聞いてるふりアプリ【ケイチョーくん】
そういえば、いつかの総理が「女のいる会議は長くなる」とかなんか言って炎上してたな。
世間は大騒ぎだったけど、俺は内心「わかるわー」って思った。
だって僕の彼女・真央の話も長いんだもん。
1時間は当たり前。
職場のグチから、コンビニの新商品の話題まで延々続く。
でも俺には信念がある。
彼女とのコミュニケーションにおいて、「僕がちゃんと"聞いてあげる"こと」が重要なんじゃなくて、
「彼女がちゃんと"聞いてくれてた"と感じること」が大事なんだ。
彼女が幸せでいてくれたらいい。
本当に"聞いていたか"なんて、まったく問題じゃない。
いつも決まったタイミングで、真央はLINE電話をかけてくる。
仕事から帰宅して、一段落ついた夜9時ちょうど。
晩酌を始めたばかりの時間。
マッチングアプリ時代から続く習慣で、30分以内で終わることはまずない。
真央の気分が乗れば、2時間以上喋り続けることもある。
今日もいつも通り真央からの着信。
画面下の【ケイチョーくん】を起動すると、自動で俺の声質クローンが応答を始める。
俺はスマホを机に置き、ゲームのBOSS戦に集中する。
「もしもし? 聞いて聞いて、今日さー…」
「でね、今日の上司がさ、マジでキモかったの!会議室で隣に座ってきて、視線がずっと胸元で…。ほんとムリなんだけど」
「それは嫌になるよね、、、」
「よく我慢したね、、、」
決してアドバイスはしない。
ただ受け取るのが【ケイチョーくん】の絶対的な方針だ。
「でさ、同期のあやかちゃんがまた有給で韓国行ったって!インスタ見ててさ、いいなーっ」
「いいよね、韓国楽しそうだよね、、、」
通話15分目、真央がふと不安げに確認する。
「ねぇ、聞いてるの?」
【ケイチョーくん】が即座に検知。
**拡張機能:聞いてるの応答**が自動で起動する。
これは、会話の内容・文脈を正確に捉え、その心情に寄り添う優秀な機能だ。
「もちろん聞いてるよ。あやかちゃんの韓国旅行の話聞いて、ちょっとうらやましくなっちゃったんだよね、、、」
「そういう気持ち、わかるよ、、、」
真央の声が少し明るくなる。
「うん!ありがとね!なんか救われる。」
「あとさ、今日のランチのサラダ、高いのに萎れててさ…言おうか迷ったんだけど…」
「それはもやもやするよね、、、」
「せっかくのお昼ごはんだったのにね、、、」
30分後、
「じゃあ、また明日ね!おやすみ!」
と真央は通話を切った。
アプリの要約再生ボタンをタップすると、画面にリストが表示される。
・上司の視線キモかった
・同期の韓国旅行うらやましい
・ランチサラダ萎れてた
以上、3件です。
30分の会話の内容はたった3行。
確認は0.5秒で足りる。
音声読み上げでも、8秒程度。
今日も真央との通話の時間、じっくりゲームを楽しめた。
【ケイチョーくん】最高。
僕も真央もコミュニケーションの満足度が上がってる!Win-Winの極みだね。
アプリストアを見ると、同じ悩みを持つ男たちの声で溢れていた。
ケイチョーくん アプリストア評価(★4.8・25万レビュー)
★★★★★
「彼女めっちゃ満足してるし、俺もゲーム時間たっぷり確保できてます」
★★★★★
「1時間トークが要約機能で超時短!浮いた時間で筋トレ始めました」
★★★★★
「要約が『特筆すべき内容は特にありません』って。意味のない話できるのも才能ww 愛おしい」
★★★★★
「このアプリで別れる率激減してない?まさに神アプ!」
★★★★★
「コレなかったら生きていけん」
★★★★★
「『ねぇ、聞いてるの?』機能が完璧。付き合い3年目も順調です」
みんな【ケイチョーくん】によって、パートナーとの友好関係を築いているようだ。
LINE電話では、【ケイチョーくん】を使っていること、疑われもしなかった。
寝転びながらゲームしててもバレない、、、、
が、実は来月から真央と同棲の予定。
対面だと、仕事から帰宅後、食事中とその前後で2時間コース。
それに寝る前も含めると、3時間程度は見込まないと。
流石に厳しい、、、、
僕は株式会社メンズ・ライツのHPを開き、
「弊社サービス・製品についてのご意見・ご要望」フォームにアクセスした。
【件名】
ケイチョーくん対面版開発 切実なご要望申し上げます
株式会社メンズ・ライツ
井伊野 真作 様
各種メディアでもご活躍の様子、拝見しております。
貴社が開発された【ケイチョーくん】のおかげで、 お付き合いしている女性との良好なパートナーシップを構築できております。
心より感謝申し上げます。
つきましては、切実なる要望がございます。
来月より、結婚に向けた同棲を開始いたします。
LINE電話では【ケイチョーくん】で完璧なWin-Winを実現できましたが、
対面では、現状のシュミレーションで1日3時間以上を確実に失います。
【ケイチョーくん "対面バージョン"】の開発を強くお願い申し上げます。
・眼鏡をかけているだけに見える、スピーカー内蔵のヘッドセット型
・電気信号によって表情筋や声帯を刺激し、表情・あいづちを自動化
・会話に自動応答しながら、脳波だけでゲームがプレイできるもの
を要望します。
1日数時間を失うことは、まさに、人生の危機です、、、
何卒ご検討のほど、お願い申し上げます。
[送信ボタンを押す。]
深くため息をつき、PCを閉じる。
その瞬間、真央からLINE。
「今日も話聞いてくれてありがと。前の彼氏は全然聞いてくれなかったから、、、ほんと大好き❤️おやすみ」
僕はそれにスタンプだけ返す。
これからも、男の未来が守られますように。




