第8話 「戦いの合間の日常」
俺は日を改めて、示度の研究室を訪ねた。
ボルトやネジを避けながら、示度の席に近づいた。
大型コンピュータと薬品が置いてあり、見慣れない部屋だった。
「私の研究室に出向くとは、何かあったのかな?」
示度は俺がここに来るのを知っているかのように、笑った。
「手厚い支援については、御礼を申し上げる。」と、まず礼を言った。
「そうであろう。」
「無人ヒト型兵器。博士は関与しているんでしょうか?」
「何のことかね。」
「あえて、スカイブルーとベリーショートで応戦させた。」
しばしの間のあとに、薬品が小さく爆発する音がした。
「正解。」と、示度が応えた。
俺は示度という人物が何を考えているのか、理解に苦しんでいた。
彼の目的は何なのか、何をしたいのかが、分からずにいた。
「ベリーショートに搭乗させた理由は?」
「おまえが考えている通りじゃよ。」
示度が宝石のような赤い石のレプリカを見せた。
「ワイズストーンのレプリカ。この石には、何の力も無い。ワイズストーンの使い手である、三田 駿であればマジックストーンの象徴たるベリーショートを操れることは想像できた。スカイブルーに異物として其方が搭乗しても、起動したという情報は手に入れておったからな。」
「ワイズストーンの力を、博士は知っているんですか?」
「遙か昔の記憶が戻らぬお主には、解らないであろう。ワイズストーンは、人を楽園につれていく、そんな力があるのだ。」
「楽園?」
「地獄かもしれんがな。」と、示度が大笑いした。
「ビショップ、マジックは象徴する機体は、本来あるべき艦に戻った。今は、それで良いのじゃ。」
示度が戦艦グリーンに、スカイブルーとベリーショートを配置したい思惑があったことは分かった。しかし、戦艦グリーンの戦力を増強することとなり、敵意があるのか味方なのかが判断できず、余計に困惑した。
「無人ヒト型兵器は、ワイズストーンの力によって創造されたモノなのでは?」
「それはない。そろそろ、出払って頂く。実験が残っておるのでな。」
示度があっさりと答えると、俺を部屋から追い出した。
冷のいない戦艦グリーンのブリッジ。
「冷がいないなんて、珍しいな。」
美佳が忘れ物をしたのか、ブリッジに顔を出した。
「あれ、珍しいですね。」
俺が「何が?」と、美佳に返した。
章がブリッジに入ると、周りを見回す。
「珍しいこともあるな。」
章も同じ事をいう。
俺が「だから何が?」と言うと、美佳と章が目を合わした。
「冷がいないなんて珍しいから。」
章と美佳が、一緒に答えた。
「最近、戦艦グリーンにいないことも多いよな。」
章がニヤニヤしながら、俺に言った。
「冷にも春がやってきたのかな。」
美佳が野次馬のように、喜んでいる。
美佳が「けど、相手は誰なんだろうね?」と、不思議そうにする。
章が「新都市大阪国の誰かだろうな。」と、すぐに答える。
章が少し考えて「まずいな。戦艦を降りる、なんてことになったら。」と、慌てる。
陵が騒がしいブリッジに入り「何かありましたか。」と、俺たちを見た。
俺が「冷がいないから珍しいなって、話してただけだ。」と、言った。
美佳が「陵もしっかりしないと、冷のこと取られちゃうよ。」と、陵の肩をたたいた。
陵が「私はそういうことではないので。」と、冷たい目で美佳を見た。
美佳は後退して「本気なのね。」と、小さい声で言った。
章が「美佳。余計なことを言うなよ。」と、美佳を軽く叱った。
「ずっと戦艦にいたから、気晴らしがしたいんだろう。」
陵は「新都市大阪国から情報を入手しに、基地にいるようです。」と、俺に答える。
俺が「そんなこと、言ってたな。」と、美佳に言った。
美佳はつまらなそうに「じゃあ、失礼します。」と言って、部屋に戻っていった。
章も居心地が悪く「俺も、ここで失礼します。」と、部屋に戻っていく。
陵が「貴方がしっかりしないから、こういうことになるんです。」と、俺を睨んだ。
俺は「えっと。どういう意味ですか。」と、答えると、陵が俺の足を強く踏んだ。
俺は痛さの余り叫んで、ブリッジから逃げ出した。
戦況の思わしくない新都市大阪国は、第一艦隊に関ヶ原に向かうように指示が出る。
戦艦グリーンは後方で待機するように伝えられた。
隆とスマがすれ違った。
「今回はベリーショートに搭乗しないんですね。」
隆が「ああ。それが軍の命令だ。」と、答えた。
俺が「ヒト型兵器連の力を見させて頂くよ。」と、隆に声をかける。
隆が「なにが見させて頂くだ。何度も見てるだろ。」と、俺に敵意を向けた。
俺が戦艦グリーンのブリッジに戻ると、冷の姿があった。
「こちらの戦力は、逆戻りです。」
いつも通りの冷がいた。
魔法攻撃を得意にするため、新都市大阪国から配備されたヒト型兵器には搭乗せずに、名古屋共和国のヒト型兵器きしめんに、俺は再び搭乗することとなった。
「仕方ないだろう。」と、俺が冷に答えた。
スマが「今回は後方支援です。問題はないかと。」と、気休めの言葉をかける。
そして、俺とスマはヒト型兵器に搭乗する準備のため、ブリッジを後にした。
美佳と章は、定位置に座り、状況を静止している。
冷が後方にシン東京連合のヒト型兵器を確認する。
「機体情報は確認できません。」
冷が映像を転送する。
「またまた、厄介な展開だね。」
俺はシン東京連合の機体が最新鋭機であることに、嫌な気分になった。
「こちらは無駄に戦力を落とすことはできない。このまま、後方待機。」
冷が適格な指示を出す。
戦艦西成の主砲が発射されると、大きな光と爆音がする。
「けっこう、苦戦しているみたいですが・・・」
俺が出撃を促す。
冷が「後退にいる部隊が気になります。」と、答えた。
「ここからでは正確ではありませんが、機体情報がえられないので、新型機かと。」
美佳が後方部隊の情報を注視している。
「またも新型機か・・・」と、改めて自分たちの運命を呪う。
「接近してみるか?」と、章が声をかける。
次いで「冷、詮索するか?」と、陵が声をかけた。
スマが「こちらは準備できています。」と、冷に指示を仰ぐ。
冷は「艦を先行させる。」と、スマに答えた。
ヒト型兵器が戦艦グリーンに攻撃を仕掛けてきた。
ヒト型兵器の攻撃で、戦艦グリーンの装甲に弾かれる光。
「こちらはシン東京連合。攻撃を開始する。」