番外編 またね〜21歳の紬(後)
パパではない、パパにしては服装が若すぎる。
徐々に照明のある前の方にくると、自分と同じくらいの若い男の人だとわかった。
自分と同じように、リクルートスーツ丸出しの格好。
背は私よりちょっと上ぐらい。少し背が伸びたのかな?
肩幅も広くなり、日焼けした顔。ずいぶん大人っぽく見える。
高校の時の「バスケ少年」「ミスタースケベ」の称号のかけらも感じない、たくましさ。
焦燥感と誠実さが混ざったような、少し困ったような笑顔は当時と変わらない。
私の心臓の鼓動が早くなる。顔が熱くなっていく。この熱さは照明のせいだけではない。
近づくにつれ、あの日の夜の公園のように、心臓の鼓動が高く鳴り響く。
「…あ」
私は、足が地面に縫い付けられたように動けなくなった。
あの夜、彼の顔を見ずに逃げたことを、私は四年経った今でもずっと後悔している。
あの時、まっすぐ彼の目を見て「元気でね」と言えなかったことを。
悠太は、静かに近づいてくる。
一歩、
一歩。
彼の瞳は、あの時の私の背中に向けられた熱い視線とは違い、優しく、そして何かを確信しているようだった。
七香が、私の背中をトンって叩き、そっと耳打ちした。
「紬、大丈夫。絆のコードは、切れたりしないんでしょ?」
七香の言葉に、私は深く空気を吸い込んだ。
そうだ。
四年前の「暗号」は、とっくに解読済みだ。
私は、まっすぐ悠太の方に歩いていった。
あの時見られなかった彼の顔を、真正面から見るために。
「…久しぶり、紬」
悠太は、少し照れたように笑った。
「久しぶり。…どうしてここに?」
「親父がね、こっちに出張でさ。新しい世界への挑戦ってやつ、まだ続いてるよ。親父、セキュリティの仕事を続けていてさ。今日は当時お世話になった人にも会うって言っててね」
悠太は楽しそうに、そして誇らしげに話した。
「紬も変わらないな。相変わらず、セキュリティに夢中だ」
「もちろん。それは…悠太が、教えてくれたから」
「え?」
「『家族の絆』って。あの時、悠太が私に言った言葉、覚えてる?私は、ずっと忘れてないよ。私が今、この壇上で話している理由も、あの言葉のおかげ」
私の言葉に、悠太は少し驚いた顔をした後、目を細めて微笑んだ。
「そうか。俺もさ、紬と、七香に、家族の本物のコードを見せてもらったから、今、セキュリティの道に進んでいる。技術じゃない、人との繋がりをプロテクトする仕事に魅力を感じているんだ」
「せっかく東京にくるから、何かセキュリティ関連の勉強をと思っていたら、この講演会と紬の名前を見つけたんだ」
私の名前を?
その意図を今なら理解できる気がする。
顔に熱が集まる感じがする。
四年前、あの公園で言えなかった言葉が、今、溢れ出す。
私は深呼吸をして言った。
「ねえ、悠太」
「ん、なに?」
私は彼の目をまっすぐ見て、微笑んだ。あの時と変わらない瞳で私をじっと見てくる。
「…バイバイ。じゃなくて、またね!」
悠太は、一瞬呆けた顔をした後、破顔した。
その笑顔が眩しい。
照明のせいじゃなく、私だけの特別な眩しさ。
「ああ。またね、紬」
4年前のリブートだ。
<またね〜21歳の紬 完>




