第4話 「お風呂と富士山と戦」
俺は体の芯から温まるために、お風呂に入った。
富士山の絵が描かれている大浴場。
昔ながらの銭湯をイメージして作られた。
「これだけは、こだわってよかった。」
ホッとしていると「・・・失礼します。」と、ドアを開けるスマ。
スマが富士山の絵を見て「この趣味は、駿の趣味ですか。」と、問う。
「・・・はい。」
「そうですか。」
「こんなことに力入れるなって、思ってるよな。」
「いえ・・・」
俺は、スマの過去の記憶を思い出して、考え込んだ。
次の言葉を探していると「嫌なことを忘れられるから、好きなんだ。」と、言っていた。
「誰もいない、お風呂は好きかもしれません。」
「お邪魔だったよな。」
「いえ・・・」
スマが呆然している。
「また、売春を強要されるかと思っていました。」
今度はスマが口を開いた。重苦しい声だった。
「そっか。パイロットも不満だよな。利用するような形になって、悪い。」
「慣れてますから・・・」
俺はあえて軽い口調で答えていた。
しばらくの沈黙が続く。
「困ったことがあったら、いつでも相談に乗るから、声かけてな。」
困っているのは自分だった。
「・・・はい。」
しばらく、湯船につかると、俺はスマを残して、大浴場を後にした。
体が温まり、通路を歩いていると、章の大きな声が聞こえてきた。
章の部屋のドアをたたくと、部屋に入った。
「何か、問題でも起きたか?」
陵が「いえ・・・」と、言葉を濁していた。
「焦る必要はないだろ?」と、まず陵を見た。
「焦っているわけでは・・・」
章に目を合わせて「恋愛禁止ではないんだけど、あんまり見せつけないように。」と、注意する。
「・・・はい。」と、章が下を向いた。
「問題があれば、冷が言うだろ。陵。」
陵が「冷のことは、信用しているんだな。」と、切り返してきた。
「誰のことってわけではないよ。陵のことも信用してるけど。」
俺が陵に笑って見せた。
陵が「余計な心配だったようだ。」と、不満そうにする。
俺が「じゃあ、章と話しがあるから。」と、章を部屋から連れ出した。
章が「・・・すいません。」と、謝る。
待っていたのか冷が「気になることが・・・」と、姿を現した。
「ちょうどいいところに。」
たまたまだったのか、冷は不思議そうな顔をした。
冷の部屋に招かれると、珈琲を出してくれた。
「ありがとう。」と、俺は冷に微笑んだが、冷の目は冷たかった。
「そういえば、陵の部屋で、何をしてたんですか?」
俺が「まあ、いいじゃないか。」と、ごまかそうとした。
「ブリッジで倉庫の映像も確認できることは、忘れないように。」
章が顔をタコのように赤く染めた。
「・・・はい。」
俺が「冷。美佳のこと、問題ないよな?」と、問う。
「今のところ、問題はないかと。」
「・・・だそうだ。」
章がほっとした顔をした。
「美佳のフォロー、頼むな。」
「はい。」と、元気な声で応えた。
「ところで・・・」と、俺が本題に入ろうとすると「遠慮しましょうか。」と、章が気を番うが、冷は首を横に振った。
「桧山 隆。13歳。」
新都市大阪国のデータベースから盗みとった映像を、冷が二人に見せる。
「ヒト型兵器連に搭乗しているのか・・・」
「戦艦西成に搭載された新型の一つです。」
ヒト型兵器連の装備を確認すると、章が驚いた顔をした。
「最新兵器搭載型って、感じだな。」
「期待されているのか。こちらの動きをけん制してのことなのか。」
冷が俺の言葉を否定するように、首を横に振った。
「古の記憶は、未だ、解放されていません。警戒する必要はありません。」
「そうだな。」
俺は少し淋しくなって、上を向いた。
「至急・ブリッジに集合」
戦艦の様子が騒がしくなる。
「映像、出ます。」
美佳が木曽川周辺の映像を映し出す。
冷が急いで目的地に向かう手はずをつける。
「あえて、仕掛けてくるのか。このタイミングで。」
俺は油断していたと、頭を抱えた。
「乱暴な作戦ですね。」
スマが映像を見ていた。
砂埃の中から、姿を現したヒト型兵器連を見て、スマがハッとしたような反応をする。
「あの機体、なにか感じる。」
「趣味が悪いよな。よりにもよって、あの機体かよ。」
第一艦隊の作戦の趣味の悪さに、章は苦笑いして見せた。
「大型バリア。以前、展開。大阪の分が悪い。」
「その判断は早急かもしれない。」
冷の言葉を、陵が遮った。
戦艦グリーンが戦域に到着すると、ヒト型兵器きしめんが発進する。
「先行して、道を開く。」と、俺が出撃した。
スマは、スカイブルーに搭乗待機している。
「僕は出なくて、大丈夫ですか?」
「危なくなったら、頼む。切り札だからな。」
ブラックナゴヤとヒト型兵器が交戦している。
状況を確認しつつ「この状況、どっちに付けば、勝算があるんだ。」と、戦局を読む。
「気まぐれな奴だ。」
「そりゃ、どうも。」
俺がブラックナゴヤの後方に付くと、次の攻撃に備えた。
戦艦グリーンの主砲が、ヒト型兵器堂島を捉える。
「撃て!!」と、冷の声が響く。
主砲が一直線に、蒼太の搭乗するヒト型兵器に向かう。
「新手ですか。」と、蒼太が表情を曇らす。
「運が悪い。けど、最後の最後まで、勝利の女神はどちらに微笑むかは、わからないよね。」
ヒト型兵器連が、白い蒸気に覆われている。
今すぐにも暴走しそうなライフルを構え、ひび割れた大型バリアに狙いを定める。
ブラックナゴヤが前に出て、攻撃を阻止しようと試みる。
「3,2,1、発射。大阪のすべての希望だ。」
一直線に光が走り、大型バリアと衝突し、粉々となったエネルギーが地面に落ちていく。
ブラックナゴヤが、大型バリアの背後から、魔法でシールドを展開し、受け止めようと試みる。
俺は、暴走し始めたライフルを狙い撃ち、撃破する。
「ライフルが破壊されたのか。」と、隆が一瞬の出来事に、動きが止まる。
大型バリアが消滅し、木曾川周辺からエネルギーの塊が消失し、双方のヒト型兵器が衝突を始める。光線となったエネルギーは、未だ健在でブラックナゴヤが必死に受け止めている。
「このような奇策。」
背後に備えていたライフルを光線に上手に当てる。
ブラックナゴヤが受け止めきれず退くと、光線が大爆発を起こし、エネルギーが消滅した。
爆風に巻き込まれる俺のヒト型兵器きしめんを受け止めるスカイブルー。
「作戦は成功です。」
スカイブルーがヒト型兵器きしめんを背負い飛び立つと、ヒト型兵器連とすれ違う。
「この機体!!」
「桧山 隆。僕は、君のことを・・・」
スマが隆の存在を感じている。
「機体ではないのか。こいつの存在感で、悪寒が走ったのか。」
ヒト型兵器連は攻撃せずに、ブラックナゴヤに急いだ。
冷たい水が顔に当たる。
「情けないな。」
高温で操縦席の一部が変色していた。
「人を頼らないからです。」
「死ぬかと思った。」
「簡単に死なせはしないです。」
スマの言葉を聞いて、いろいろな感情がこみ上げてきた。
俺は「ありがとう。」と、スマに笑った。
スマが俺を抱きかかえて、救護室に運んだ。