6−3 オペレーション追跡
夜、私たちは(私は非常に渋々ながら)、山下くんの素行調査を開始することになった。
「なんで私が夜にまでミスタースケベの部活の後輩のために……」
「まあまあ、紬。人助けだって! ほら、山下くん出てきた!」
七香が電柱の影から興奮した声で指をさす。佐藤悠太は「静かに」と七香の頭を押さえつけている。
山下くんは、ジャージ姿のまま家を出ると、キョロキョロと周囲を見回し、足早に駅とは逆方向へ歩き出した。
いかにも「ランニングしてます」という風なのが、かえって胡散臭い。
三人は一定の距離を保ちながら、彼を尾行する。
夜の住宅街は、昼間とは別の顔を持っていた。
規則正しく並ぶ街灯が、アスファルトに冷たい影を落としている。
山下くんが立ち止まり、スマホを構えた。
『カシャ』
静まり返った路地に、人工的なシャッター音が乾いた音を立てて響く。
画面の青白い光に照らされた彼の横顔は、幽霊みたいに生気がなかった。
ただの撮影なのに、まるでナイフでも握っているような張り詰めた空気が、私たちの隠れている電柱の影まで伝わってくる。
夜風が制服の隙間に入り込み、私は思わず身震いをした。
「あいつ、何撮ってんだ?」
佐藤悠太が眉をひそめる。
山下くんは撮影を終えると、また早足で歩き出す。
そして、次の角を曲がったところで、今度は路肩に止めてある高級車を撮影した。
「家の表札……それに、車のナンバープレート?」
「ガチじゃん! これ、絶対ヤバいやつじゃん!」
七香が慌てふためく。
「紬、どうする?」
「……相手が何をしようとしてるか、まだ分からない。でも、あの写真がまともな目的に使われるとは思えない」
私は歩きながら思考を巡らせる。
無差別な撮影。
怯えた様子。
羽振りの良さ。
「まず、相手を知らないと。七香」
「はいっ!」
「あの子のSNSアカウント、割り出せる?」
「お任せあれ!」
七香はスマホを取り出すと、驚異的なスピードで操作を始めた。
彼女の顔の広さは、リアルだけでなくデジタル空間でも健在だ。
数分後、
「あった! バスケ部の1年ネットワークから芋づる式!」
と勝利の笑みを浮かべた。
<つづく>




