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嫉妬【グレイス視点】

 あの女はいったい何なのよ!!


 グレイスは、(ひざまづ)き足に奉仕をしていた男を、怒りのまま蹴り上げる。


「目障りだわ! 下がりなさい!!」


 可愛い下僕達との楽しい時間もあの女を思い出すだけで腹が立ち、興が乗らない。グレイスは、側に(はべ)らせていた麗しい男達を下げ、一人になり考える。


 アイシャとか言う女が町のカフェへ一人で出かけている事を知り、以前から考えていた計画を実行することにした。町のゴロツキにあの女を襲わせる計画。専属執事セスを使い、裏界隈の元締めにゴロツキを融通させるように指示したまではよかった。


 セスから聞かされた情報を元に、お気に入りの下僕をリアムに見立て、町へとくり出した。情報通り、カフェの窓際の席で、あの女が一人でお茶をしているのを発見し、計画を実行した。


 あの女から見える位置のベンチに座り、下僕とイチャつき、(おび)き出すことに成功したまでは良かった。裏路地に上手く誘い込み、あの女がゴロツキ連中に、めちゃくちゃに犯されるのを高みの見物と決め込むはずだったのに。


(何故、あの場面で本物のリアムが現れるのよ!!)


 己の目の前でくり広げられる急展開に、グレイスは、その光景を唖然と見つめることしか出来なかった。


 突然現れたリアムに、ゴロツキはあっという間に倒され、しかも、リアムとアイシャが抱き合っていた。泣きじゃくるアイシャを大切そうに抱き締めたリアムは、彼女の背をあやすように撫で続けていた。


(何なのよ! あの親密な雰囲気は!!)


 あんな甘い態度、一度たりともリアムにされた事などない。


 リアムとの婚約は、グレイスの白き魔女としての力を手に入れるためだけに、ウェスト侯爵家が打診したものだ。リアムからの高価なプレゼントや手紙は、婚約者としてご機嫌取りをしているにすぎない。会いに来ても、どこか距離を感じる。夜会でのエスコートや、伯爵家でお茶を共にしていれば分かる。あの男は決して自分に落ちないと。

 

 少し気がある振りをし、軽度なスキンシップを謀れば、どんな男だろうと簡単に自分に落ちる。その後は、思いのまま操れば良い。全てが自分の思い通りになる。しかし、リアムは違う。過度に身体を密着させようと、上目遣いで誘惑しようと簡単にかわされる。笑顔でやんわりと距離を取られ、それ以上近づくことを避けるように、人目がある場所へと連れ出される。


(私に落ちない男なんて……)


 ヒロインである私の魅力に落ちない攻略対象者がいるわけがない。リアムの態度は、グレイスのプライドをズタズタにした。


(その理由が、あの女だったとでも言うの!?)


 抱き合う二人のシーンが脳裏を巡り、グレイスの腹わたが煮えくりかえる。本来であればヒロインたる自分をリアムは愛すべきなのだ。それなのに、あの女にヒロインの座を奪われた。


 あの様子だとリアムとアイシャは愛し合っていた。


(あの女が私からリアムを奪う……、しかも、リアムが去った後に、キースに抱き上げられ連れ去られるって、どう言うことなのよ!! あのポジションはヒロインである私のものなのに!)


『町で悪役令嬢に雇われたゴロツキに襲われたグレイスが、攻略対象者のキースに助けられ、初めて出会う大切なシーン』


 怪我を負ったグレイスを抱き上げ、見つめ合う二人の美麗なスチル。一番のお気に入りのシーンが、何故かヒロインではなく、あの女に代わっていた。

 

(ヒロインは、私なのに……、あの女がヒロインのポジションを奪っていく)


 あの女は、この世界にいらない。乙女ゲームの世界に存在しないあの女は、消えなくてはならない。


 アイシャに対する嫉妬心が、グレイスの心を真っ黒に染めていく。仄暗い笑みを浮かべたグレイスは、テーブルに置かれた果実に、ナイフを突き刺す。


(あの女を、この世界から抹殺すれば、全て上手く行く。最推しのキースだって、私に落ちないリアムだって、血迷って、悪役令嬢と婚約したノア王太子だって、私を愛するようになる。あの女を殺せばいい……)


 グレイスは果実に突き刺さったナイフを手に持ち抜くと、手短にあったクッション目掛け、ナイフを振り下ろす。何度も、何度も、グサグサと突き刺せば、羽毛が飛び散り宙へと舞う。その光景を眺め、グレイスの笑みは益々深くなる。


(ほらっ……、神様も私を祝福している。やっぱり、私がこの世界のヒロインなのよ)


 元々、この乙女ゲームの世界に、あの女は居なかった。あの女を排除すれば、大好きな乙女ゲームの世界に戻る。


――――だって、私はこの世界のヒロインなのだから……


 宙を舞い落ちる真っ白な羽が、ランプの光を受けキラキラと輝く。その様を恍惚な表情を浮かべ眺めるグレイスの狂気は止まらない。高笑いが響く部屋の中、あらゆるものを切り裂き続けたグレイスの視界は、真っ白に染まっていった。

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