5−7 Oか0か
パパが回収した電源タップがテーブルの上に置かれていた。
これで、新たな被害者は出ないはずだ。
「パパ、あの電源タップ、じゃなかったWifiルーターは、本当にカフェのWifiと一文字違いだったの?」
七香が、まだ信じられないといった様子で、パパに尋ねる。
「ああ。正規のSSIDは、『STATI(O)NCAFEFree』(オー)。犯人が仕掛けた偽のSSIDは、『STATI(0)NCAFEFree』(ゼロ)。たった一文字、『O』(オー)か『0』(ゼロ)かだ」
「本当に、まるで間違い探しみたい……。言われてみれば、気づくかもしれないけど、急いで接続しようとしてたら、絶対に見過ごしちゃうよ」
七香は、ため息をついた。
「犯人は、人間の心理を突いたんだ。多くの人は、フリーWifiのSSIDなんて、流し読みするだけだ。『O』(オー)か『0』(ゼロ)か、そんな細かいところまで、普段から気に留めてはいないからね」
私は、この事件の犯人の巧妙さに、改めて驚かされた。
技術的な知識はもちろん、人間の注意力、認知の限界まで計算し尽くされている。
パパは、私たちの顔を見て、静かに言った。
「セキュリティとは、技術的な対策だけでは不十分だ。どんなに強固な暗号化を施しても、人間が、その暗号化された通信に入る前の入口で、間違った選択をしてしまえば、全てが無意味になる」
<つづく>




