第9話 「ホワイトスター」
戦艦グリーンに攻撃を仕掛ける北島 莉久。
「東京が、ナゴヤに手を貸した。」
俺は先行してヒト型兵器に攻撃を仕掛ける。
章が「装備を変えて、特攻型にしておいた。」と、得意げに言った。
「武装が吉と出るか、凶と出るか。」
ヒト型兵器櫻が、俺を待ち構えている。
「そこは、外れです。」
雷の魔法がかけられた網に、機体が絡まり、動くことができない。
「網なら着れば良い。」
電磁的ナイフを装備して、網を切った。
南部 学図が搭乗するヒト型兵器海風を確認する。
機体にブルーウェーブが近づき、機体を洗い流そうとしていた。
しかし、スカイブルーがブルーウェーブを放ち、魔法同士が衝突して打ち消された。
「さすが、元祖ということかな。」と、学図が余裕の笑みを浮かべる。
「この網。意外と頑丈だな。」
俺はなかなか網から抜け出せずにいた。
後方から、ヒト型兵器護摩が光魔法を唱えている。
「人々の希望、夢、未来。輝かしいモノ達よ。光となりわが力となれ。ライトニングアロー!!」
俺は「かなりピンチな状況だな。」と、冷や汗をかいた。
機体の前にスカイブルーが現れると、マジックバリアが展開される。
「守護の神よ。私を愛する者を守り給え。マジックオーラ。」
スマの息が早くなるのを、俺は感じていた。
スカイブルーの周辺に、シャボン玉のような魔法の玉が現れ、七色に光る。
スカイブルーに魔法が充填され、マジックバリアの厚みが増す。
「これなら、耐えられます。」
光の矢が盾を貫けず、消滅していく。
光の矢が塵となり、空に魔力が散っていった。
俺は網を断ち切り、ヒト型兵器櫻に飛びつく。
「やられっぱなしじゃ、面白くないんでね。」
ヒト型兵器櫻の胸部に、ナイフを突き刺す。
「負けず嫌いは、相変わらずですね。」
ヒト型兵器櫻はナイフを抜くと、ファイアを詠唱する。
俺は「機体の性能差が大きすぎる。」と、ヒト型兵器きしめんをうらむ。
ヒト型兵器櫻の攻撃に対応できず、炎のナイフが右足に突き刺さる。
「魔法と物理攻撃を融合させてくるとは。」
里桜が「残念でした。」と、さらに攻撃を重ねる。
俺はこのままでは勝てないことを察した。
「機体の性能差が大きすぎるなら、切り札か。」
俺は自爆スイッチに手をやると、待避する準備をする。
「さあ、覚悟」と、機体の頭部にナイフが突き刺さる。
その時には、俺はすでに機体を捨てて、離脱していた。
「うっそ。そんなのありですか?」
機体の全てのエネルギーが暴発し、ヒト型兵器櫻の装甲を傷つけていく。
さすがにゼロ距離からの自爆であり、相当のダメージを与えられていた。
「手段は選ばないって、彼らしいのかもね。」
俺はシン東京連合の機体が遠のいていくのを目視した。
今度が名古屋共和国のヒト型兵器が、スカイブルーに接近していく。
「櫻木 光太。スマと接触を果たすか。」
スカイブルーとホワイトスターが、共鳴し輝き始める。
しばらくすると、ホワイトスターがスカイブルーから離れ、姿を消した。
戦艦グリーンは、新都市大阪国と共に、大津まで後退する。
西成が姿を現すと、連を睨み付けた。
「私の留守に、失態をしてくれたな。」
「申し訳ありません。」
俺は、西成を横目で見た。
「これより、私が指揮を執る。副隊長はヒト型兵器連で、出撃を願う。」
「分かりました。桧山の機体は、どのように?」
「戦艦グリーンに戻せば良い。戦艦グリーンも失態で、ヒト型兵器を失ったようだからな。」
俺は西成の言葉を無視した。
西成は部下を連れて、戦艦西成に戻っていく。
冷が「これで戦力が補強されて良かった。」と、言った。
俺は「新都市大阪国の被害は甚大のようだな。」と、負傷した兵士を見た。
「第一艦隊の田崎 慎吾は、ロストしたとのこと。」
「あの少年が。」
俺は、公園で話した慎吾を思い出した。
「西成が指揮を執るので、新都市大阪国の動きも注視してください。」
冷が小さな声で、俺にそう告げた。
「連副隊長も、やりにくくなるな。」
「ええ。そうだと思います。」
俺は、冷が他人の心配をするなんて、珍しいと思った。
「冷が心配そうにするなんて、珍しいな。」
冷が「別に・・・」と、言った。
「まあ、人の心配をすることはいいことだから、いいんじゃないか。」
俺がそういうと「そうですか。」と、冷たい声で言葉を返した。
「怒ることないだろう?」
冷が「別になんともおもっていません。」と、答えた。
俺は気晴らしに琵琶湖を歩いていた。
コテージが姿を見せると、隆がいた。
軍が休憩用にコテージを借り上げたようだ。
俺が「隆。お疲れ様。」と、声をかける。
隆が「はい。お疲れ様です。」と、返事をした。
「慎吾のこと、残念だったな。」
俺が隆にそう言うと、隆は何も答えなかった。
しばらくしてから、俺が「今回の作戦は失敗だったな。」と言うと、隆はなんとなく頷いた。
「どうしたらよかったか。ということは分からない。ただ、力が無ければ負けるということだ。知ってはいるが、堪える。」
「戦いが始まれば、自分のことが一番だ。隆は悪くないよ。」
「弱いということが、悪だ。」
俺は、隆が力を正義と考えていることに、戸惑った。
ただ、自分を責めて、納得したい気持ちは、俺にも理解できた。
俺は隆にそれ以上の言葉をかけられなかった。
俺は何も言わずに、その場を去った。
戦艦グリーンのブリッジで戻ると、冷がスマを監視していた。
「これも情報収集の一環ですか。」
俺がそう言うと「嫌な仕事を、艦長がやらないからです。」と、冷が睨み付けた。
「まあ、そう怒らない怒らない。」
冷が見ている映像を、俺も見る。
スマが琵琶湖を歩いていると、櫻木 光太が姿を現した。
「櫻木 光太が、スマに接触を図りました。」
俺は「まあ、そうなるだろうな。」と、冷に答えた。
「彼は、私たちに攻撃を仕掛けてきました。」
「シン東京連合の目的は、いささかうさんくさい。」
「完全平和主義。理想を掲げた彼女たちの真の目的は、なにか分かりかねます。」
冷の言葉に、俺は頷いた。
「無人ヒト型兵器の実験が目的なのでしょうか。」
冷がそう言うと、俺はそれだけではないかと思っていた。
「俺には分からないな。」
俺は、スマと光太が話している姿を、もう一度、見た。
「今回の接触は、名古屋共和国が仕組んだものなのか。」
冷が「遠くに北島 理恵子を確認しました。」と、理恵子の姿を映し出す。
「シン東京連合が仕掛けたものなのか。」と、俺は混乱した。
冷が「いずれにしても、情報が足りません」と、淡々と言う。
「まあ、そうだな。情報不足ですね。」