1.マネキネコ-1
十月の頭に唐突に始まった実家での騒動が終わり、ようやく東北地方の僻地から自分の住むS県宮乃市に戻ってきた十月二十六日。
新幹線と電車を乗り継いで、ようやく到着した自分の家の最寄の駅。降りたホームから見える風景に、とりあえず懐かしさを感じつつ一息。
地方の田舎にしばらく滞在したせいか、都会の空気の不味さに僅かに不満を感じたが、同時に帰ってこれたという安堵感もあったのでそこらへんは気にしないことにした。というか戻ってくると、よくあの環境で生きてられたなぁ自分と自己賞賛してしまう。なんせネットなし、携帯電話の電波なし、あろうことかテレビすらないという閉鎖空間…もとい実家。いくら婆さんが俗世の情報を(主に大衆娯楽とかそんなのを中心に)嫌っているとはいえ、あれはやりすぎである。いや、携帯電話の電波はどうしようもないか。仕事しろ電話会社。
都会の携帯電話の電波がまともに入る環境に感動しつつ、着信履歴とメールをチェックする。…お、着信履歴三件に受信メール十件。電話の相手はクロエとキリ。メールもクロエとキリからのもので、クロエが九件とキリが一件。クロエの方は近状報告のようなものなのでスルー確定として、キリの方はなんだろうか?
「…って、着暦今日じゃんコレ」
着信時刻は朝十時頃。丁度ワタシが電車に乗っていた頃だから、気づいたとしても出れなかっただろう。なんせうっかりシルバーシートに座ってましたからワタシ。
現在時刻は十一時四十分。緊急の要件で無い限りまだ間に合うかと、キリに電話…の前にメールをチェック。受信時刻は四十分前。無駄に長いというか、内容読解が困難なメールの内容を把握するに、どうやら会える状態になったら連絡が欲しいという事らしい。
ふむ、と僅かに思案。で、即電話。
「――じゃ、すぐ行く。迎え?いらないいらない。結構近くにいるのよコレが」
用件自体は直接会って話したいとの事だったので、適当に会う約束を取り付けて通話終了。すぐ会いたいという事は、そこそこ急ぎの事態なのかと予想してみる。…実家のときみたいに厄介ごとにならないといいけど。
さて、と気持ちを引き締めて駅の改札口へ。キリの住むマンションは駅から徒歩七分ほどの所にある、いわゆる高級マンション。本当は荷物を家に置いてから行きたいが、家を経由すると無駄に時間がかかる。それに、まぁとにかく今は誰かと会いたい気なので、直行です。荷物も少ないし、特に問題なし。とっとと向かうことにしましょう。
――そうして、ワタシこと彩宮早衣は歩き出す。
――僅かに脳裏をよぎった、厄介ごとの予感を無視して…。