5−4 探偵デビュー
「紬、七香ちゃん。君たちに調査を依頼したい」
週末の朝、リビングでコーヒーを淹れているパパが、私たち二人に向かって言った。
七香は、私の家に泊まりに来ていて、朝食を食べ終わったばかりだった。
「調査?何をするの?」
七香が目を輝かせる。
彼女は、こういう探偵ごっこみたいな事が、大好物だ。
「被害者たちの行動パターンの調査だよ。特定の場所で被害が集中している、ということは、その場所を特定できれば、犯人の仕掛けた『罠』も見えてくるはずだ」
パパは、手に持っていたマグカップをテーブルに置き、私たちの顔を交互に見る。
その顔は、いつになく真剣だ。
「まずは、乗っ取り被害に遭った君たちの友人、あるいは、その知人たちから情報を集めてほしい。被害者たちが、普段いつ、どこで、例のゲームをプレイすることが多かったか、共通する場所がないかを探るんだ」
「えーっと、例えば、学校の帰り道にあるファミレスとか、駅前のカフェとか、そういう場所?」
七香が、手を上げて質問する。
「その通り。特に、フリーWifiが使える場所に絞って調査をしてみてくれ。犯人は、通信経路を狙っている可能性が高い。そして、被害者たちが、その場所で、長時間ゲームをしていたという証言があれば、さらに信憑性が高まる」
「なるほど……。みんながよく集まる場所で、しかもフリーWifiがあって、ゲームに熱中できる場所。そういう共通点を洗い出せばいいのね」
私は、すぐに七香と顔を見合わせた。
七香の広い交友関係と、私の論理的な思考力が、この調査には必要だ。
「やった!探偵デビューじゃん、紬!」
七香は、完全にノリノリだ。七香のこういうとこ、正直ちょっとうらやましい。
「頼んだよ。探偵さんたち。でも絶対に無茶なことはしないこと。自分たちの個人情報を漏らしたり、危険な目に遭ったりしないように注意して。あくまで、君たちは情報収集役。現場での実証や、犯人の特定は、私に任せること。いいね?」
パパは、念を押すように言った。私と七香は、力強く頷いた。
そこから、私たちの「探偵活動」が始まった。
七香は、持ち前の社交性を発揮して、友だちや、その友だちの知り合いに、それとなく事情を聞き出す。
私は、七香が集めてきた証言を、地理情報と時間情報で整理する。
「ねぇ、紬。みんなが共通して言ってる場所があるんだけど。『駅前の、あの、パンケーキが美味しいカフェ』なんだって」
七香が、ノートに書き込んだ情報を私に見せた。
「あのカフェ、フリーWifiが速いって評判だよね。しかも、みんな放課後とか、週末とかに、長時間滞在してるって言ってる。これ、ビンゴじゃない?」
私は、七香のノートを見ながら、確信した。
パパの言う、共通の場所、共通の時間、そしてフリーWifiという条件が、全て揃っている。
「間違いないわ。七香、グッジョブよ。この情報をパパに伝えましょう」
私たちの調査は、予想以上に早く、一つの答えを導き出したのだった。
<つづく>




