5−6 セキュリティホール
パパは、偽のWifiアクセスポイントのSSIDと、その電波強度を確認すると、すぐに、そのWifiルーターがどこに設置されているのかを特定する作業に移った。
「電波は、Wifiルーターからの距離が近いほど強くなる。この電波強度から考えると、犯人のWifiルーターは、私たちの席から半径数メートル以内に、物理的に隠されている可能性が高い」
パパは、そう言いながら、また例の電波測定アプリが入ったスマホを取り出した。
「紬、七香ちゃん。私がゆっくりと店内を歩きながら、電波強度の変化をチェックする。君たちは、私から目を離さず、自然に振る舞ってくれ」
パパは、席を立つと、手にしたスマホの画面に目を落としたまま、まるでトイレを探しているかのように、ゆっくりと店内を歩き始めた。
私は、パパの動きを追った。
パパは、まず私たちの席から一番遠い、カウンター席の方へと向かう。
電波強度が、少し弱くなる。
次に、店の中央付近にある大きな柱の裏側へ。
電波強度は、変化なし。
そして、パパは、私たちの席から最も近い、室内照明スタンドへと近づいていった。
パパは、室内照明スタンドのコンセントを、何気ないフリをして覗き込んだ。
そして、私たちの方を向いて、微かに頷いた。
「見つけたぞ」
パパは、元の席に戻ると、小声で言った。
「どこに?」
七香が、息をのんで尋ねた。
「あの照明のコンセントだ。壁にコンセントがあるが、そこから不必要な電源タップが出ているだろう?あれがフリーWifitの本体だ。よく見ると、微かに青いランプが点滅している。」
「うそ……あれが??」
私と七香は、驚きのあまり、思わず声を上げそうになった。
見た目は普通の電源タップ。
まさかこれがWifiルーターとは!
パパは、冷静に続ける。
「あれだったら、このカフェのスタッフに気づかれずに設置できるだろうな。いやもしかしたらカフェのスタッフが犯人かもしれない」
そして、パパは、私たちに、もう一つの重要な事実を告げた。
「このWifiルーターは、壁のコンセントと照明の中間に挟むことによって電源供給は問題なく行われている。中にSIMが入っていて、通信も可能だ。恐らく、設置されてそんなに長くはないだろう。そして、ゲームに夢中になっている人たちが接続するのを待っていた」
「そんな……。じゃあ、あのWifiルーターは、今も誰かのIDとパスワードを盗み続けているの?」
私は、背筋が寒くなった。
私たちが今いるこの瞬間も、誰かの個人情報が、あの白い箱の中を通り抜けているのだ。
パパは、立ち上がると、私たちに言った。
「私が、このWifiルーターを回収する。君たちは、静かにここにいてくれ」
パパは、何気ないふりをして、室内照明の前で靴紐を直そうとしゃがみ込んだ。
「え?パパ?なにをしているの?」
パパは靴紐を直すふりをして、照明スタンドのコンセントを抜いて照明を消した。
店員さんが「あれ?」って顔でキッチンからパパの方を見ている。
パパは片手でコンセントを持ち上げてみせて、何気ない様子で壁のコンセントに指し直し、また照明が点灯した。
私は、いまにも店員に怒られるんじゃないかと、ドキドキしていたけど、店員さんは、何事もなかったようにキッチンに戻っていった。
全ては、あまりにも自然な出来事だった。
<つづく>




