8−7 ケーキの罠
パスワードの変更とMFA設定を終えた七香は、力なくスマホを握りしめた。
「...紬、ありがとう。紬がそばにいてくれてよかった。」
七香はいつになく、本当に落ち込んでいるようだった。
「大丈夫だよ。今回間に合ったし。さ、ケーキ食べたら?」
私は、自分のモンブランを少し取って七香の方に差し出した。
「ありがとうセキュリティ探偵の紬さん!」
おどけて言った七香は、いつもの七香だった。
「だから、その呼び方やめてよね」
七香の口は空を切り、私は差し出したケーキを自分の口に放り込んだ。
「えー、ケチー」
ぷくっとスネる七香を見ながら、私はわざとゆっくりケーキを食べる。
堪えきれず、お互いにクスクスと笑っていた。
(セキュリティは人の信用。そして、その信用は、絆というコードで人と人を結ぶ)
今回も七香と私は、絆というコードで結ばれることができた。
「七香、もうすぐパスワードを覚えなくて良い時が来るから」
<つづく>
8−8 さよならパスワード
前にパスワードの話をパパとした時、こんなことを言っていた。
「紬、パスワードは確かにめんどくさい。リスクも高いし現時点では最大のセキュリティホールと言えるな。ただそれももう少しの辛抱だ。もうすぐ『複雑なパスワード』に悩まされる事態はなくなる」
「え?そうなの?でもパスワードってセキュリティの要なんじゃないの?」
「それはそうだ。ただそれ自体が脆弱性になっては、本末転倒だろう?だからFIDOなどの展開が始まっている」
「FIDO?」
「First Identify Online。パスキーとかパスワードレスとも言う。パスワードそのものをスマホのFaceIDとか指紋認証に置き換える技術だ。これでパスワードの使い回しとか、忘れちゃう心配がなくなるんだ。何よりもフィッシングなどパスワードを盗む脅威に絶大な効果がある」
私がパパの言葉を思い出していると、七香が不思議そうに見てきた。
「パスワードを?紬が言っていたパスワードマネージャーのこと?」
パスワードの変更がおわった七香が聞いてきた。
「そうだね、でも、もう一つの手段。まだ使われ始めたばっかりの新しいテクニック」
七香がポカンとした顔で見ている。
「七香が自分のパスワードの秘密を守る。これって他の人にとって『信頼の証』になるの。七香が本当に七香だってことの信頼。でも今回みたいにパスワードの秘密を守るのは難しい。だからより強い『信頼』を得る方法」
この時間がずっと続いてほしい。
セキュリティなんてものに煩わせない、誰もが安心できる日常。誰もが笑っていられるような。
自身の安全は人に信頼を与える。テクニックと人が作るコード。
「七香、誰もが自分を証明できる「信頼のコード」ってのがあるんだ…」
七香はどんな顔をするだろう?ポカンとするかな?子供みたいなキラキラした目で見てくるかな?
私は話を始めた。
自分自身の安全と、信頼と、人と人との絆を守るためのコード。
<本人の証明書 完>




