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6−5 パパの見解
その夜、私は自宅の夕食の席で、あえて一般論を装って父に尋ねてみた。
「ねえパパ、『高額バイト』ってSNSでよく見るけど、あれってどういう仕組みなの?」
パパ、――セキュリティのスペシャリストである ――は、シチューをスプーンですくいながら、即座に反応した。
「ああ、闇バイトか。最近の主流だな」
彼は、まるで今日の天気でも話すかのように、その恐ろしい手口を解説し始めた。
「最初は『荷物を受け取るだけ』とか、『指定された場所の写真を撮るだけ』とか、罪悪感の薄い簡単な作業をさせる」
私は息を呑んだ。山下くんがやっていたことそのものだ。
「一度やらせて報酬を渡した後、身分証や顔写真、家族の情報を送らせる。そして『お前も共犯だ』『逃げたら家族に連絡する』と脅すんだ。こうなると、もう抜け出せない」
「……それって」
「ああ。そこから徐々にエスカレートさせ、詐欺の『受け子』や『出し子』、果ては強盗や特殊詐欺の実行犯にまで仕立て上げる。使い捨てのコマさ」
「……」
「一番のポイントは『恐怖』だ。一度捕まえたら、人を恐怖心で縛り付けて逃がさない」
パパがいつも言っている「一番の弱点は人の心だ」が私の頭にひどく重く響いた。
<つづく>




