6−9 最終兵器
チャットの画面をロックし、私は山下くんにスマホを返した。
「紬……」
七香が不安そうに呟く。
「どうする? 本当にタクシーに乗せるのか?」
佐藤悠太が不安そうに問う。私は首を横に振った。
「ううん。今すぐ、顧問の先生のところへ行くよ。そして、キミの言う通り、警察にも行く」
「でも、家族が!」
山下くんが悲鳴のような声を上げる。
「だから、大人の力を借りるの」
私は太一の目をまっすぐに見据えた。
「パパが言ってた。『セキュリティの最強の武器は人間だ』って。脅されてやったことは、ちゃんと説明すれば大丈夫。私たちが証人になる。チャットの履歴も、あなたが脅されていた証拠も、全部ある」
「向こうは『恐怖』を武器にした。だから私たちも武器を使うの。『大人』って武器を」
システムやアプリは、時に人を追い詰める。でも、そこから救い出せるのもまた、人との繋がりだ。
「そしてタクシーを呼んだということは、犯人は痕跡を残したということ。これを証拠に警察が動いてくれる」
山下くんは、まだ不安そうにスマホを見ていた。
「一人じゃない」
それまで黙っていた佐藤悠太が、山下くんの震える肩を力強く掴んだ。
「俺たちも、先生もいる。全部話して、助けてもらうぞ」
佐藤悠太が一瞬自分のことを思い出しているかのように続けた。
「お前だけじゃない。だから人を頼っていいんだよ」
佐藤悠太の手が、山下くんの肩を掴んだ。
その手は、迷いのない力強さと、確かな熱を持っていた。
彼の言葉が、凍りついていたその場の空気を溶かしていくのがわかる。
その言葉に、絶望に支配されていた山下くんの目に、ようやく微かな光が戻った。
私の手のひらには、なぜか自分が触れられたわけでもないのに、あの温かさが残っている気がした。
<つづく>




