第13話 「スクーターと温泉」
俺は戦艦のブリッジから、博多のバリアを見ていた。
冷が「戦艦を隠せるところを探しています。」と、報告を受ける。
「ああ、そうしてくれ。」
隆がブリッジにやってきた。
「お疲れ様です。」と、隆が俺に声をかけた。
「お疲れ様。いろいろと大変だったな。」
俺の言葉に隆が頷いた。
「ベリーショートに招かれて、ここに来たのか?」
「あの力が不幸を呼んでいる。」
「俺にとっては、こうやって隆と話せていることが幸運だな。」
俺は隆に微笑んだ。
隆は俺とは目を合わさなかった。
「蒼太が俺を助けてくれた。だから、俺はやるべきことはやる。」
「ここでは、自分のために戦ってもらったかまわない。」
「それはどういう意味・・・」
「軍人ではないという意味だよ。」
隆が言葉を詰まらせていた。
「悪かったな。軍人で。」
「悪くはない。それを決めるのも、隆自身だ。」
「あと一つ聞きたい。」
「はいどうぞ。」
「無人ヒト型兵器から入り込んできたあのイメージは。」
俺は隆とベリーショートに搭乗して、無人ヒト型兵器と戦った時のことを思い出した。
「これは何だ?」
「無人ヒト型兵器の正体か。」
「こんなことをするのが、博多の奴らなのか。」
「彼らの責任ではない。」
「じゃあ、何なんだ。この有様は。」
「人が生きていくために、人を犠牲にしているだけだ。」
「豊かさ故の犠牲だというのか。」
「犠牲はどこの世界にも存在する。見て見ぬ振りをしているだけだ。」
「正義は必ずある。俺が実現する。」
潤と少年が会話する姿。
学生生活を楽しむ少年。
文化祭で出店をする少年。
少年が、焼きそばを作り、学生に売っている。
普通の学生生活の映像が流れる。
そして、最後に、学生が魔法炉に入り、大召喚獣となりこの世を去って行く。
「少年の一人に見覚えのあるような気がする。」
俺は「見覚えがあるかないかは、これから分かるさ。」と、答えた。
「どういう意味だ。」
「これから博多に潜入すれば、彼らと再会することになる。」
「あの少年達は実在するのか?」
隆は驚いた顔をした。
「ああ、生きていれば。」
章が面白くなさそうに、俺を呼んだ。
「隆、悪い。また後で。」
俺は章の部屋に向かった。
章は俺が来るのを待っていた。
「悪い。艦長。」
「どうした?」
章の顔色はあまり良くなかった。
「美佳のことで。」
「あんまり考えすぎない方が良い。」
「一緒にいることで、彼女を傷つけしまうのかもしれない。」
「艦を降りたとしても、傷ついているかもしれないだろ。」
章は下を向いた。
「一緒にいたい。けど、いなければ彼女のことを知らなくて済む。ずるい考えかもしれない。けど、それでも一緒にいたいと思ってる。訳が分からなくて。」
「ああ、そういうものだろ?」
「そういうものか?」
「そういうものだ。」
俺と章が目を合わせた。
「しばらく、戦闘はないと思う。ここまで来れば、他国はなかなか攻撃しにくいからな。」
「まあ、そうでしょうね。」
「少し休んで欲しい。わがままをいえば、艦を留守にする間、留守を頼む。」
章は軽く頷いた。
大分県天神山の山際に戦艦グリーンが到着した。
「まあ、この辺りなら問題ないだろう。」
陵が周辺の環境を確認する。
冷も納得している様子だった。
「僕が待機なのは、少し納得できません。」
スマが不満そうに、俺を見た。
「戦艦グリーンを守れるのは、スマしかいないだろう。」
スマが「僕が裏切るかもしれませんよ。」と、笑った。
「そういう意地悪なことを言うな。」
俺はスマの頭を軽く撫でた。
「分かりました。」と、スマはしぶしぶ納得したようだった。
隆は軍人だけあり、準備が早かった。
「どうでもいいですけど。その装備で潜入するつもりですか?」
隆が俺を見て、苦笑したら。
「ああ。」
「無防備すぎるだろ。」
隆が防護用ナイフを手渡してきた。
「ありがとう。」
「魔法頼みだから、装備は必要ないのか。」
「いや。助かる。」
俺は隆から預かったナイフを装備する。
章が「俺らは待機してるから、いつでも連絡してくれよ。」と、言った。
冷が「ヒト型兵器は使用できないので、注意してください。」と、言った。
俺は「ああ、分かってる。魔法があるから大丈夫だ。」と、答えた。
スマが「じゃあ、いってらっしゃい。」と、俺らを見送った。
戦艦にあるスクーターに乗る。
「二人乗りとは・・・」と、隆が不満を漏らす。
「仕方ないだろう。」
「文句は言いません。」と、隆が口を閉ざした。
スクーターでしばらく山道を進むと、湯気が立ち上っていた。
「秘境の温泉だ。」
俺は心を躍らせた。
「寄り道していくのか。」
隆は空を見た。
「雲行きも怪しいからな。ひとっ風呂していこう。」
「タオルがないだろ。」と、隆が重ねるように突っ込みを入れた。
俺は自慢げにタオルなどの入浴セット2名分を出した。
隆が「抜け目がないというのか・・・」と、言葉を失っている。
「ということで。」
スクーターを温泉の横に止める。
昔は観光地だったのであろうか、少し汚い脱衣所があった。
俺は桶で水を汲み、ほこりを洗い流した。
「まあ、こんなもんだろう。」
隆は何もせずに、俺を見ていた。
俺は準備を終えると、さっそく温泉に入った。
隆も遅れるように湯船に浸かる。
「風呂は命の洗濯だな。」
隆は頷いて見せる。
しばらく、冷えた体を暖める。
「意外と雑だな。」と、隆が言った。
「まあ、適当なところは適当じゃないと、大変だろ。」
「まあな。」
「いろいろ整理しすぎると、かえって分からなくなる。」
「そういうこともあるな。」と、隆は納得した。
隆が湯船に体を沈めていく。
「この先のことも、考えすぎると分からなくなるからな。」
「さきに進むことが怖いとか?」
「どうだろうな。」と、隆が返事をした。
隆はこの先にいる彼の存在を感じているように思えた。
「俺は怖いと思うこともあるよ。」
「立ち止まることも、突き進むことも同じくらい怖いだろ?」
「そうだな。まあ、そういうときは感じままに進むことにしている。」
「まあ、そうだよな。」
俺が「隆は自分の思うままの正義に進んでくれ。」と言うと、隆は顔まで湯船に浸からせてみせた。
隆が湯船から体を出すと「言われなくても、そうする。」と、威勢良く言った。
俺はそんな隆を見て、笑ってしまった。