5−1 壁の穴
有名コーヒーチェーン店の窓際の席、そこが彼のいつもの場所、”指定席”だった。
駅ビルの裏にある、ちょっと目立たない場所にあるこのカフェは、平日の夕方だとそこそこ席が空いている。
なによりも魅力的なのはフリーWifiが高速なのだ。
今日は彼がハマっているソーシャルゲームのイベント日、レアキャラを手に入れるには課金をするか、根気よく周回するしかない。
「ふう、指先がしびれる。あと一回だけ……」
そう自分に言い聞かせながら、彼は再び画面に集中した。
この店のフリーWifiは高速で、誰にも邪魔されず、コーヒー代だけで長時間いられるこの場所は、彼にとってゲームに没頭するには最高の場所だった。
(よし、あと少しでガチャチケが溜まる。頼む、限定キャラ!)
集中力を高め、彼はログインボーナスを受け取り、溜まったガチャチケットを迷わず消費した。
爆発的な演出の後、期待していたキャラクターとは違う、既に持っているキャラクターが表示される。
「くそっ、爆死か……」
落胆しながらも、彼は気を取り直してイベント周回に戻ろうとした、その時だった。
突如、画面がブラックアウトした。
一瞬、電波が切れたのかと思ったが、スマートフォンの上部にはしっかりとWifi接続のマークが表示されている。何かがおかしい。
彼は慌ててゲームを再起動しようとしたが、エラーメッセージが表示される。
「接続エラー」
「新しい端末からのログインがありました」
「え、なにこれ!?」
彼の心臓が、ドクンと嫌な音を立てた。不正なアクセス?
彼は急いでサポートセンターにメールを送ろうと、メーラーアプリを開いた。
しかし、メールも接続できなかった。
それどころか、すべてのインターネット接続ができなくなっていた。
フリーWifiは接続を示している。
彼は、一度Wifiをオフにし、キャリア通信に切り替えた。
すると、問題なくインターネットに接続し、メールも使えるようになった。
「なんだ、フリーWifiの障害か」
彼はゲームを続行した。パケット代がかかってしまうが致し方ない。
しかし、彼の知らない裏側で、ひそかに進行している事象が存在した。
<つづく>




