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AIと僕たちの未来についての、いくつかの物語  作者: N


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1/1

聞いてるふりアプリ【ケイチョーくん】

そういえば、いつかの総理が「女のいる会議は長くなる」とかなんか言って炎上してたな。

世間は大騒ぎだったけど、俺は内心「わかるわー」って思った。


だって僕の彼女・真央の話も長いんだもん。

1時間は当たり前。

職場のグチから、コンビニの新商品の話題まで延々続く。


でも俺には信念がある。


彼女とのコミュニケーションにおいて、「僕がちゃんと"聞いてあげる"こと」が重要なんじゃなくて、

「彼女がちゃんと"聞いてくれてた"と感じること」が大事なんだ。


彼女が幸せでいてくれたらいい。

本当に"聞いていたか"なんて、まったく問題じゃない。


いつも決まったタイミングで、真央はLINE電話をかけてくる。

仕事から帰宅して、一段落ついた夜9時ちょうど。

晩酌を始めたばかりの時間。

マッチングアプリ時代から続く習慣で、30分以内で終わることはまずない。

真央の気分が乗れば、2時間以上喋り続けることもある。


今日もいつも通り真央からの着信。


画面下の【ケイチョーくん】を起動すると、自動で俺の声質クローンが応答を始める。

俺はスマホを机に置き、ゲームのBOSS戦に集中する。


「もしもし? 聞いて聞いて、今日さー…」

「でね、今日の上司がさ、マジでキモかったの!会議室で隣に座ってきて、視線がずっと胸元で…。ほんとムリなんだけど」


「それは嫌になるよね、、、」

「よく我慢したね、、、」


決してアドバイスはしない。

ただ受け取るのが【ケイチョーくん】の絶対的な方針だ。


「でさ、同期のあやかちゃんがまた有給で韓国行ったって!インスタ見ててさ、いいなーっ」


「いいよね、韓国楽しそうだよね、、、」


通話15分目、真央がふと不安げに確認する。

「ねぇ、聞いてるの?」

【ケイチョーくん】が即座に検知。


**拡張機能:聞いてるの応答**が自動で起動する。

これは、会話の内容・文脈を正確に捉え、その心情に寄り添う優秀な機能だ。


「もちろん聞いてるよ。あやかちゃんの韓国旅行の話聞いて、ちょっとうらやましくなっちゃったんだよね、、、」

「そういう気持ち、わかるよ、、、」


真央の声が少し明るくなる。

「うん!ありがとね!なんか救われる。」

「あとさ、今日のランチのサラダ、高いのに萎れててさ…言おうか迷ったんだけど…」


「それはもやもやするよね、、、」

「せっかくのお昼ごはんだったのにね、、、」


30分後、

「じゃあ、また明日ね!おやすみ!」

と真央は通話を切った。


アプリの要約再生ボタンをタップすると、画面にリストが表示される。


・上司の視線キモかった

・同期の韓国旅行うらやましい

・ランチサラダ萎れてた


以上、3件です。


30分の会話の内容はたった3行。

確認は0.5秒で足りる。

音声読み上げでも、8秒程度。



今日も真央との通話の時間、じっくりゲームを楽しめた。

【ケイチョーくん】最高。


僕も真央もコミュニケーションの満足度が上がってる!Win-Winの極みだね。


アプリストアを見ると、同じ悩みを持つ男たちの声で溢れていた。



ケイチョーくん アプリストア評価(★4.8・25万レビュー)


★★★★★

「彼女めっちゃ満足してるし、俺もゲーム時間たっぷり確保できてます」


★★★★★

「1時間トークが要約機能で超時短!浮いた時間で筋トレ始めました」


★★★★★

「要約が『特筆すべき内容は特にありません』って。意味のない話できるのも才能ww 愛おしい」


★★★★★

「このアプリで別れる率激減してない?まさに神アプ!」


★★★★★

「コレなかったら生きていけん」


★★★★★

「『ねぇ、聞いてるの?』機能が完璧。付き合い3年目も順調です」


みんな【ケイチョーくん】によって、パートナーとの友好関係を築いているようだ。


LINE電話では、【ケイチョーくん】を使っていること、疑われもしなかった。

寝転びながらゲームしててもバレない、、、、


が、実は来月から真央と同棲の予定。


対面だと、仕事から帰宅後、食事中とその前後で2時間コース。

それに寝る前も含めると、3時間程度は見込まないと。


流石に厳しい、、、、


僕は株式会社メンズ・ライツのHPを開き、

「弊社サービス・製品についてのご意見・ご要望」フォームにアクセスした。



【件名】

ケイチョーくん対面版開発 切実なご要望申し上げます


株式会社メンズ・ライツ

井伊野 真作 様


各種メディアでもご活躍の様子、拝見しております。


貴社が開発された【ケイチョーくん】のおかげで、 お付き合いしている女性との良好なパートナーシップを構築できております。

心より感謝申し上げます。


つきましては、切実なる要望がございます。

来月より、結婚に向けた同棲を開始いたします。


LINE電話では【ケイチョーくん】で完璧なWin-Winを実現できましたが、

対面では、現状のシュミレーションで1日3時間以上を確実に失います。


【ケイチョーくん "対面バージョン"】の開発を強くお願い申し上げます。


・眼鏡をかけているだけに見える、スピーカー内蔵のヘッドセット型

・電気信号によって表情筋や声帯を刺激し、表情・あいづちを自動化

・会話に自動応答しながら、脳波だけでゲームがプレイできるもの


を要望します。


1日数時間を失うことは、まさに、人生の危機です、、、


何卒ご検討のほど、お願い申し上げます。


[送信ボタンを押す。]


深くため息をつき、PCを閉じる。


その瞬間、真央からLINE。


「今日も話聞いてくれてありがと。前の彼氏は全然聞いてくれなかったから、、、ほんと大好き❤️おやすみ」


僕はそれにスタンプだけ返す。


これからも、わたしたちの未来が守られますように。



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