表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

5


 秋が深まる頃。

 二カ月前までは暑かったのに、その暑さも消えかけている。そんな11月上旬。


 学校ではもうすぐ文化祭が始まろうとしている――。


 5時間目と6時間目は授業は無く、文化祭準備の時間となっていた。


「――えー、では文化祭の出し物の何か希望はありますか」


 先生がそう仕切る。


「はい! 喫茶店はどうですか?」

「わたし、演劇希望」

「お、お化け屋敷はどうでしょう」


 次々と意見が飛び交う。


 のちに、多数決で喫茶店とお化け屋敷に候補がしぼられた。


 確か、雫はメイド喫茶がいいとか言ってたな……。


 ***


「――文化祭の出し物が決まりました! 結果は――――お化け屋敷! 皆さん、お客さんを思う存分、怖がらせて下さいね! それでは5時間目、終了したいと思います!」


 ……。


 授業後、雫をちら、と見ると目が怖い。

 俺を鋭く睨んでいる。


「なんでこうなるわけ?」

「俺のせいじゃねーよ」

「絶対、お化け屋敷に入れたでしょ」

「……」

「あんたは私のメイド服なんか、ちっとも見たくなくて、ご奉仕もされたくなくて、私に死んで欲しいのね?」


 別に雫にお化けになって欲しいとか、微塵みじんも思ってない。てか、お化け役=死人=お化け役に雫がなって欲しい=雫が死んで欲しいって解釈したのな? いや、お化け役はリアル死人じゃねえだろ。

 でも結びつきが雫らしい。


「あのな、俺がお化け屋敷に票を入れたのはちゃんと理由があってだな――」


 昨年もやったからだ。

 もう雫のメイド服姿は見飽きるほど、見た。


「――私、秋良に殺されるなら別にいいけど。秋良になら、何されてもいい」


 は?


 瞳を逸らし、顔を赤らめそうのたまう雫。


 こいつの発言には時折、すごく困らされる。

 俺はどう返したらいい?


「……そうか」


 取り敢えず、そう返事するしかなかった。



 ――6時間目。

 看板作りとかは後で、この時間はどの役職を誰がするか、という担当を決める時間となった。

 担当にも色々種類がある。装飾担当、お化け担当、案内担当、看板担当、企画担当など。


 その中でも一番盛り上がったのは『お化け役を誰がやるか』だった。


 雫は誰もが認める美少女で校内人気も高い。だから、お化け役に指名されても違和感が無い。だが、彼女は嫌がっている。


「なんで嫌なのか?」

「秋原くんがやってくれるなら、一緒にやります」

「理由になってないし、何故改まった言い方になった?」

「クラスのみんなに向けて言ってるの」


「――でも怖くないか? 仲良し男女ペアのお化けがいて、お客さんはどう思う?」

「お客さんがどう思うかとか怖がるかなんて、どうでもいいの。ただ、私の目的は秋原くんに好意を寄せてる女子を末代まで呪うの」

「こっわ!」


 雫の本心を知り、鳥肌が立つ。


「一緒に呪い殺そうよ」

「却下」


 ――どうしても、お化け役は嫌だと雫が言うので《《彼女以外の誰か》》で再度指名が行われた。


「私、秋原くんがいいと思いまーす」


 そう告げるのは当然、雫だ。


 そして何故かクラスのみんなもそれに賛同していた。俺に知名度なんて全然無いのに。クラスに俺を知らない人もいるんじゃないかと思うくらいだ。


 じゃあ、何故賛同するのか――。


「秋原、影薄いしね」

「分かる。てか、この前授業中、秋原が爆睡してた時、偶然見ちゃったんだけど、白目()いててめっちゃ怖かった」


 授業中、爆睡してたこと暴露するなよ。先生の前なんだぞ。


「じゃあ、お化け役は秋原でいいかー」

「いいと思う。秋原って生きてるのか、死んでるのか分かんないし」


 おい。失礼だな。生きてるわ。


「言われてやんの」


 雫に頬をツンツンされる。


 すっげームカつく!!


 ――というわけで、お化け役は俺となった。

 なんで?


 ちなみに雫は案内担当になった。

 案内担当というのは当日、お化け屋敷(教室)の前で「お化け屋敷はこちらです」とか言って客を案内する役だ。他にもパンフレットを配ったりもするらしい。


「では、残りあと10分ですし、リハーサルをしましょう!」


 何故、残りの十分をリハーサルにてるのか……。先生の思考回路がまじで意味不だ。


 早速、更衣室で専用のお化けの衣装に着替えてきた俺。


 一同、俺を見てしーんとなる。


 なんか悪いことしてるみたいだから、何でもいいからリアクションしてくれええー!


「よし! 良いと思う。頑張って」


 雫は黙っててくれ。

 気を遣って言ってるだろ。


 何のリアクションもしないクラスメイトと教師。そう思われたが――。


「こ、こわい。こわいよ、秋原くん……」


 涙目を浮かべ、怖がる女子生徒がひとりいた。


 怖がられてるけど、めっちゃ嬉しい!


 心の奥で躍動していると――。


「よし。牧野まきの、客役やれ」


 怖がっていた、牧野麻菜まきのまなという女子生徒が急遽、客役をやることになった。


 といっても、あと十分程度しか無いが。


 教室の照明が消され、カーテンが閉められ、真っ暗になる。唯一、教室を照らすのは教師が持っている、懐中電灯の光。その光は俺と牧野さんに当てられている。


「じゃあ、机からバッといきなり現れて脅かせて」


 企画担当の男子生徒がそう指図する。


 言われた通り、机からいきなり出てきてみた。


「きゃあああっ!」


 すると、牧野さんは倒れてしまった。


「大丈夫? 驚かせてごめんね」


 俺は手を差し出す。


「おい」


 背後からそんな声が聞こえてきた、気がしたが。それはさておき。


「大丈夫です。ありがとうございま――きゃああ!」


 俺を見た瞬間、またも卒倒。

 すごくこの子、お化け屋敷の客にぴったりだ。誰もがそう思うだろう。

 でも、なんか怖がらせるのは可哀想だな、とも思ってしまった。


「今度は秋原が牧野を追いかけてくれ」

「分かりました」


 教室内をぐるぐると追いかけ回す。

 牧野さんが怖がるあまり、周りのモノも椅子も落っこちたり、倒れたりしていたが、牧野さんは俺より足が速いのか、捕まえることは出来なかった。


「きゃー!」


 悲鳴だけが響く。


 あっという間に十分は経って。リハーサルは思いのほか、成功して。


 ――教室が再び明るくなる。


 すると目に映ったのは、牧野さんが涙を浮かべていて、そんな彼女の背中を雫がさする姿。


「秋良が怖がらせるから、この子泣いちゃったじゃん。もー、女の子泣かせちゃダメだよ」

「それは仕方ないだろ。役割だからさ」


 悪戯好きな俺はお化けポーズでもしてみる。


「きゃー!!」


「あのさ、思ったんだけどさ、この子。秋良が怖いっていうより、キモいから悲鳴上げてるんじゃない?」

「……うん」


 いや、今なんつった?

 キモいって言った?


「俺、キモい……?」

「気持ち悪いし、怖い」


 …………。


「きっと、当日はお客さんみんな、悲鳴上げて怖がってくれるよ! そんなに落ち込まないで」

「キモいもんね」

「傷口、えぐらないでくれる?」


 そっか。牧野さんの『きゃー』はゴキブリが出た時の『きゃー』と同じきゃーなんだな。


 ショックなんだが。


 けど、牧野さんという子が友達に加わった気もして、ほんの少し嬉しかった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ