血に染まる川(前編)
1555年7月正徳寺にて
辺りは緊張の空気に包まれていた。これから何が起こるのか。それはこの場にいる全員が知っていた。
しかし、知っていても怖いものは怖い。緊張する物はするのだ。
正徳寺の大広間。そこで何かが行われようとしていた。そこには、中央を挟む様にして、男が2人、その周りに複数の男達がいた。この内、片方が尾張の主織田信長である。そして、もう片方は・・・
「久しいのぉ傾奇者!」
と、言ったのは反対側に座る男。見た目は30か40に見えるが実年齢は62歳である。昔からの着物や羽織ではなく、簡素なシャツを着ていた。
美濃斉藤家前当主、斉藤道三である。この格好からでは一国の主であった事など全く分からないがこれでも下克上を行った人間である。
「親父殿、ご無沙汰しております。」
「よぉ来た、よぉ来た!ゆっくりしていけよぉ~」
「いや、親父殿。その前に2つ聞きたいことが。」
「なんじゃ?申してみろ。」
「まず一つ目は、なぜシャツなのです?」
「そりゃぁ、暑いからにきまっとろぉが。7月じゃぞ7月。」
「そんなに暑いなら、正徳寺に冷房でも付けて貰ったらどうです?」
「寺に冷房なんて付けれるわけなかろうに。それに、そんな事に金は使っとれんわぁ」
「・・・・」
「それに、今日はいいではないか。せっかくの養父と息子の再会じゃぞ?もっとラフでいかねばのう」
「・・・・・」
「それに、お前もそんな暑苦しい服を着て来おって。こっちまで暑いわ。」
信長はいつもと同じ服装で、南蛮風の法衣に金の刺繍が施された分厚いコートを着込んでいた。
「俺は寒がりなのでね。」
「それは病気じゃ。病院にいって来い。」
「・・・・・」
「ところで、もう一つの質問とはなんじゃ?」
「あぁ、すっかり忘れていた。」
「お前が忘れてどうする。」
「親父殿。義龍殿に家督を譲ったというのは実か?」
「あぁ。そうじゃ。今では後悔しとるがな。」
「どういうことです?なぜ後悔する必要が?」
「それは、秘密じゃ。たとえ娘婿でも教えん。」
「それに、親父殿はまだまだご活躍できるでしょうに。」
「お前、60越えたオヤジをこき使わそうとしとるのか。」
「大丈夫です。親父殿なら後10年は戦える。」
「お前はどこの少佐だ。まあ、お主が心配することはない。わしは当分、表には立たんよ。」
斉藤家屋敷にて
もう月が出ていた。その月明かりに照らされ、美濃の主斉藤義龍はままならぬ面持ちでいた。
「義龍様!!」
一人の男が部屋に飛び込んできた。
「なんじゃ。騒々しい。」
「は!申し上げます!先ほど、織田信長が正徳寺に入り、道三様と密談を行っていたという情報が入りました!」
「なんだと!?」
また、信長か。義龍は内心そう思っていた。
(父上はちとあの男を高く評価しすぎだ。あの男はそのような器ではない。それに父上も隠居してからといい勝手な行動が多すぎる!これ以上好き勝手にさせるわけにはいかぬ!)
「信長と父上は今どこに!?」
「現在、正徳寺に宿泊しているとの事!道三様もそこにいると思われます!」
「よし。ならば、今すぐ兵を100人集めろ。強襲部隊70人、騎兵隊20人、特兵部隊10人だ。」
「は!ただちに!」
「父上よ、この義龍を甘く見たことを後悔するぞ。」
急いで書きました。
4月13日追記:修正しました。