5−5 STATION
私と七香が突き止めた共通の場所。
それは、駅前の商業ビル一階にある、ガラス張りの、お洒落なカフェだった。
そのカフェは、パパにも報告済みで、週末、私たち三人は、いよいよその「現場」を訪れることになった。
日曜日の午後。
賑わう店内は甘いパンケーキとコーヒーの香りで満たされていた。
パパは、普段着だが、どこか周囲の客とは違う、鋭い目つきで店内を観察している。
その視線は壁を、天井を、そして人の流れをみていた。
私たちは、窓際の席に座り、それぞれパンケーキとコーヒーを注文した。
見た目は完全に、休日のカフェを楽しむ親子と友人だ。
しかし、私たちの目的は、あくまで「調査」にある。
「紬、七香ちゃん。君たちが調べてくれた情報が正しければ、犯人は、このカフェのフリーWifiを利用しようとする客を狙っていることになる」
パパは、スマホを取り出しながら説明を始めた。
「このカフェの正規のWifiのSSIDは、『STATIONCAFE_Free』だったね」
七香が、スマホを取り出して、以前の調査で確認した情報をパパに伝える。
パパは、鞄の中から、普通のスマートフォンによく似た、でも少しごつごつとした筐体のデバイスを取り出した。それは、パパが仕事で使っている、Wifiの電波を測定するための専用アプリが入ったスマートフォンだ。
「パパさん、それ、何?」
七香が、興味津々で尋ねる。
「これは、Wifiの電波強度や、周辺にあるアクセスポイントの情報を詳細に表示するためのアプリが入ったスマホだよ。社内でWifiの障害調査などに使うものを借りてきた」
パパは、そのスマホを操作し始めた。画面には、いくつものSSIDが表示され、その横に電波の強さを示すグラフが並んでいる。
「なるほど『STATIONCAFE_Free』は、電波強度が安定しているね」
パパは、正規のWifiを指さした。しかし、パパの目は、その正規のSSIDのリストの中に、一つだけ不自然なSSIDがないかを探していた。
「あったぞ……」
パパの、低い声が、テーブルの上に響いた。
私たち二人は、同時にパパのスマホの画面を覗き込んだ。そこには、
『STATI0NCAFE_Free』
とSSIDが表示されていた。
「これがどうかしたの?」
「よく目を凝らしてみてごらん」
私たち二人は、言われたとおりに顔を近づけて見た。
「あっ!」
「どうしたの?紬?」
「これ、STATIONのOが0(ゼロ)になっている」
「え?あ!ホントだ」
「これが、私たちを乗っ取りに導いた、偽のWifiアクセスポイントだ。君たちの友だちも、この偽のSSIDに、カフェのWifiだと信じて接続してしまったんだろう」
「しかし、この電波強度……。これだけ安定して強いということは、偽のWifiルーターは、このカフェの中、あるいは、このカフェに隣接する場所、つまり、物理的に非常に近い場所に設置されているはずだ」
パパは、周囲を見回した。犯人は、巧妙な技術的な手口だけでなく、物理的な設置場所にも、細心の注意を払ってこの罠を仕掛けたのだ。
<つづく>




