第5話 「桧山 隆」
戦艦グリーンを待ち構えていた示度。
示度は戦艦グリーンに要人になるように告げる。
冷はそれを拒むことができず、新都市大阪国に滞在するほかなかった。
示度から無人ヒト型兵器の起動実験があることと、その起動実験を阻止する任に就くように命じられた。
俺は魔力によって怪我が完治し、ヒト型兵器ベリーショートに搭乗することに試みる。
「ダブルエントリーシステム。再起動するのか?」と、俺は操縦席を見回した。
「足手纏いになるなよ。」と、隆が檄を飛ばす。
俺は「はいはい。」と言って、笑ってしまった。
しばらくすると、隆の意識が遠のくのを感じた。
「隆。しっかりしろ。」と、声をかけても反応が薄い。
「ベリーショートからの干渉か。」
俺は目を瞑り、ベリーショートとコンタクトをはかった。
「正義という問いに、答えはない。」
「おまえは。」
「今は、ただ戦うしかない。」
「戦うことが正義ではないのか。」
「それの答えを見つけることができるのは、隆、次第だ。」
「俺次第・・・」
「戦いを望むのも、拒むのも。」
隆の意識が戻ると「面白いことをいう。」と、笑った。
「貴様は、何者なんだ?」
俺は「さあ、通り過ぎりのジャンク屋かな?」と、答えた。
冷が「いつからジャンク屋にくら替えをしたの?」と、苦笑いしていた。
「整合率10から30に上昇します。」と、オペレーターの声がした。
ベリーショートが起動し、目が青く光る。
「やはり、本来の乗り手ではない俺では、十分に力が発揮されないか。」
俺では役不足だということを、再認識する。
「ベリーショート。発進する。」と、隆が声をかえて、戦艦の外に出た。
のっそりと歩く無人ヒト型兵器を目視できた。
徐々に黒い霧が覆い始める。
「あの黒い霧は、魔力なのか?」と、隆に問われる。
「さあな。ただ、ただ事ではないことは確かだな。」
ヒト型兵器が規則性のない動きを始める。
「まったく、厄介な代物を。スマ、援護を頼む。」
スマが「了解しました。」と、スカイブルーを発進させる。
俺たちは、相当の距離から、無人ヒト型兵器を待ち構えていた。
「生命反応がない。あの黒い霧はなんだ?」
隆が気味の悪いオラーに、恐怖を抱いているように見えた。
「雷の力よ。サンダー!!」
俺が先制攻撃を仕掛けるが、黒い霧に魔力が吸収されてしまう。
「魔力を吸収するというのか。」
隆が光化学ライフルで、追撃する。
ライフルが的中しても、わずかに後退するだけで、ダメージは感じられない。
「ずいぶんとタフな奴だな。」と、隆は強気に笑っている。
無人ヒト型兵器が不規則な行動で、こちらに飛びついてきた。
「隆、力を貸してくれ!!」
隆が「なにを!?」と、戸惑っている。
俺は機体の装甲に魔法のバリアを展開して、装甲を強化することとした。
俺が隆に頷くと、隆は俺の手を取って、自らの無事を祈った。
無人ヒト型兵器が、ベリーショートの頭上を覆うと、黒い光と赤い光を発し、天に光を突き通し、自爆した。
潤と少年が会話する姿。
学生生活を楽しむ少年。
文化祭で出店をする少年。
少年が、焼きそばを作り、学生に売っている。
普通の学生生活の映像が流れる。
そして、最後に、学生が魔法炉に入り、大召喚獣となりこの世を去って行く。
「これは何だ?」
「無人ヒト型兵器の正体か。」
「こんなことをするのが、博多の奴らなのか。」
「彼らの責任ではない。」
「じゃあ、何なんだ。この有様は。」
「人が生きていくために、人を犠牲にしているだけだ。」
「豊かさ故の犠牲だというのか。」
「犠牲はどこの世界にも存在する。見て見ぬ振りをしているだけだ。」
「正義は必ずある。俺が実現する。」
爆風で舞い上がった塵で、視界はほぼない。
操縦席にも溢れる隆の魔力。
「俺は、俺の正義を貫く。」
その魔力はベリーショートを輝かせていた。
戦艦グリーンに帰還すると、蒼太が隆を待っていた。
「さきに、行くな。」
俺がベリーショートから降りると、スカイブルーから降りたスマがいた。
「よく、自爆するって分かりましたね?」と、スマに聞かれた。
「なんとなくかな。」
隆が、機体から降りると、蒼太が隆に近づく。
「隆。やっぱり、操縦していたのか。」
新たなもめ事の予感がした。
「示度博士の命令だ。」
「そっか。無事でよかった。」
隆が「ありがとう。」と、少し優しい声を出した。
「それにしても、大阪は魔法を使わない国なはずが、俺たちを利用しようとは。」
陵が「本音と建て前というやつなのでしょうか。」と、俺に答える。
「どうなんでしょう。」と、蒼太は面白くなさそうにしている。
戦艦グリーンの銭湯。
俺は冷えた体を温めに、湯船に浸かった。
「お疲れさまです。」
先客はスマだった。
「お疲れさま。」
スマが少ししてから「聞きたいことがあるんですが。」と、言った。
「どうした?」
「ベリーショートは、ダブルエントリーシステムなんですよね?」
「そうだ。」
「ベリーショートのパイロットは、2人必要だっていうことですよね?」
「そうだけど。」
「そのパイロットって、隆と駿なんですか。」
「どうして、そう思う?」
スマが少し考えて「別のパイロットがいると思ったからです。」と、答えた。
「そうだな。俺の機体ではないのは明白だからな。」
「じゃあ、どうして、操縦できたんですか。スカイブルーの時のように。」
俺がスマの言葉を聞いて「スカイブルーの時のようにって?」と、聞き返す。
「いえ。なんでもないです。」
俺がスマの頭を軽くたたいて、それ以上は何も言わなかった。