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?奇妙な物

 冒険者なんてのはいくらでも替えの効く生業で、増えては消えるそんな世界だ。だから、冒険者は基本的に他所の冒険者に無関心である。

 もちろん、冒険者の中には様々な方面で功績を讃えられ、皆に憧れられる者もいる。そういった冒険者は、自然とその名が広まって行き、有名人となる。

 今、自分と同席しているのは、そういう人達だ。


「君の予想した通り、やはり五階の構造がまるっきり別物になっていたよ。その上、六階へ進む階段も何処にも無いようだ」


 この男はジーク。古代の遺産を持ち帰り、王へ献上した事で金勲章を与えられたパーティのリーダーを担うロードだ。人間でありながら信仰に厚く、僧侶の呪文を全て修得したと聞いている。『黄金の聖騎士』などと冒険者らしからぬ通り名で呼ばれたりもする。

 現在は、ダンジョンに起きている異変の調査を先導している。


「これが新しく書き直した五階の地図よ。所々侵入出来ない空間はあるけど、周囲に隠し扉は見つからなかったわ」


 小さい身体でせっせと地図を広げているのがニンベル。最近ジークの調査パーティにスカウトされた一人である。

 魔法が得意な妖精でありながら、忍者をやっている変わり者だ。ただしその戦闘能力は本物で、今までに数多の魔物を葬って来た。付いた異名は『首切り妖精』。何とも物騒で恐ろしい。


「うーん、ダークゾーンのせいで仕掛けを見落とし易そうですが、ニンベルさんがそんなヘマするとは思えませんねぇ。ノブさんは何か気付いた事はありましたか?」


 今自分を名指しして来たエルフのビショップがソフィア。かつてはジークのパーティの一員としてダンジョン探索に参加ていたらしいが、今は毎日冒険者の酒場に入り浸って、本を読みながら飲み食いするだけの日々を過ごしている。

 以前は彼女に関する是非曲直入り混じった様々な噂も流れていたが、最近は一人の若い冒険者にご執心で、その事に関する噂で上書きされたようだ。


 ただし、どんな噂が有ろうがソフィアの知識と知恵は本物だ。故に彼女は『生きる叡智』と呼ばれる事もある。だからこそ、探索に行き詰まると今もジークは彼女を頼るのだ。頭の良くない自分では、とても彼女の代わりは務まらない。


「あっしは暗所の得意な獣人って理由で呼ばれただけの用心棒っすから。調査ならソフィアさんが出向いた方が、気付く事も有るんじゃないっすか?」

「無理ですよ。私は上層の探索では足手纏いにしかなりませんから」


 探索とは戦闘と調査どちらもこなさなければならない。戦闘は兎も角、仕掛けを調べたり石碑を読み解いたりする必要がある調査では知識が物を言う。ソフィアが足手纏いのはずが無い。

 謙遜も過ぎれば嫌味だと小言の一つでも言おうと思った所で、ジークに遮られた。


「そうだな、上層探索はソフィアでは厳しい」

「ま、元パーティのジークちゃんが言うならそうなんでしょう」


 ジークの意見にニンベルも同意する。

 そんな馬鹿な、と思ったものの、自分が未熟だからその辺の塩梅が分からないだけなのかも知れない。

 正直、考えるのは得意では無いので、これ以上余計な話をするのは止めておく事にした。


「じゃあ、やはり今持ってる材料で考えるしか無いんすね。となると……」

「ああ、このアイテムが関係有るかは分からないが、兎に角調べてみるしか無いだろう」


 テーブルの上に置かれた薄い板切れ。五階の探索時に発見した、用途のよく分からないアイテムだ。見た事も無い物体だったのでとりあえず持ち帰ってみたが、ソフィアでも鑑定出来なかった。最悪の場合、アイテムですら無いただのゴミの可能性も有る。


「どの素材鑑定にも一致しないなんて初めてですね。少しだけしならせる事が可能な硬い物質、というくらいしか分かりません。せめて同じ様な素材の物が他にあれば、関連性を見出せる可能性は有るのですが」


 こんな得体の知れない物でも、取っ掛かりがあれば鑑定の道筋は有るらしい。まあ、そんな芸当が出来るビショップはソフィアくらいなものだろう。

 しかし、残念ながら見つけたアイテムはこれだけしかない。つまりお手上げである。

 それにしても、動物、植物、鉱石どれにも一致しない素材とは何なんだろうか。板切れを手に取ると、ぼんやりと眺めてみた。


「……ノブさん、食べちゃダメですよ?」


 ソフィアの指摘にハッと我に返る。

 獣人の習性で、無意識に匂いを嗅いで確認してしまったらしい。勿論食べるつもりなど毛頭無かったが、少し恥ずかしい姿を見せてしまい頭を掻いて誤魔化した。

 しかし、この不思議な材質の匂いは、最近何処かで嗅いだ記憶がある。直感頼りで記憶力に自信は無いが、ダンジョンの探索中だったはずだ。暗闇の中で嗅覚が鋭くなっていたから気が付いた知らない異臭。


「すいません、つい癖で。けど、そのおかげで思い出したっす。似たような素材、確か、穴の所の壁にあったヘンテコな突起。アレが同じような、嗅ぎ慣れない材質だったハズっす」

「あー、落とし穴の横の壁にあったヤツね! ボタンかと思ったけど、押せも動かせもしなかったあの四角い箱状のヤツ」


 自分の下手くそな説明でも通じたようで、ニンベルは補足説明を入れてくれた。ジークもその場に居たので理解したようだが、現場に居なかったソフィアだけは首を傾げている。


「どんな形の物か、ちょっと描いて頂けますか?」


 ソフィアはそう言うと、こちらに紙とペンを差し出して来た。


「んー、そんな変わった形じゃなかったっすよ。こう、筆入れ位の箱みたいな形の」

「確かに箱ですね」


 紙に描かれたただの箱を睨みながら皆で首を傾げる姿は、側から見たら実に滑稽だろう。しばらくウンウンと唸っていると、ニンベルが何かを思い出したように絵に手を加えた。


「暗闇でちゃんと見た訳じゃ無いけど、多分こんな溝があったわ」


 自分の大きい手では気付かなかったが、あの箱には妖精なら気付く程度の細い溝があったらしい。箱に一本線が引かれ、正確な絵図が完成した。


「いやいや、だから何だって話っすよ。やっぱりただの箱じゃないっすか」

「あはは、だよねー」


 だが、呆れて溜息を吐く自分達とは違い、ソフィアはもう一度板切れを手に取ると、絵を睨みながら真剣に考え始めた。

 その目は既に板切れの正体に関する興味を失い、もっと難しい事を考えているように見えた。いずれにせよ、何かしらの糸口は見つかったらしい。


「本を取って来るので、少し待っていて下さいね」


 そう言い残すと、ソフィアは酒場の奥の階段を昇って行ってしまった。聞いた話だと、彼女は宿屋ではなく酒場の二階の空き部屋を根城にしているらしいので、自室へ向かったのだろうか。


 ソフィアを待つ間、残された三人で情報を交わす。

 異変が起きているのはダンジョンばかりでは無いようで、城の方でも何やら問題が起きていたらしい。ニンベルが噂話で伝え聞いただけで真偽は定かでは無いが、王が数日の間失踪し、何事も無かったように戻ったそうだ。

 考える事が苦手な自分は無駄に考えを巡らせるのは早々に止めて、酒を飲みながら聞き役に回った。


 そうして情報交換をしていると、ソフィアが一冊の本を持って戻って来た。いつも彼女が読んでいるような分厚い本ではなく、小説が書かれているようなやや小さめの本だ。


「お待たせしました。この本に皆さんに見て欲しい物が載っています。……ここです」


 ソフィアは席に着いて本を開くと、説明を述べながら迷う事無く一つのページを差し示した。

 そこには、先程紙に描いた絵によく似た細い溝のある箱と模様の描かれた板切れが、説明書きと共に記載されていた。


 その絵の下には、『カードキースキャナー』という名前が併記されていた。


「なんすか、コレ? 扉を開ける、キカイ?」

「説明を読むと、鍵の一種のようだね。魔法の鍵だろうか?」

「んー、でもこの『カードキー』に描かれた模様が全然違うわね。これだと魔力的な意味がまるっきり変わっちゃいそうだけど、本当に鍵の役割を果たすのかしら?」


 本の内容について三者三様に考えを述べ、最終的にソフィアに意見を求めて視線を集めた。


「これは、この溝に『カードキー』という板を通すと開く鍵だそうです。魔力を用いた魔法道具ではなく、『磁気』という概念で魔法の鍵に似た機能を果たす物みたいですね。『プラスチック』という未知の素材で出来ているそうで、素材鑑定では識別出来ませんでした」


 聞いた事も無い言葉が次々に並び、自分は完全にお手上げ状態だが、これが鍵という事だけは分かった。それだけ分かれば、ダンジョンの道は開けそうだ。


 しかし、ソフィアはいつになく真面目な表現を浮かべると、静かに本を閉じて表紙を見せた。

 その表紙に書かれた題名に、皆唖然としてしまった。


「これは、見ての通り『異世界に関する雑記』という本です。昔、異世界人を自称する奇人が、自分が住んでいた世界について纏めた書物と記録されています。正直なところ、皆さんが持ち帰ったこの板切れが『カードキー』だと思い当たるまで、空想事を纏めただけの本だと考えていました」

「魔力を使わず魔法に似た効果を発揮する道具なんて、眉唾物と思うのも仕方ないな」

「そうですね。けれど、これが異世界の道具と判明した以上、もはや問題の本質はこのアイテムの使い道ではありません」


 そこまで言われれば、流石に頭の良くない自分でも分かる。

 構造が丸々変化した五階。そこにあった異世界の技術を用いた鍵。


「ソフィアさんは、ダンジョンの一部が異世界化したと考えてるんすね」

「流石はノブさん、察しが良いですね。ダンジョンが造り変えられたか、空間自体が入れ替わってしまったか、過程は定かではありません。けれどあのダンジョンの五階から先は、もはや私達の常識が通用しない異世界と化している可能性が高いと考えて挑んだ方が良いでしょう」


 何やらとんでもない大きな問題が起きている事が判明してしまった。もはや自分達だけで解決出来る話ではないだろう。

 それを一番理解しているのは、ダンジョンの最前線に身を置いて来たジークだ。彼は顎に手を当ててしばらく考え込んだ様子を見せていたが、決意したように顔を上げた。


「明日、冒険者の皆に状況を説明しよう。問題を共有して不慮の事故を減らす為と、少しでも多くの冒険者に調査して欲しいからだ。併せて騎士団へも協力を要請しに行く。異世界の影響は未知数だ。国の危機にすら発展する可能性がある。冒険者だけで考える問題ではないだろう」


 目的を見定めたら即断即決、それがジークの性格だ。彼が持つリーダーの資質に、毎度感心させられる。

 騎士団という言葉には少しばかり警戒心を覚えたが、ソフィアが特に何も言及しなかったので、自分も不安を煽るような言及は避けておいた。

 ジークの提案に皆が同意して本日の議題は締められ、飲み会が始まった。




 だいぶ酔いが回り皆が饒舌になって来たところで、最近賑やかなソフィアが今日は聞き役に徹している事に気が付いた。珍しい事もあるものだと思ったが、いつものお気に入り娘の話を延々と聞かされなくて済むのは有難い。

 だが、そう安心していたのは自分だけだったようだ。


「そういえばソフィア。君が最近よく話している例の冒険者とはその後どうなったんだい?」

「あっ! あたしも聞きたい聞きたい。ねえねえ、もうヤッたの?」


 ジークはまあ仲間思いだから、気に掛けるのは仕方ないだろう。だがニンベルはいったい何を言い出すんだ、この酔っ払いが。

 恐る恐るソフィアの様子を伺うと、特に気にする様子も無く落ち着いている。ただし気持ち悪いくらい眩しい笑顔を浮かべていた。


「いやですよ、ニンベルさん。私とあの子はプラトニックな関係を築いているんですから。それにあの子は今、気持ちの整理が必要な時期なんです」


 そう言って憂いを帯びた表情を浮かべると、ソフィアは酒を一口含んだ。その雰囲気は美貌も相まって、見る者によっては非常に色気を感じた事だろう。

 しかし騙されてはいけない。これは、詳しく話したい、詳細を聞いて欲しいという彼女の主張だ。これに乗ると、長話に付き合わされるのだ。よせ、ジーク、興味を示すな。


「何かあったのかい?」

「聞いてくれますか!」


 ああ、何とか目配せで止めようとしたが駄目だった。

 そこからはいつものソフィア劇場が始まった。


 あまりにも長いので要約すると、例の新人冒険者パーティはダンジョンで別のパーティに探索の協力を持ち掛けられたらしい。

 その提案に乗ってしばらく探索し、ある程度戦利品が集まった頃に背後から攻撃され、仲間の僧侶が大怪我を負ってしまったようだ。回復役の僧侶を真っ先に狙う辺り、手慣れた強盗集団だったのだろう。

 何とか逃げ帰り僧侶の一命は取り留めたものの、共闘に乗ってしまって仲間を危険に晒した事について、リーダーの立場としてずっと悔いているとかそんな感じの説明だった。


 冒険者をやっていれば協力する事も裏切りに遭う事もよく有る事だ。わざわざ口にはしないが、つまらない話である。


「ふーん、つまらない話ね。あ、でもソフィアちゃんの頭おかしいテンションはめちゃくちゃ面白いよ」


 妖精は元々口の軽い種族だが、更に酒まで回っていては歯に衣着せる事など不可能だろう。ニンベルが無遠慮に話を一蹴してケラケラ笑ったせいで、ソフィアは膨れっ面になってしまった。


「いや、騙し討ちに遭って傷付くのは当然だろう。その上で自分の生き方と現実を擦り合わせ、折り合いを付けて行くのが冒険者というものだ」

「そうなんですよ、そうなんですよ、流石ジークさん! あの子、最近酒場に来ていないんですけど、それは別に冒険者が嫌いになったとかではなくてですね、ちゃんと折り合いを付ける為みたいなんです。今は良い冒険者も疑ってしまいそうで、特に私の事を悪い冒険者だと疑うのが嫌だからって、気持ちの整理が付くまで会わないようにしてるんですって! 健気ですよね! しかもこんなに私の事を意識してくれてるなんて、嬉しすぎます! ああでも私はあの子が可愛すぎて襲っちゃう可能性があるので、ある意味では私も悪い冒険者かも知れませんね!」

「え、あ、うん、そうだね……?」


 ジークはジークで何故いつも真面目に付き合ってしまうのか。こうなるのは分かっていただろうに。

 結局、ソフィアが早口で喋り続け、ジークが困り顔で延々と話に付き合い、ニンベルが腹を抱えてひたすら爆笑し、夜は更けて行った。

 国の危機とも言える情報を握っているのがこの人達で大丈夫かと一抹の不安を覚えたが、きっと彼等なら何とかしてしまうに違いない。

 今、自分と同席しているのは、そういう人達だ。

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