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3.クロイロオヒメサマ


 さて、とんとん拍子で話が進んでしまったワケなのだが。


「…困った事に、猫探しってやったことないのよねぇ」


 時刻は十二時三十分。ノリと勢いで決めた上に、さらに流れでマンションを出てしまったお昼時。…しまった、やっぱりお昼ご飯のお誘いは受けとくべきだったと地味に後悔。でも、早く安心させてあげたいので、まぁいいかと近くのコンビニへ。

 適当におにぎりとお茶を買って捜索開始。と言っても周りを注意深く眺めながら適当に歩くだけ。捜索というよりは、どちらかというと散策という雰囲気。まぁ、ワタシの役割は捜索役というより囮役だろう。上手くいけばクルリオンの方から、ワタシに近づいてきてくれるかもしれないし。

 そんな感じで捜索続行。時々、人があまり通らない路地などに入ってみたりしながら、二時間少々でマンション街近辺を走破。進展はまったく無し。そもそもこの辺りは霧璃の使用人さん達が重点的に捜索したはずなので、見つからなくてもおかしくない。

「…となると、駅前の方に足を伸ばすしかないのか」

 マンション街の近くの住宅街のほうは使用人さん達が展開しているらしいので、ワタシは駅前方面へ。流石におにぎり一個じゃ足りなかったのか、胃袋が空腹を訴えている。ぐるぐる、視界もちょっとぐるぐる。

 休憩も兼ねて、途中にあったファーストフード店に立ち寄ることにした。

 そういえば、しばらく実家暮らしだったのでハンバーガーも久しぶりだ。ちょっとテンション上がってみたり。

 立ち寄ったファーストフード店は全国的に有名なハンバーガーの店。空腹を程よく刺激するいい匂い(ただし油っぽいので、満腹時はちょっとした地獄)に包まれた店内。昼食時も過ぎた店内はすいていて、数名の暇人…じゃなくて客がちらほらと見受けられるだけ。うん、混雑してるのはあまり好きじゃないので良好良好。意気揚々と店内へ。


「あ、ヤサイ先輩だ!」

「む、早衣様…?」


 が、突然気が変わったので入口で百八十度回転。何も見てないし、何も聴いてない。そうだ、そういえば実家に行く少し前くらいに、新しいイタリア料理の店が出来たという話を小耳に挟んだのを思い出した。思い出したんで、休憩はその店でまったりと過ごそうじゃないか。確かこの辺りに出来たって話だったし。そう決めた、イエス。そう決めたんで、とりあえず…。


「あー!逃げるな!逃げないで下さいせんぱーい!久しぶりなのに露骨にスルーはどうかと思います!」


 …とりあえず、右手を離してください。というか何で入口から一番離れた奥の席から、ほんの僅か数秒でワタシの手を掴めるんだろうか!行動速いってレベルじゃないよね!?

「…天奈あまな…急用が出来たんだ。出来たんで行かせてくれ」

「だーめーでーすー!先輩明らかに超暇つぶしと食事を兼ねた顔して入ってきたじゃないですか!」

 どんな顔だそれは。あと暇はしてない、本当に忙しいのです猫探しで。

 

 ――残念ながらイタリアンはまたの機会におあずけとなるようです。当初の予定通り、昼食はハンバーガーで決定。わーい。

 テンション一気にダウンしながら、ワタシの右手を掴むトラブルメイカー…もとい顔見知りの女子高生を睨んでみる。

「相変わらずというかさ、もうちょい周りを見なさい天奈。一応公共の場ね」


 雪枝ゆきえだ天奈あまな。中学時代の後輩で、学年は二つ下。ワタシが中学を卒業した後も、何かと交流が続き今に至る腐れ縁。ルール無視の暴走少女。取り扱い注意の札でも貼っておきたい。

「うっす。じゃ、ご一緒しましょうよ先輩!クロエちゃんもいますよー?」

 天奈が座っていた席をよく見れば、たしかに対面にもう一人誰かがいた。もちろんそっちも顔見知り。

 席に向かう前にレジカウンターでハンバーガーセットを一つ注文。会計を済ませて待つこと数分、出来上がったハンバーガーとポテトとコーラの乗ったトレーを受け取って、天奈達の待つテーブルへ。

「はい、お待たせ。久しぶり、黒衛くろえ。そっちはどうだった?」

「お久しぶりです早衣様。京都は外国人だらけで疲れました」

 天奈の対面に座りながら、隣の黒衛に挨拶。

「あー、何、ってことは御嬢様と観光だったの?」

「はい。一週間ほど神宮御嬢様と古都巡りでした。…あ、早衣様によろしくと」

 なるほどねー、と天奈置いてきぼりの会話を黒衛と交わす。ワタシが東北の実家に滞在していた間、黒衛は京都近郊の“神宮”御本家に戻っていたという話。御嬢様についてはさて置く。

「京都巡りいいなー。私も巡りたい!そうだ、京都行こう!」

 …いってらっしゃい。

 天奈の言葉はとりあえずスルーして、今は燃料補給です。

「放置プレイってやつですか?先輩S?S?」

「受身は苦手、とだけコメント。あと放置プレイではないので悪しからず」

 是非ともそういうプレイは殿方とお楽しみください。そういう趣味はワタシにはありません。

「で、先輩はいままで何してたんですかー?田舎に帰ったって聞いてますけど」

「まぁね。ちょっと遠野物語巡りとしゃれ込んでました…っていうのは嘘で、実家にちょっと軟禁されてたのよ。こっちには今日帰ってきたばっかりなんだけどね」

 へー、と相槌を打つ天奈。一方、何故かジト目で睨んでくる黒衛さん。…あれ?ワタシ何かシマシタカ?

「まぁ、帰ってきて早々ちょっと用事を頼まれたんだけどね。しかも特急で。そんなワケなんで、忙しいってのは本当なのよ」

 とポテトを一気に食い尽くすワタシ。ハンバーガーは既に完食したので、残るはポテト半分とコーラのみ。

「…用事。章宮あやみや本家からの用ですか?」

「いや、霧璃の頼み。…猫探しなんだけど」

 さらに睨まれる私。露骨です、超露骨に睨まれてますワタシ。けどもうちょっとスルーします。

「キリリ先輩とは、懐かしい名前ですねー。卒業してから会えなくなっちゃいましたけど、元気なんですか?」

「うん。元気元気。後でメアド教えてあげようか?天奈なら霧璃も喜んで承諾しそうだし」

 元気にニートしてるよー、とは言わない。親友の名誉のためにも、こればっかりは絶対言わない。いや、まぁ、実際の所無職ではないのでニートではないのだけれど。

 わーい、と両手を挙げて喜ぶ天奈。対照的に黒衛は不機嫌度マキシマム。なんでだろーなー、なんて白々しくとぼけたいところですが、理由は大体見当がつくのでどうしたものか。

「…黒衛。ひょっとして連絡入れなかったこと怒ってる?」

「いいえ。怒ってません。連絡くれなかったことも、ただいまメールもくれなかったことも、帰ってきて早々に霧璃様のところに行ってしまったことも怒ってません。怒ってませんので、どうぞ気にしないいで下さい」

 気にするなという方が無理ですよ黒衛さん。


 黒衛。本名は黒衛くろいまもり。本人が嫌がるんで呼び方はクロエと呼ぶ。普段はクール、偶にこんな感じで拗ねる少女。ワタシとは二年ほどの付き合いになる。関係は…相方というか、相棒というか、従者というか、とにかく実家絡みで知り合った関係。何処か歪んだ信頼…というより信仰をワタシに向ける困った子。かまってあげないとすぐ拗ねる・黒衛ちゃん。と記憶しておきなさい。

「あー、いや、ごめん。なんというか流れに流されたといいますか。この埋め合わせは後ほどしっかりしますんで許してください」

 ね?と両手を顔の前で合わせて謝罪。やや不満そうな顔はしてるものの、先程よりはいくらか和らいだ表情で頷く黒衛。とりあえず許してくれたみたいでなにより。

 埋め合わせっていうのは、どこかに一緒に出かければ大体OKなので、後で適当に誘うとしよう。


 …にしても、ホント我侭だね黒衛。霧璃とは違う意味でお姫様です。

 可愛いので許す。


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