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2.マネキネコ-2


 S県宮乃(みやの)市の中心部にあるマンション群。

 十数を超えて乱立するマンションの中でも、一際高さで目立っているのが“デルフィナス”という名称の高級マンション。五十二階建ての超高層マンションであるそこは、裕福層と一部コネクションを持つ中流層の人間のみが入居していることで知られており、その厳重な警備と管理、そして訪れるものに与える威圧感から要塞マンションと呼ばれる場合もある。…いや、実際呼んでるのって一部おばさま方と一部マスメディアだけですけどね。


 ワタシの親友である北峰きたみね霧璃きりが住む部屋は、その“デルフィナス”最上階。五十二階のフロア全てを居住すみかとするセレブちゃん。将来の道とか未来の夢とか現実とか全部祝福され約束され、同時に北峰家が用意した全てに束縛されるお姫様がワタシの友人。

 警備員の厳しい目線をスルーしながらマンションの中へ。ここの入口は二重構造というか、入口の中にロビーがあって、そのロビーにも左右開閉式の自動ドアがあるという仕様。外の入口の警備が警備員オンリーなのに対し、こちらは警備員・監視カメラ・セキュリティロックという三連コンボ。扉を開けるには鍵代わりのセキュリティカードを通して暗証番号を入力するか、中の住民に開けてもらうという二つの方法しかない。で、ワタシは当然後者なので、インターホンで霧璃に連絡。

 で、開いた扉を通過してようやくのマンション内部。最上階まで階段で上る気には当然ならず、エレベーターで最上階へ。

 扉が開くとまた扉。五十二階はフロア全部が北峰家の(それも名義は霧璃の)所有なので、一フロアが丸々一戸となっている。そのため、玄関が各部屋と別にここにも設置されている。しかもオート…いや、贅沢にもほどがあるというか、毎度なんとなく呆れる。

 扉の脇に設置されたインターホンを鳴らすと、いらっしゃいませと扉が開く。中には使用人の方数名と、燕尾服とか着てる初老の執事さんが一名。そして。


「お待ちしておりました、早衣」

「お待たせ。久しぶりだね、キリ」


 それら人間を従える、北峰霧璃本人がいた。



                     ■ ■ ■



「単刀直入に言って、早衣が欲しいの」


 会話開始ゼロ秒。早速いつも通りどこか間違えている霧璃の一言が飛び出した。あんまりにも久しぶりすぎたので、思わず飲んでたコーヒー吹きだしそうになった。

「…キリ、それなんか言葉抜けてない?」

 数秒、右斜めに首を傾げる霧璃。うん、その仕草は可愛いんだけどね。霧璃が自身の発言の間違い探しに没頭している間、何気なく視線を部屋に泳がす。

 北峰霧璃と使用人たちに迎え入れられ、案内された霧璃の自室。霧璃以外は執事さんを除いて、用事が無い限り進入禁止という自室は、これまたファンシーに彩られたメルヘン空間。

 どこかのゴシック&ロリータのブランドのファッション雑誌記事に使われそうな空間とでも言うべきか。壁紙は淡いピンク、絨毯は深紅、家具はパステル調のイエローやらピンクで統一されていて、所々にハートやらティディベアとかの柄があしらってある。それだけでも甘ったるい感じのする部屋には、これまたティディベアやらハートのクッションで彩られ――もとい埋まっている天蓋付きベッド。(しかもアンティーク調)

 …ブラック無糖のコーヒーを飲んでいるはずなのに、砂糖たっぷりどころかシロップまで混入した甘々のコーヒーを飲んでいる気になる。正直、このメルティな空間は落ち着かないんで勘弁していただきたいのだが、まぁ流石に長い付き合いなので慣れっこだ。

「…あ、力?…は違う…あ、そう早衣の助けが欲しいの」

 ですよね。色々妄想を膨らませてくれる発言をどうもありがとう。

「それで良し。まったく…」

 開始早々いつも通りのスタート。約二ヶ月ぶりに再会した親友は相変わらずのままであり、どこか安心すると共にやれやれと溜息を一つついてみる。

 北峰霧璃。性別は女。北峰家の長女。ワタシとは中学時代からの付き合いであり、大のつく親友。学業とかの成績は満遍なくいいのに、とんでもなく天然なお姫様。中学時代の愛称はキリリ。高校時代は学校の教育方針と雰囲気の都合でキリリとは呼べず、以降は偶にキリリと呼ぶ以外はキリと呼ぶ。

「それで?助けって、具体的には何をすればいいのさ」

「…えっと、猫探し。クルリオン、いなくなっちゃって…」

 クルリオン。…あぁ、そういえばなんか足りないなーって思ったらそうだ。霧璃の愛猫たる白猫クルリオン嬢が見当たらないじゃないか。

「いなくなったって、いつさ、それ?」

「一昨日。気づいたらいなくなっちゃって、外とかも探してもらってるんだけど…」

 成果無し、か。なるほどね。

「しっかし、ここ五十二階、地上百メートルもある高層マンションだよ?外って、そりゃ…」

 猫はワリと高い所から落ちても上手く着地するというが、さて百メートル級はどうだろうか。ベランダ伝いに降りていけばもしかしてなのだが、このマンションのベランダには出っ張りが少ない。少なくとも下におりていく出っ張りなんて皆無のハズだが…。

「…うん、解ってる。けど、中にいない以上外のハズで、…その、最悪の場合でもいいからちゃんと見つけてあげたいというか…」

 言いながら徐々に涙目になっていく霧璃。彼女とクルリオンは幼い頃から一緒だったというから、その心境は心配で心配で仕方ないのだろう。最悪の場合というが、おそらく一番そうであってほしくなくて、しかし彼女自身はここを出る事ができないから周りに任せてただ待つことしかできない。

 雁字搦めのお姫様。永遠に幸せでいられるけれど、自由を奪われたお姫様。…で、そんなお姫様がお付きの兵士もとい使用人たち以外に頼れるのは、楽しい時間を共有した騎士様一人。


…もちろん、その騎士様とはワタシの事である。


「オーケー、引き受けた。ただし私なりのやり方になるから、結果がどうなるか解らないよ?」

 で、もちろん承諾するのがワタシです。親友の頼みとあれば断れないし、なにより可愛い女の子の頼みを断るのはどうかというものでしょう人間として。……いや、まて、その発想も人間としてどうなんだろうか?少女趣味?

「任せる。クルリオンと、一緒に帰ってきてね…?」


 任されたと、座っていた椅子から立ち上がる。

 さぁ、それじゃあ一つ、猫探しと参りましょう。

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