6−1 寒暖差
放課後の教室は、窓から差し込むオレンジ色の西日が、私の頬をじりじりと焼く。
部活へ向かう生徒たちの熱気と、制汗スプレーの混じった匂い。
七香がスマホで見せつけてくるタピオカの画像も、甘ったるい日常の象徴みたいだ。
「やっぱりさー、駅前の新作、黒糖タピオカじゃない?」
「七香はそればっか。私は来週の古典の小テストがやばいって話をしてるんだけど」
私はため息をつく。
親友の七香は、教科書よりもスイーツの最新情報に精通している。
その顔の広さとコミュ力は、時々どういう仕組みなのかと感心するほどだ。
「えー、テストなんて前日覚えれば余裕っしょ! それより紬、あのタピオカ、絶対インスタ映えするって!」
「その余裕を少し分けてほしい……」
平和で、少し退屈で、温かい時間。
だが、教室の引き戸が開いた瞬間、その生ぬるい空気は一瞬で冷やされた。
そこに立っていた佐藤悠太の顔だけが、まるで真冬の空の下にいるみたいに蒼白だったからだ。
「あ、悠太くん! おつかれー」
七香が気さくに手を振る。
そこに立っていたのは、同じ2年生ながら、バスケ部のエースとの呼び声の高い、佐藤悠太。
しかし、その表情はいつもの明るさとは程遠く、深刻そうに眉間にしわを寄せている。
(げ、ミスタースケベ……)
私は即座に警戒態勢に入る。
この男は、以前の「3ポイント事件」で、エッチな動画を見ていた人物だ。
佐藤悠太は七香の挨拶に小さく頷くと、まっすぐ私たちの方へ歩いてきた。
その真剣な眼差しに、七香も「あれ?」と首をかしげる。
「七香さん、ちょっといいかな。……そっちの、ええと」
佐藤悠太は一瞬ためらい、私に視線をよこす。
あの目でエッチな動画を見ていたのかと思うと鳥肌がたった。
名前を覚えていないのか、意図的にぼかしているのか。
どちらにせよ不愉快だ。
「紬!用件は?」
私がぶっきらぼうに尋ねると、佐藤悠太は気まずそうに目をそらし、そして重い口を開いた。
<つづく>




