投げかけられる言葉。周りの護衛達も辺りを見まわし、殺気立たせていた。
「どこだ!どこにいる!でてこい!信長!」
「ここにいるが?どうした?」
すると、義龍のすぐ目の前に信長が立っていた。周りの護衛達もその存在にいままで気づいておらず、今になって信長の存在に気づいていた。
「ええい!今すぐ討ち取れ!」
義龍の命令に護衛達は再び銃を構えなおした。が、
「そこまでじゃ義龍!」
すると、正徳寺の屋根から一人の男。斉藤道三が飛び降りた。
「父上!」
「義龍。貴様は愚鈍にもほどが過ぎるわ!このようなことに兵を動かし、さらには、わしらに兵を仕向け我等を討たんとするなど愚の骨頂ッ!」
「しかし!」
「黙れッ!貴様は家督を継いだからといって、好き勝手にして言い訳ではないのだぞッ!それに、斉藤家と織田家の盟約にも反しておる!貴様はそれを知っての狼藉かッ!」
「も、申し訳ありません父上!」
「黙れッ!貴様など、2度とわしの前に顔を見せるなッ!信長よ、興が冷めたな。正徳寺の掃除はこやつらに任せるとして、わしらはさっさと寝所に入り寝ようぞ。」
道三と信長はそのまま正徳寺の僧坊にある寝所に向かってしまった。
だが、義龍は諦めていなかった。いつか、信長を討つ事を。義龍の歪んだ双眸はじっと信長を睨んでいた。