4−6 号笛(ホイッスル)
一週間後。体育館は歓声と熱気に包まれていた。
「見て紬! 佐藤君出てる!」
七香の声に、私は目を凝らす。コートに立つ彼は、もう怯えていなかった。
あの後、パパのアドバイスに従って、佐々木先輩経由で佐藤君に伝えてもらった
・盗撮動画なんて存在しないこと
・同じパスワードを使っている全てのサービスも変更すること
・今後パスワードは使い回さないこと
佐々木先輩は、すぐに佐藤君に連絡することを約束してくれた。
直接話をしちゃったので、あとで七香に恨まれたけど。
バスケ選手として小柄な佐藤君が、長身の相手選手の間を搔い潜るようなフェイントとドリブル、相手の意表を突いた佐々木先輩へのパスが通り、3ポイントシュートが決まった。
ボールがネットを揺らし、観客が一斉に立ち上がる。
「やったー!」
私と七香は思わず立ち上がった。
胸が熱くなる。一瞬佐々木先輩と佐藤君がこっちに手を振ったように見えた。
「なかなかいい試合だな」
あれ?この声は?
「ぶっ!」
突然のことに、私はジュースを吹き出してしまった。
すぐ横にパパがいた!
「パ、パパ!? なんでここに!?」
「佐々木君と佐藤君に、ぜひ試合を見に来てくれって言われてな」
全然気づかなかった。
ネクタイを拭きながら、パパは平然としている。
「紬のアドバイスは正確に伝わったらしいぞ。お礼のメッセージが、さっき佐々木君経由で届いたよ」
試合が再開。佐藤君の鮮やかなアシスト。ホイッスルが鳴り、歓声が沸き起こる。
「紬の学校、なかなかやるじゃないか。佐藤君と佐々木君のコンビネーションは見事なものだな」
「もう! パパ、今度は変装して来てよ!」
「招待されたのに、それは失礼ってもんだろう?」
「はいはい、もう!」
笑いながら頭を抱えた。
あの夜の恐怖が嘘みたいに遠い。
佐藤君と佐々木先輩のハイタッチ、仲間と笑い合う姿を見て、胸がじんと熱くなった。
「佐藤君が戻ったのは紬のおかげだね」
「七香の佐々木先輩推し活のおかげかもね」
七香に私がいたずらっぽく返すと、七香のチョップが頭にヒットした。
本当はこう言いたかった。
お調子者で、いつも振り回されているけど、七香がいなかったら事件は解決していなかったよ。
七香だけじゃない、佐々木先輩と私、誰1人欠けてもダメだっただろう。
これは3人で作り上げた「セキュリティの3ポイント」。
「セキュリティは人と人とを繋ぐことで強くなる」
前に聞いたパパの声が、心の中で響いていた。
試合終了のホイッスルの音が、同時に事件の終わりを告げているようだった。
<3ポイント 完>




