4−2 誘惑
「ねぇ紬! 聞いた? 佐々木先輩がね――!」
お昼休み、七香は机に身を乗り出してきた。お弁当も食べず、目がきらきらしている。
「はいはい、またスーパープレイでしょ?」
私はため息をついて、サンドイッチをかじった。
「違うの! 今回はちょっと深刻なの!」
声をひそめた七香が言う。
「バスケ部の佐藤君、今日から学校に来てないの。しかも病気じゃないみたいで…」
「え、どういうこと?」
七香によると、佐藤君とは私たちと同じ学年のバスケ部員で、佐々木先輩とのコンビプレイで活躍している選手らしい。
佐々木先輩ほどではないけど、そこそこかわいい顔をしていると……まあ、それはどうでもいい。
「佐々木先輩が心配してるの。よくわかんないけど、自分のせいかもって」
ああ、やっぱり出た。結局、先輩の話になるのね。
でも、ただの欠席じゃないなら気になる。
「それでね、放課後に先輩の話を聞いてみようと思うの。一緒に来て!」
「なんで私が?」
「だって私、一人だと絶対ムリ! 緊張して声が出ない!」
両手を合わせてお願いしてくる七香。
「……しょうがないな。まあ特別用事もないしね」
「やったー! 紬、だーい好き!」
抱きつかれて、私は紅茶をこぼしそうになった。
「推し活ね‥‥」
ため息をつきつつも、胸の奥がざわめいていた。
七香の話す『佐藤君の欠席』。
それが何か、気になって仕方がなかった。
校庭を西日が照らしているころ、私は七香と並んで体育館に向かっていた。
「ねぇ紬、緊張してきた……」
「大丈夫。深呼吸。どうせ話すのは私だから」
冗談っぽく言いながらも、胸の奥に小さな不安が残っていた。
<つづく>




