3−4 無意識の容疑者
「ねえ、パパ。コックリさんって、知ってる?」
「懐かしいな。子供のころ流行ったよ。紬の学校でも流行っているのか?」
夕食後、今日七香から聞いた顛末を話した。
「ねぇ、コックリさんなんて迷信だよね?」
「そうとも言えないぞ」
「ええっ?」
「コックリさんの正体は、人の『無意識の通信』だ」
パパは眼鏡を外し、両手で目をこすりながら続けた。
「無意識の通信?」
「人はね、知らず知らずのうちに筋肉を動かしてしまうんだ。事前のインプット情報、思い込み、他人の動きにつられてね。それを『イデオモーター効果』という」
「つまり、十円玉を動かしたのはコックリさんじゃない。子どもたち自身の心が「コックリさん」の正体だな」
子供たちの心がコックリさんの正体だったなんて。
私は得体の知れないものを見たような気分になり、鳥肌がたった。
「じゃあ、“おまえだ”って……」
「4人の中に犯人がいることを示している」
「え?誰?」
「おそらく、正美ちゃんだ」
息が止まった。
「え?!なんで?」
パパの声は静かだったが、確信に満ちていた。
「いじめが起こっていない前提で考えた場合、誰が一番正美ちゃんのものを隠すことができるかの『実現可能性』で考える。それはその持ち主・正美ちゃん自身だ」
「え、でも、体操服は?それも正美ちゃん?」
「それはわからない。本当にただの事故であったことも考えられる。現時点ではそちらの可能性の方が高いな」
「そんな偶然ある?本当にいじめかもよ」
「可能性はあるが、不自然な点も多い。例えばクラス会議後も続いている点とかだな。そんなことがあれば、いじめをする側の心理として手口を変えてくるが、同じような事象が続いている。つまり悪意がないとも言える」
「最初の事件、これが本当に誰かのイタズラなのか、偶然なのか、それはわからない。だが正美ちゃんの心の変化を生んだ。紬、七香ちゃんの話では、最初の事件の時、何が起こった?」
「えーと、クラス会議でみんなで話をした」
「ほかには?」
「正美ちゃんの親が学校に来たり、とか?」
「そうだ、それが目に見える動きだな。ではそれを正美ちゃんの視点で見たら?」
「え?どうかな。みんな自分のことを心配してくれている、とか?」
「そうだな、その可能性が高い。おそらく正美ちゃんは、何か悩みがあるんだろうな。子供では抱えきれないぐらいの大きなストレス。それが『ものがなくなることによって解決できるかもしれないと思っている可能性がある」
私は、手の中のコップを強く握った。
パパの言うことは理解できるけど。
だが、小学生の女の子とが、そんな、自分で自分を貶めるようなストレスを抱えるなんて。
霊なんかよりも、人の心の方が怖い。
でも、それを解きほぐせるのも、また人間。
「あと、パパ、これなんだけど」
私は、七香からもらった裏チャットのスクショとURLを見せた。
「正美ちゃん、この裏チャットで悪口を言われているらしいの、でも小学生がこんなこと投稿するかな?」
パパは、しばらく裏チャットの画面をみつめて、おもむろに自分のPCを起動した。
しばらくPCを操作して、
「紬、このチャットは特に制限なくアドレスさえ知っていれば誰でも入れる仕様になっている」
「そして、最初はたしかに小学生の書き込みだったかもしれないが、一部外部の可能性がある。これを見てごらん」
パパが見せてくれたチャットの履歴。正美ちゃんへの誹謗中傷が続いている。
「これでどうして外部だってわかるの?」
「何かパターンに気付かないか?」
私は目を凝らしてチャット履歴を追っかけた。
どれも普通の書き込みに見えるけど…
「あ!パパ、これ!書き込み時間。深夜の書き込みがある」
「そうだな。それが1つ目」
「まだあるの?」
「紬がよく言うLINEのおじさん構文ってやつがあるだろう?」
ああ、!マークとか、カタカナとか、長文とか。
「そのチャットを見ると、多くは1行の短文だが、一部数行の書き込みがある」
・・・!
「そしてその人物と同一人物と思しき書き込みが、小学生とは思えない、周りを扇動するような意図的な言葉遣いが目立つ。日常的な癖はそう都合よく消せるものではない。違和感のある書き込み、つまり、この場にそぐわない人物ということだ」
やっぱりパパすごい。
というか、こっくりさんより怖い。
私は、この得体のしれない父親を、呆然と見つめた。
<つづく>




