9−12 バイバイ(後)
悠太の話では、悠太の父親は昨年11月にニュースにもなったコンビニエンスストアのサイバー攻撃事件に関わっていたらしい。
「親父がそのセンターの責任者でね、責任を取って地方転勤することになった」
「親父、ずっと自分の責任だって、すごく苦しんでいたんだ。でも、一緒に事故対応をしてくれたセキュリティの専門家の人から『失敗からの逃げじゃない。新しい世界への挑戦だ』って言われたらしくて...」
「笑っちゃうよな。オレと、オレの叔母さん、親父までセキュリティの事件の被害者だなんて」
そんなことない!
私は思ったが、言葉が出なかった。
悠太の声が頭の中に響き渡る。
「親父は、その人の言葉で、セキュリティの仕事に興味を持って、地方のセキュリティ会社で、一からやり直すことにしたんだ」
「今、地方で一人暮らししている」
「オレや叔母さんは、そんな親父を、家族で支えたいと思って」
裕太が顔を上げて言った。
「今の自分にとって、大事な絆なんだ」
まっすぐ私の目を見たその顔には、決意が見て取れた。
「本当に、ありがとう。転校する前に、どうしてもお礼を言っておきたくて」
「後、オレ自身もセキュリティの魅力に惹かれたよ。セキュリティって、すごいんだなって」
胸が張り裂けそうになった。
心が苦しい。目が熱くなる。
ヤバい、ヤバい、ヤバい!
「私...」
何も言えなかった。
言ったら、涙が溢れてしまいそうだった。
なんで私こんなに苦しいの?!
なんで涙が出てくるの?
私はくるっと後ろを向いて、泣きそうな声を悟られないように言った。
「それはパパの教えでもあるからね!当然のこと!」
私は、声がひっくり返らないように、大きめの声で言った。
「ごめん、あんまり遅いとパパが心配するから、もう行くね...!新しい学校でも元気で!」
自分の顔を見られないように、目から溢れる涙を見られないように、後ろ向きで手をひらひらさせながら公園を後にした。
背中から声がした。
「ありがとう、紬も元気で!」
悠太が自分の名前を呼んだ声が、頭の中でこだまする。
背中に悠太の視線を感じる。
振り返って、笑って「悠太も元気でね!」って言う、ただそれだけのことができず、私は早歩きで公園の出口に急いだ。
もう自分で自分が理解できない。厄介な暗号だ。
<つづく>




